ヒカリサザンカ

OKAYU*

文字の大きさ
10 / 13

P.10

しおりを挟む

 あなたの懸念なんて露知らず、雨宮くんはデザートに取り掛かっている。ミルクアイスが乗ったシナモンフォッカチオ。……こんなの注文してたっけ?

「良い感じに溶けてきた」フォークの尖端でアイスを突く、雨宮くんの呟きが弾んでいる。その声だけで、あなたは彼の表情を思い描けてしまう。一瞬だけ、そっと盗み見るように視線を向ける。秘密の答え合わせ。そこには案の定、イメージと寸分の狂いもない、幸せそうにはにかみ、自分の世界に浸っている雨宮くんがいた。誕生日プレゼントを貰った子どもみたいに目を輝かせて。

(ひとりだけ美味しそうなもの食べちゃって。ちゃっかりしてるんだから、もう)

 顳顬こめかみに手を当てて溜め息を吐く。半開きになった、彼の薄ピンク色の唇。みっともない。「そんな風にアホ面で口開けてたら虫が入るよ。だらしない」そんな嫌味の一つでも言いたくなったが、それも彼が纏うふわふわ癒し系オーラに当たり、どうでもよくなってしまった。

 総じて彼はマイペースでひょうきん者。けれど肝心なところで抜け目なく、あなたは常々感心している。感心と、愛おしさ、安らぎ。心にゆとりがない時、あなたは白けちゃって、呆れ半分、ひがみ、きつい口調で責め立ててしまうこともあるけれど。

(ほんと、全然真逆のタイプだよなあ……)

 つくづく思う。恋愛は、似た者同士のほうが長続きするって、あれは嘘。少なくとも、あたし達の関係には当てはまらない。世間のジンクスなんて通用しない。まだ付き合って半年しか経ってないし、喧嘩することも珍しくないけど。

 生まれて初めて、これだけたくさんの感情を、ひとりの男の子に抱くことが出来たんだもの。自分でも信じられない。まさか、こんなに脆く儚い、普遍的で揺るぎないものが、あたしの胸の内に芽吹くなんて。

(あたしは大丈夫。今のままで十分楽しい。だけど、君はどうなんだろう……?)あたしにとっての君のように、君にとっても、あたしは掛け替えのない存在になれているのかな。

「茜さんって」

 不意に声が降り、あなたはぴくり、肩を震わす。振り向くと雨宮くんは頬杖をつき、傍らの窓から外に視線を向けていた。その涼しげな横顔に容赦なく睥睨へいげいの眼差しを注ぎながら、

「……なに」

「茜さんって寝言、結構言うんだね。授業中とか寝てても静かなのに」

「う、うるさい!」

 ばんっ、とテーブルを叩き、あなたは身を乗り出す。グラスが揺れ、中身の腑抜けたカルピスソーダが跳ねる。「わーっ最悪! 教科書濡れたんだけどっ」紙ナプキンで応急処置を施すあなたの真向かいで、そんなトラブルも意に介さない様子の雨宮くんは、変わらず外を眺め続けている。

「他にも色んなこと呟いてたよ。バスケ部の先輩がどうのこうの~って。うちの高校、バスケ部なんてあったっけ?」

「いや全く覚えてないけど。ていうか、それどころじゃないのよ見てこれ教科書汚れちゃったの! もうだ、破れたら萎えるんだけど――」

 あなたは一頻ひとしきり騒ぎ立てると、不意に彼の視線が気になり、いくらか落ち着いた口調で尋ねる。

「……ねえ。さっきから何を熱心に見てるの?」

「んー? ああ……猫だよ」

「猫?」

「ほら、あれ。あそこの狭い路地。猫がこっち見てるの、分かる?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...