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第十章:星霜の果て、巡り逢う
第165話・知らないはずなのに、胸が覚えていた
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重い扉をくぐった瞬間、ひやりとした静寂が身体を包んだ。
外の喧騒とは別世界のような、深い静けさ。
背後で扉が閉まる音が響く。
その直後――
「……ルナ様……!」
振り返るより早く、温かい腕が胸元にまわりこんだ。
柔らかいのに、必死な力で抱きしめられる。
思わぬ接触に息が止まる。
なのに――怖くなかった。
むしろ、胸の奥に“ひどく懐かしい痛み”が走った。
(……どうして……?)
抱きついてきたのは、黒髪の青年。
肩が震えていて、耳元に荒い呼吸が触れる。
服越しに、涙の熱が伝わってくる。
「……よかった……また……会えた……」
途切れ途切れの声。
震えて、押し殺して、必死にこぼれ出すような声。
知らない人のはずなのに――
なぜか、この震えも、涙の温度も“知っている気がした”。
気づけば、ルナの手はそっと彼の背に伸びていた。
そっと添えただけなのに、青年の体がびくりと震える。
ゆっくり顔を上げたその瞳は、泣き腫らしたように赤く、それでも、私を壊れ物みたいに大事そうに映していた。
(……初めてのはずなのに……どうして……)
うまく息を吸えないほど、ぎゅっと締めつけられる。
「……ヴィクトル、落ち着け」
白金の髪の青年が、低く制する声をかけた。
その隣で、私をここへ連れてきた茶髪の同級生が小さく眉を寄せる。
「ヴィクトル、今のルナは前のこと、覚えてないんだよ。……いきなり抱きついたら驚かせちゃうでしょ」
「……覚えて……いない…のか…」
赤髪の大柄な青年がぽつりと呟く。
肩が少し落ち、その声音にはわずかな寂しさが滲んでいた。
けれど、みんなの視線は黒髪の青年ではなく、ルナへ向いている。
誰もが何かを堪えるような、でも必死に優しさを保つようなまなざし。
黒髪の青年は、依然として私を抱きしめたままだ。
背に添えた手を引くに引けず、私は戸惑いに固まってしまう。
――けれど、不思議だった。
怖くない。
嫌でもない。
ただ、胸の奥で“思い出せない何か”がそっと触れ続けていた。
ぼんやりとした懐かしさだけが静かに響いてくる。
黒髪の青年は、抱きしめる力を少しだけゆるめた。
けれど、離れる気配はない。
そのまま胸元の位置で、ルナの呼吸を確かめるように腕を回し続けている。
ルナはゆっくりと顔を上げた。
涙で濡れた頬。
必死に堪えようとした跡が残ったままの瞳。
ぐしゃぐしゃなのに――
私を見た瞬間、その瞳だけが優しく、どうしようもなく愛おしそうに笑った。
(どうして? こんな目で見られたら……)
胸の奥がじんわり熱くなる。
理由なんてなかった。
ただ気づいたら、指がそっと彼の頬へ伸びていた。
触れた瞬間、黒髪の青年は驚いたように目を見開く。
けど、そのあと──
ゆっくり、ゆっくり頬を寄せてきた。
まるで触れた手を大切に守るように、その頬をすり寄せてきて、大きな手が、ルナの指先に重ねられる。
あたたかくて、震えていて、どうしてなのかは分からないけれど──
(……もう、泣かないで……)
そんな言葉が喉の奥まで込み上げた。
背後から、低い溜息が落ちる。
「……少しは落ち着け」
白金の髪の青年が呆れたように言い、その隣の赤髪の青年も腕を組んだまま、「やれやれ」と言いたげに肩をすくめた。
茶髪の同級生は頬をふくらませていた。
「……ずるいよ。僕だってルナに触れたいのに……」
その声は完全に拗ねたトーン。
だけど、ルナはその理由が分からず胸がつんとした。
(……私、怒らせるようなこと、した?)
かすかな不安に胸が縮む。
けれどそれは恐怖ではなく、“知らない誰かに嫌われるのはいやだ”という小さな不安。
すると白金の髪の青年が呆れたようにため息を落とす。
「怒っているんじゃない。あれは拗ねているだけだ」
赤髪の青年も腕を組んだまま、「いつものことだ。前……から変わらん」と小さく肩をすくめる。
その言い方は、まるで昔から知っているようで。
落ち着いた声音は、胸の奥の緊張をそっと撫でてくれるようだった。
(……怒ってるわけじゃないんだ)
ルナは小さく息を吐き、緊張がゆるんでいくのを感じた。
黒髪の青年はその気配に気づいたのか、安心したようにルナの手を包む力をほんの少しだけ弱めた。
4人の視線はそれぞれ違う温度を持ちながらも、
同じ方向──ルナひとりにまっすぐ向けられている。
知らないはずなのに。
初めて会ったはずなのに。
それでも、ルナはなぜか彼らの存在を“恐い”と思わなかった。
ただ――
(……みんな、私のことを……知っている?)
その小さな疑問だけが、胸の奥に静かに灯っていた。
外の喧騒とは別世界のような、深い静けさ。
背後で扉が閉まる音が響く。
その直後――
「……ルナ様……!」
振り返るより早く、温かい腕が胸元にまわりこんだ。
柔らかいのに、必死な力で抱きしめられる。
思わぬ接触に息が止まる。
なのに――怖くなかった。
むしろ、胸の奥に“ひどく懐かしい痛み”が走った。
(……どうして……?)
抱きついてきたのは、黒髪の青年。
肩が震えていて、耳元に荒い呼吸が触れる。
服越しに、涙の熱が伝わってくる。
「……よかった……また……会えた……」
途切れ途切れの声。
震えて、押し殺して、必死にこぼれ出すような声。
知らない人のはずなのに――
なぜか、この震えも、涙の温度も“知っている気がした”。
気づけば、ルナの手はそっと彼の背に伸びていた。
そっと添えただけなのに、青年の体がびくりと震える。
ゆっくり顔を上げたその瞳は、泣き腫らしたように赤く、それでも、私を壊れ物みたいに大事そうに映していた。
(……初めてのはずなのに……どうして……)
うまく息を吸えないほど、ぎゅっと締めつけられる。
「……ヴィクトル、落ち着け」
白金の髪の青年が、低く制する声をかけた。
その隣で、私をここへ連れてきた茶髪の同級生が小さく眉を寄せる。
「ヴィクトル、今のルナは前のこと、覚えてないんだよ。……いきなり抱きついたら驚かせちゃうでしょ」
「……覚えて……いない…のか…」
赤髪の大柄な青年がぽつりと呟く。
肩が少し落ち、その声音にはわずかな寂しさが滲んでいた。
けれど、みんなの視線は黒髪の青年ではなく、ルナへ向いている。
誰もが何かを堪えるような、でも必死に優しさを保つようなまなざし。
黒髪の青年は、依然として私を抱きしめたままだ。
背に添えた手を引くに引けず、私は戸惑いに固まってしまう。
――けれど、不思議だった。
怖くない。
嫌でもない。
ただ、胸の奥で“思い出せない何か”がそっと触れ続けていた。
ぼんやりとした懐かしさだけが静かに響いてくる。
黒髪の青年は、抱きしめる力を少しだけゆるめた。
けれど、離れる気配はない。
そのまま胸元の位置で、ルナの呼吸を確かめるように腕を回し続けている。
ルナはゆっくりと顔を上げた。
涙で濡れた頬。
必死に堪えようとした跡が残ったままの瞳。
ぐしゃぐしゃなのに――
私を見た瞬間、その瞳だけが優しく、どうしようもなく愛おしそうに笑った。
(どうして? こんな目で見られたら……)
胸の奥がじんわり熱くなる。
理由なんてなかった。
ただ気づいたら、指がそっと彼の頬へ伸びていた。
触れた瞬間、黒髪の青年は驚いたように目を見開く。
けど、そのあと──
ゆっくり、ゆっくり頬を寄せてきた。
まるで触れた手を大切に守るように、その頬をすり寄せてきて、大きな手が、ルナの指先に重ねられる。
あたたかくて、震えていて、どうしてなのかは分からないけれど──
(……もう、泣かないで……)
そんな言葉が喉の奥まで込み上げた。
背後から、低い溜息が落ちる。
「……少しは落ち着け」
白金の髪の青年が呆れたように言い、その隣の赤髪の青年も腕を組んだまま、「やれやれ」と言いたげに肩をすくめた。
茶髪の同級生は頬をふくらませていた。
「……ずるいよ。僕だってルナに触れたいのに……」
その声は完全に拗ねたトーン。
だけど、ルナはその理由が分からず胸がつんとした。
(……私、怒らせるようなこと、した?)
かすかな不安に胸が縮む。
けれどそれは恐怖ではなく、“知らない誰かに嫌われるのはいやだ”という小さな不安。
すると白金の髪の青年が呆れたようにため息を落とす。
「怒っているんじゃない。あれは拗ねているだけだ」
赤髪の青年も腕を組んだまま、「いつものことだ。前……から変わらん」と小さく肩をすくめる。
その言い方は、まるで昔から知っているようで。
落ち着いた声音は、胸の奥の緊張をそっと撫でてくれるようだった。
(……怒ってるわけじゃないんだ)
ルナは小さく息を吐き、緊張がゆるんでいくのを感じた。
黒髪の青年はその気配に気づいたのか、安心したようにルナの手を包む力をほんの少しだけ弱めた。
4人の視線はそれぞれ違う温度を持ちながらも、
同じ方向──ルナひとりにまっすぐ向けられている。
知らないはずなのに。
初めて会ったはずなのに。
それでも、ルナはなぜか彼らの存在を“恐い”と思わなかった。
ただ――
(……みんな、私のことを……知っている?)
その小さな疑問だけが、胸の奥に静かに灯っていた。
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