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しおりを挟むあなたの懸念なんて露知らず、雨宮くんはデザートに取り掛かっている。ミルクアイスが乗ったシナモンフォッカチオ。……こんなの注文してたっけ?
「良い感じに溶けてきた」フォークの尖端でアイスを突く、雨宮くんの呟きが弾んでいる。その声だけで、あなたは彼の表情を思い描けてしまう。一瞬だけ、そっと盗み見るように視線を向ける。秘密の答え合わせ。そこには案の定、イメージと寸分の狂いもない、幸せそうにはにかみ、自分の世界に浸っている雨宮くんがいた。誕生日プレゼントを貰った子どもみたいに目を輝かせて。
(ひとりだけ美味しそうなもの食べちゃって。ちゃっかりしてるんだから、もう)
顳顬に手を当てて溜め息を吐く。半開きになった、彼の薄ピンク色の唇。みっともない。「そんな風にアホ面で口開けてたら虫が入るよ。だらしない」そんな嫌味の一つでも言いたくなったが、それも彼が纏うふわふわ癒し系オーラに当たり、どうでもよくなってしまった。
総じて彼はマイペースでひょうきん者。けれど肝心なところで抜け目なく、あなたは常々感心している。感心と、愛おしさ、安らぎ。心にゆとりがない時、あなたは白けちゃって、呆れ半分、僻み、きつい口調で責め立ててしまうこともあるけれど。
(ほんと、全然真逆のタイプだよなあ……)
つくづく思う。恋愛は、似た者同士のほうが長続きするって、あれは嘘。少なくとも、あたし達の関係には当てはまらない。世間のジンクスなんて通用しない。まだ付き合って半年しか経ってないし、喧嘩することも珍しくないけど。
生まれて初めて、これだけたくさんの感情を、ひとりの男の子に抱くことが出来たんだもの。自分でも信じられない。まさか、こんなに脆く儚い、普遍的で揺るぎないものが、あたしの胸の内に芽吹くなんて。
(あたしは大丈夫。今のままで十分楽しい。だけど、君はどうなんだろう……?)あたしにとっての君のように、君にとっても、あたしは掛け替えのない存在になれているのかな。
「茜さんって」
不意に声が降り、あなたはぴくり、肩を震わす。振り向くと雨宮くんは頬杖をつき、傍らの窓から外に視線を向けていた。その涼しげな横顔に容赦なく睥睨の眼差しを注ぎながら、
「……なに」
「茜さんって寝言、結構言うんだね。授業中とか寝てても静かなのに」
「う、うるさい!」
ばんっ、とテーブルを叩き、あなたは身を乗り出す。グラスが揺れ、中身の腑抜けたカルピスソーダが跳ねる。「わーっ最悪! 教科書濡れたんだけどっ」紙ナプキンで応急処置を施すあなたの真向かいで、そんなトラブルも意に介さない様子の雨宮くんは、変わらず外を眺め続けている。
「他にも色んなこと呟いてたよ。バスケ部の先輩がどうのこうの~って。うちの高校、バスケ部なんてあったっけ?」
「いや全く覚えてないけど。ていうか、それどころじゃないのよ見てこれ教科書汚れちゃったの! もう嫌だ、破れたら萎えるんだけど――」
あなたは一頻り騒ぎ立てると、不意に彼の視線が気になり、いくらか落ち着いた口調で尋ねる。
「……ねえ。さっきから何を熱心に見てるの?」
「んー? ああ……猫だよ」
「猫?」
「ほら、あれ。あそこの狭い路地。猫がこっち見てるの、分かる?」
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