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OKAYU*

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 友人でも恋人でもない。似ているけれど、だからこそ決定的にちがう、名状しがたい繋がり。もっと秘めやかで、かけがえのない関係性。その特別感に当時のあたしはとても固執していた気がする。どうしてかな。

 特別な関係。少なくともあたしはそう信じていたし、異性にたいしてのみ向ける類の立ち振る舞いアプローチ――そのような不純な波動(?)をかれから嗅ぎ取った試し、一度もなかった。それとも、あたしが鈍すぎたのかな……なんて、ちょっと自惚れてるみたい。


 一陣の乾っ風が吹き抜ける。ピアスのついてる耳が痛い。襟を掻き合せて、空を仰いでみる。かつてのかれがぼうっと見上げていたように。冬の空は濁った色をしていて、ぼやけた雲の輪郭と区別がつかない。

 あの頃は気にも留めなかった。かれは何を見ていたんだろう。何が見えていたんだろう。

 朝のホームルーム前の図書室、大人びた顔つきを縁取る優しい日ざし。昼休憩の階段下倉庫、ふしぎなお箸の持ち方。放課後の遠回りを極める帰り道、
あっという間に伸びてしまう影、バイバイを先回りして込み上げてくる切なさ、明日が待ち遠しくて堪らなかった。通い慣れた道のり――

 とくに放課後は、いちばん時間を共有することが多かった。霜柱を踏み鳴らす足音シンフォニー。髪に降りつもった雪の王冠。赤くなった鼻のさき。グラウンドから響きわたる笑い声のイルミネーション。透明よりきれいな世界……

 耳を澄まさなくても鼓動がきこえそうな距離にいながら、あたしはかれのこと、何も知らなかった。知らなくていいとさえ思っていた。かれと別れたあとの帰り道とか、お風呂に浸かっているひととき、夢に誘われるのを待つベッドのなかで、ぼんやり好き勝手に想像するのがすきだった。

 名前のない秘密の関係。そもそも……あたしはまだ、のろのろ考えあぐねる――友人とか恋人の定義って、なんなの? かならずひとつではないはず。おんなじ感性できもちを重ねているようで、ひとの性格は余すところなくグラデーションになってるんだから。……うまく説明できないけれど。


 ため息をひとつ、そっと溢す。何はともあれ、かれが同窓会を欠席してくれてよかった。あたしらの間に不協和音はながれてないけれど、果たしてどんな顔で再会しろというんだろう。

 そのとき、足もとにからみつく気配がした。柔らかくて軽いもの。てっきり植物の蔦かと思ったら、正体は野良猫だった。全身に落ち葉をくっつけている。キジトラ柄とおそろいの色。こんなに寒いのに、こんなところでひとり、何をしているの?

 フレアワンピースの裾に頭がかくれるほど近づくから、うっかり踏んでしまわないよう歩幅を狭めに心がける。

 ごめんだけど、あたし、食べものとかもってないの。だけど市街地に行けば、あなたの気にいりの住処が見つかるかも。もしよかったら、付いておいで。


 母校まで半分も達してないという段階で、踏切に差し掛かった。いかにも田舎らしい、風情ただよう踏切である。徒歩通学のかれとはここで別れるのがスタンダードだった。

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