純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第二章:4騎士との出会い

第13話・フィン・ローゼンとの出会い

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「……何故君が、ここに?」

その声は、何年も探し続けた人間にようやく再会したかのようだった。

フィンは一歩踏み出し、ルナフィエラの目をじっと見据える。

「……ずっと、探していたんだ。君が消えてしまってから、ずっと」

ルナフィエラの胸が、締め付けられるように痛む。

「でも……どうして……?」

10年前にほんの少し会い、姿を消した自分を、なぜ探し続けていたのか。
そこまでの執着を持たれる理由が、ルナフィエラには分からなかった。

フィンは少し目を伏せ、それから静かに答える。

「君がいなくなった理由を、何も知らなかったから」

「……え?」

「何があって、君がどこへ行ったのか、何もわからなかった。僕にできたのは、ただ君の行方を追うことだけだった」

フィンの声は、どこか悔しさを滲ませていた。

「君が無事なのか、それすら分からなかった。でも、生きているなら……どこかで君ともう一度会えるなら……そのときこそ、君の言葉で知りたかったんだ」

「……私の言葉で……?」

ルナフィエラはフィンを見つめたまま、言葉を失う。

(私が消えた理由…ヴァンパイアだということを……フィンは、ずっと知らなかったの…?)

「君が無事でいるなら、それだけでいいと思っていた。でも——」

フィンは少し言葉を切り、それから優しく微笑んだ。

「やっぱり、会えてよかった」

その言葉に、ルナフィエラの胸がじんわりと温かくなる。

フィンは真剣な目をして、ルナフィエラの手を取るように言った。

「……それで、君はどうしてここに?」

その問いに、ルナフィエラは一瞬迷ったあと、ゆっくりと口を開く。

「……私の体、満月のたびに魔力が乱れてしまうの」

フィンの眉がわずかに動いた。

「魔力の乱れ……?」

「制御ができなくて、身体が弱るの。少しでも抑えられればと思って……」

ルナフィエラはフィンを見つめ、静かに続けた。

「あなたの治癒魔法なら、何か分かるかもしれないと思ったの」

フィンはルナフィエラの言葉をじっと聞き、少し考え込むように目を伏せた。

「……そうか」

低く呟き、それから彼はゆっくりと頷いた。

「君の体を診せてほしい。君にどこまで治癒魔法が通じるか分からないが、試す価値はある」

ルナフィエラはしばらくフィンの瞳を見つめ、それから小さく頷いた。

(……この人なら、信じてもいい)

その思いが、彼女の中で静かに確信に変わっていった。

フィンはそっと扉を開き、ルナフィエラたちを迎え入れた。

「入って。話の続きをしよう」

こうして、ルナフィエラはフィンと再会し、彼の助けを求めることになった——。

——————

ルナフィエラたちはフィンの住む小屋に足を踏み入れた。
外から差し込む月明かりが、フィンの小さな住まいを淡く照らしている。

質素な空間だが、そこには確かな温もりがあった。

だが、ルナフィエラはその様子をじっくりと見る余裕がなかった。

——視界が、揺れる。

(……まずい)

緊張しながら森の中を進んできたせいか、足元がふらついた。
虚弱な身体には、夜道の移動はあまりに過酷だった。

「……っ」

膝が崩れそうになる。
その瞬間——

「ルナフィエラ様!」

ヴィクトルが素早く腕を伸ばし、ルナフィエラの体をしっかりと支えた。

「……っ、ごめんなさい……大丈夫……」

「大丈夫ではありません」

ヴィクトルは静かに言うが、その声音には明らかな心配が滲んでいる。

「ここまでの移動で、かなり体に負担がかかっていたはずです」

ルナフィエラは唇を噛んだ。
確かに自覚はあった。
月明かりに照らされた森の中、常に周囲を警戒しながら歩いてきた。

気を張り詰めた状態が続き、体力が奪われていた。

(こんなことで、どうするの……)

フィンに治癒魔法を頼みに来たというのに、話す前に倒れそうになるなんて。

ユリウスが軽く肩をすくめながら、ため息混じりに言った。

「……ほらね、だから言ったじゃないか。森を抜ける前に少し休んだほうがいいって」

「……急ぎたかったの」

「まぁ、気持ちは分かるけどね。でも、結果これじゃ意味がない」

ユリウスは皮肉っぽく笑ったが、その紫の瞳はどこか心配げだった。

フィンはルナフィエラをじっと見つめ、すぐに状況を察したようだった。

「……ひとまず、座ったほうがいいよ」

「……でも」

「大丈夫、すぐに話ができるようになるさ」

フィンの声は優しく、落ち着いていた。

ヴィクトルはルナフィエラを支えながら、そっと近くの椅子へと導いた。
座ると、少しだけ息が楽になった。

「水を飲める?」

フィンが手際よく木のコップに水を注ぎ、ルナフィエラに差し出す。
ルナフィエラはお礼を言いながら、それを受け取った。

「……ありがとう」

「うん。無理しないで、少しずつね」

フィンは穏やかに微笑んだ。

「今すぐ話をするのは大変そうだし、少し休んだほうがいいよ」

ルナフィエラは少し考え、それから頷いた。

「……そうね。少し休ませてもらうわ」

今は無理をしないほうがいい。
ルナフィエラは静かに息を整えた。


フィンはしばらくルナフィエラを見つめた後、ユリウスとシグにも視線を向ける。

「君たちも、少し休んだほうがいいんじゃない?」

「そうしたいのは山々だけど」

ユリウスは目を細めながら窓の外を見た。

「……まぁ、警戒はしておいたほうがいいかな」

「そうだな」

シグは頷く。

ここはフィンの小屋。
安全ではあるが、深い森の中にいることに変わりはない。

魔物や盗賊が現れる可能性も、ゼロではない。

「俺が外で様子を見てくる」

シグがそう言いながら、軽く手を挙げた。

「気を張りすぎんなよ」

「へいへい」

そう言って、シグは小屋の外へと出て行く。

ユリウスは椅子に座りながら、軽く伸びをした。

「じゃあ、僕は室内で見張ってるよ。ヴィクトルは?」

「……私は、ルナフィエラ様のそばにおります」

ヴィクトルの答えに、ユリウスは小さく肩をすくめた。

「忠犬だねぇ、相変わらず」

「貴殿に言われる筋合いはありません」

「はいはい」

そんなやりとりを聞きながら、ルナフィエラは目を閉じた。

(……少しだけ、休ませてもらおう)

緊張が解けたせいか、まぶたが重くなる。
少しの間でも、体力を回復させなくては。

フィンはそんなルナフィエラをそっと見守ると、柔らかく声をかけた。

「眠れそうなら、少し寝てもいいよ。ここなら大丈夫だから」

「……ありがとう」

ルナフィエラは静かに息を吐き出し、身体の力を抜いた。



ルナフィエラは椅子に座ったまま、静かに眠りに落ちていた。

緊張と疲れが重なっていたせいか、目を閉じるとすぐに意識が遠のいたのだろう。
普段は警戒心の強い彼女がこうして眠り込んでしまうのは、それだけ体が限界だったということだ。

フィンはルナフィエラの寝顔を見つめ、少し考え込むように息をついた。
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