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しおりを挟む「ごめん、鈴村さん」
不意に雨宮くんが、あなたの言葉を遮る。
「なんか、もう時間切れみたい」
唐突に放たれる宣告。どういう意味?――あなたはそこで、彼の身体が消えかかっていることに気づく。淡い水彩画のようにぼやけ、なんだか瞬きひとつで消滅してしまいそうな儚さ。
(うそ……)ちょっと待って。そんなに急がなくてもいいじゃん――恐るおそる彼に触れてみる。向こう側まで透けて見えそうな肌、曖昧な質感は冬の靄をつかんでいるみたいなうすら寒さを覚える。
「嫌だ、行かないで」
かすかに震えた唇から洩れる声。困らせると分かりきってるワガママ。ほんとはこんなこと、言いたくない。だけど、だって、まだちゃんと伝えられてない。案の定、雨宮くんは困ったような笑みを浮かべ、あなたの頭を撫でる。
「そんな顔しないで。……きっと、また会えるから」
ばか。それじゃあ最後って言ってるようなもんじゃない。あなたは詰ろうにも、声は枯れた花のように萎れ、声にならない。
辛うじて伝わる、彼の手の温もりがこわい。あたしの身動ぎひとつでこの感触が崩れてしまいそうで。
ふと、一抹の不安があなたを襲う。「もし目を覚まして、現実のきみまで居なくなっていたら……?」と。
あまりにも脈絡のない、飛躍した妄想。肥大化した憂懼。分かっていても、心に落とされた影はいたずらに広がり続けてしまう。
(いつもそう。信じるためには長い時間が必要なのに、不安は一瞬で膨れあがるんだ)
こんなあたしの、どこが怖いんだって話。たしかに男勝りで喧嘩っ早いところは認めるけれど。一部の男子には敬遠され、面識のない野球部の後輩がいきなり挨拶してきたり。更にごく一部の女子からは、こそばゆい視線――まるで推しのアイドルに注ぐようにキラキラした――を向けられているあたしの正体が、これ。想像と噂のブレンド。ハリボテの武装。
(それでも……)
それでも、君だけは――
「……あーあ、でも残念だな」欠伸を噛み殺しながら、雨宮くんが言う。あなたの大好きな――あたしだけの――木洩れ日の笑顔は透け、今はもう半透明のビー玉みたい。「鈴村さんと一緒に勉強できるの、楽しみだったのに」
あなたは溢れる涙を必死に抑えこみ、いたずらっぽい調子で揶揄する。
「勉強って言っても、どうせ、あたしの答え写すだけでしょ」
声が震えなかったことで、あなたは秘かに胸を撫で下ろす。自分を褒め称えてあげたい。雨宮くんは「えー、そんなことないよ」と笑うも、露骨に視線を反らしている。
雨宮くんと同じようにあなたも外の景色を見る。夕焼けの空。町は幻想的な赤に染められている。萎みかけの太陽は、きっともう触れるほど冷えているはず。
図書室の窓ガラスに、ふたりの姿が映っている。ちょうど並んで立つあなたと彼の肩のあいだを、太陽は沈んでいく。
それを見て、あなたは彼と初めて話をした日のことを思い出す。あの時もこうして、窓からの景色を眺めていた。
唯一違うことと言えば、目線の高さだろうか。あの時は同じくらいの身長だったのに、(いつの間に大きくなってたんだろう――)今は向こうのほうが、ちょっとだけ高い。
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