純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

文字の大きさ
125 / 177
第七章:恋を知る夜、愛に包まれる朝

第123話・果てしない想いの先で

しおりを挟む
フィンの無垢で真っ直ぐな愛に包まれ、
すっかり力を抜いたルナフィエラを、ヴィクトルがそっと抱き寄せた。

「……ルナ様。今度は私が」

低く甘い声とともに、彼の温もりが彼女を包み込む。
その瞬間、紅い瞳が大きく揺れ、小さく息を呑む。

(……触れられただけで、こんな……)

呼吸は浅く、胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。
その変化に戸惑いながらも、彼女はそのぬくもりに身を委ねていった。

「……ヴィクトル……ごめんね………ちょっと、休ませて……」

うるんだ瞳で懇願され、彼の胸が強く締めつけられた。

「……承知しました」

抱きしめたまま、そっと額を彼女の髪に預けるように伏せる。
けれど、胸の内に秘めた想いが静かに揺れ、微かな熱が疼いた。

気を逸らすように水差しを手に取り、彼は一口だけ口に含むと、そっと彼女へと寄せる。
冷たい雫が彼女の喉を潤すと、ルナフィエラはわずかに目を細めた。

「ん……っ」

小さな吐息が漏れ、彼女の睫毛がふるふると揺れる。

「……っ……」

ルナフィエラはぷくっと頬を膨らませ頬を赤らめる。
その愛らしさに、ヴィクトルは心が抑えきれず軋むのを感じた。

「……申し訳ありません、ルナ様……もう、これ以上は……」

彼女の静かな瞳が、すべてを受け入れるように見上げてくる。
そして、再びあたたかな空気に包まれた。


――やがて、ヴィクトルの腕から解き放たれたルナフィエラを、ユリウスが優しく抱き上げる。
ベッドに背を預けるよう導かれ、その膝の上に座らされた彼女は、彼の深い瞳に引き込まれるように見つめた。

「……ルナ。君の意思で、僕を受け入れてほしい」

その声は穏やかで、けれどどこか誇り高く、彼女の心に届いてくる。
紅い瞳を潤ませながら、小さく頷いた。

寄り添った瞬間、心の奥まで響くような感覚に、ルナフィエラは思わず息を呑む。

彼の指先がそっと髪に触れ、静かに唇が重なった。
胸の奥が温かく満ちて、思わず瞼が震える。

(……どうして、こんなに……)

支える腕はしっかりと強く、彼の囁きはまるで子守唄のように耳をくすぐる。

「……可愛いよ、ルナ。君は本当に、僕を夢中にさせる……」

その言葉に胸が熱くなる。

「ルナ……もっと、僕に委ねて」

彼の声が、深く心に染み込む。

それだけで、思考が霞み、何も考えられなくなっていく。
彼の温もりと言葉だけで、世界が満たされていくようだった。


――そして。

ユリウスの腕の中で静かに目を閉じたルナフィエラは、
ふと気づけば、もう自分の力だけでは動けないほどになっていた。

彼女を見つめるシグの眉が、ほんのわずかに寄る。

(……また、最後か)

その苛立ちは、彼女ではなく、自分に向けられたものだった。
小さな体に無理をさせないよう、いつも最後になる――
その役回りが、彼の胸に鈍く突き刺さっていた。

「……シグ……」

掠れた声が、空気の中に落ちる。

シグは答えず、背後からその小さな体をそっと抱きしめた。

全身に伝わる、逞しくあたたかなぬくもり。
その腕の中にいる限り、彼女は不思議と安心していられる。

彼の手が腰を支え、ゆっくりと背を撫でる。
その荒々しくも優しい動きが、ただ静かに心を満たしていった。


胸の奥がじんわりとあたたかくなり、
言葉にならない想いが、涙となって頬を伝う。

(……わたしは、愛されているんだ……)

彼ら全員に。

その事実が、何よりも彼女を包み、癒し、深く満たしていく。

最後にはただ穏やかに、
シグの腕の中で深く呼吸しながら――
ルナフィエラは、幸せに満たされたまま、意識を委ねていった。


幾度も優しい想いを注がれ、心まで満たされたルナフィエラは、穏やかな安らぎに包まれると、そのまま静かに意識を手放していた。
胸の奥から広がる幸福感に守られるように、深い眠りへと落ちていく。

「……寝ちまったな」

低く呟いたシグに、他の3人は静かに頷き合う。

ユリウスは彼女の衣服を整え、ヴィクトルは髪を撫でながら汗を拭い取る。
フィンは寝床を整え、毛布を掛けやすいように準備を進めた。
誰に言われるでもなく、それぞれが自然に役割を果たしていく。

最後に、シグがルナフィエラを抱き上げ、整えられた寝台へとそっと横たえる。
彼自身も隣に身を横たえ、大きな腕で彼女を包み込む。
柔らかな髪を撫でながら、眠りにつく彼女の頭を胸に抱き寄せた。

「……安心して眠れ」

囁きは低く、けれど優しく温かかった。

ルナフィエラの安らかな寝息が重なり、4人の胸に静かな安堵が広がる。
やがてユリウス、ヴィクトル、フィンもそれぞれの寝床に身を横たえ、
長い夜は穏やかに幕を閉じていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。 一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。 純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...