12 / 13
P.12
しおりを挟むファミレスを出ると、外は爽やかな空気で満ちていた。季節のグラデーション。夕暮れだけ、ひと足早く秋めいているみたい。あなたはふと、金木犀の匂いがどこからともなく運ばれてくるような気配を感じた。
時々そよ風が吹く。それは季節の中でいちばん人見知りな風だった。あなたと雨宮くんの繋がれた手を遠慮がちに撫で、逃げるように去って行く。そうして肌に冷たい風が触れると、あなたは「雨が降って来たのかな?」と勘違いし、繋いでない方の手を空にかざしてみたりした。
(そういえば、もうすぐ一年が経つんだな……)
茜色の帰り道。河川敷に咲くたんぽぽを見かけ、雨宮くんの脳裏に蘇るあの日の記憶。
彼が、あなたに告白した時のこと。
すべてを鮮やかに思い出せる。ちょうど今くらいの夕暮れだった。町は秋うららで、ここに咲くたんぽぽの花は綿毛に変わっていた。虹色の順番に染まる空。優しい空気に溶けた、どこかの家のシチューの香り。初めて重なった二人の影……。
「あーあ、早く十月にならないかな。夏服だと肌寒い日があるんだもん」
あなたは口を尖らせて愚痴をこぼす。繋いでいる手を大きく振るから、回想に耽っていた雨宮くんは足がほつれて転びかける。
「……別にいいでしょ。僕のカーディガン、いつも勝手に着るんだから」
「あっ。あれ見て、昴!」彼の言葉を完全にスルーして、あなたは東の空を指さす。「月がめっちゃ大きい! すごくない? なんか、月ってたまにめっちゃ近くに感じることあるよねー」
自由奔放にはしゃぐあなたに、雨宮くんは小さく肩を竦める。けれど。やれやれと苦笑を浮かべる表情は、何となく楽しそう。束の間、あなたの夕映えの横顔に見惚れ、月に視線を移す。町の建物に支えられるように浮かぶ月は、太陽と同じ黄金色だった。
「……ほんとだ。ちょっと欠けて見えるから、明日くらいに満月なのかな。……ちょっと本気で走ったら追いつけそう」
突然、彼は走り出した。指を絡めて握っていた手がほどかれ、あなたは怪訝そうな顔。切れ長の目で何度も瞬く。
「昴……?」
何が起こっているのか理解できず、あなたは呆然と立ち尽くす。あっという間に小さくなる彼の背中。その光景がふと、ファミレスで見た不明瞭な夢の断片と重なり、あなたの胸に一抹の不安が生まれる。
「ねえ、昴ってばー!」
河川敷に響くあなたの声。あたしを置いてどこに行くの? 雨宮くんは肩越しに振り返り、負けじと声を張り上げる。
「どっちがさきに駅に着くか競争だよ―っ。負けたほうは駅ナカのドーナツ奢りで!」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる