【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第三章:堕ちた月、騎士たちの誓約

第32話・調査報告

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ルナフィエラが再び深い眠りについた後、ヴィクトル、ユリウス、シグ、フィンの四人は広間へと集まった。

冷たい風が窓を叩き、蝋燭の炎がわずかに揺らぐ。

いつもなら静寂に包まれる古城だったが、この夜は張り詰めた空気が満ちていた。


「さて……報告しようか」

ユリウスが机の上に数枚の書類を広げる。その目には怒りの色が滲んでいたが、彼は冷静に言葉を紡ぐ。

「今回の件、単なる魔族の暴走ではない。背後に人間の組織が関与していることが判明した」

「……やはりな」

ヴィクトルが腕を組みながら低く呟く。

フィンも険しい顔をして、ユリウスの言葉を促した。

「詳しく教えてくれ」

「まず、敵はルナが純血のヴァンパイアであることを知っていた。そして、純血のヴァンパイアの血が持つ特別な力を利用しようとした。そのため、ルナは強化兵の実験材料として血を大量に抜かれた」


室内の空気が一気に冷え込む。ヴィクトルの手が拳を握りしめる音が響いた。

「つまり、ただの魔族の仕業ではなく、裏で糸を引いている存在がいるということか」

ヴィクトルの声音は低く、静かだったが、怒りが滲んでいた。

「その通りだ」

ユリウスは次の書類をめくる。

「背後には、人間の国の大公家が関わっている。奴らが資金や人員の手配をしていた。そして……大公家は王族とも繋がっている」

シグが静かに目を伏せる。

「……王族、か」

「つまり、これはただの誘拐事件ではなく、国家規模の陰謀だ」

ユリウスが結論を告げると、全員がそれぞれの思考を巡らせた。

「ルナを攫った連中は、どういう意図でこの実験を?」

フィンが問う。

「一つは純血の力の有用性を確かめるため。もう一つは、その力を手に入れ、戦力を強化するためだ」

「……だが、それが成功したのなら、すでに戦場で目立つ動きがあってもいいはずだろう?」

ヴィクトルが冷静に分析する。

「確かにな。だが、現時点で確実に確認できたのは、強化された兵士が数体、試験的に運用されているという情報だけだ。本格的な実用段階には至っていない可能性がある」

「失敗したのか?」

フィンが希望を込めて尋ねるが、ユリウスは表情を曇らせる。


「それならいいが……気になるのは、ルナの状態だ。彼女の血を抜かれたことで、何か影響が出ていないか」

四人の視線が自然と隣の部屋へと向いた。

「……幸い、今は安定しているが、今後どうなるかは分からない」

ヴィクトルが静かに言う。

「今はルナ様の回復を最優先する。だが、これは放っておけない問題だ」

「当然だ」

シグが低く呟く。

「ルナの血が何か異変を起こさないか、俺も注意して見る」

フィンも決意を固めた。

「ユリウス、引き続き調査を頼む」

ヴィクトルが指示を出すと、ユリウスは無言で頷いた。

「俺たちは、この陰謀を潰す。そして、ルナをこんな目に遭わせた奴らに……必ず報いを与える」

——————

「……そういえばフィン、お前に聞きたいことがある」

ユリウスの低い声が静寂を破る。

「研究所を脱出するとき、お前が使ったあの魔法……セイクリッド・レイン。あれは何だ?」

ヴィクトルとシグもその言葉に視線を向けた。
フィンは椅子に座り、少し疲れた表情を浮かべながらも、「ん?」と軽く応じる。

「……ああ、あれね」

フィンは自分のピアスに触れ、僅かに苦笑した。

「僕の切り札だったんだよ」

「切り札?」

ヴィクトルが低く問い返す。

「ああ。聖属性の攻撃魔法、セイクリッド・レイン。元々、僕が聖騎士だった頃に使ってた魔法さ」

その言葉に、シグが僅かに目を伏せる。ユリウスは腕を組み、
「だが、今のお前は治癒魔法に専念しているはずだ」と指摘した。

「その通り」

フィンは淡々と頷く。

「ルナと出会ってから、僕は治癒魔法に力を注ぐようになった。戦うためじゃなく、誰かを救うための魔法を研究したくなったんだよ。それに、治癒魔法は繊細な調整が必要だから、攻撃魔法に魔力を割く余裕なんてなかった」

「なのに、どうしてあれほどの魔法を?」

ヴィクトルが鋭く問い詰める。

フィンは少し笑い、ピアスを指で弾いた。

「このピアスに一年かけて魔力を溜めてたんだ。万が一のためにな」

「……一年?」

ユリウスの眉が僅かに動く。

「僕が戦えなくなったら、誰がルナを守るんだ? ルナに何かあって、僕が何もできなかったらどうする? そう思って、治癒魔法の研究の合間に、ほんの少しずつ魔力を蓄えてたんだ」

シグは無言のままフィンを見つめていた。

「セイクリッド・レインは、聖属性最高位の攻撃魔法だ」

フィンは続ける。

「聖騎士時代は頻繁に使ってたけど、治癒魔法に特化してからは完全に封印してた。でも、どうしても攻撃手段を持っておく必要があったから、ピアスに魔力を溜めることで、1回だけ使えるようにしておいた」

「……そういうことか」

ヴィクトルは納得したように目を閉じた。

「だが、その一撃を研究所で使い切ったわけだな?」

「うん。そうだね。」

フィンは苦笑しながら頷く。

「もう、今は普通の回復役に戻ったよ」

シグは静かに目を伏せた。

「とはいえ、あの魔法は尋常じゃなかったな」

ユリウスがぼそりと呟く。

「研究所の魔族どもは一瞬で蒸発していた」

「……僕は、あんなことにルナの血を使った奴らを許せなかったんだよ」

フィンの声には珍しく怒気が滲んでいた。彼の拳がぎゅっと握られる。

「ルナの血を抜いて、強化兵なんて作ろうとした……そんな連中、全員灰にしてやるくらいの覚悟で撃ったさ」

その言葉に、ヴィクトルも僅かに目を細めた。

「よくやった、フィン」

彼の言葉に、フィンは少し肩をすくめた。

「ま、もう使えないんだけどね」

「それでも、お前はルナ様を救うために準備をしていた」

ヴィクトルは静かに言う。

「それで十分だ」

「……次に備えなくていいのか?」

ユリウスが尋ねる。

「もう一年もかけて溜める余裕はないよ」

フィンは苦笑した。

「今はルナを回復させるのが最優先だ」

シグが微かに頷く。

「……そうだな」

「とはいえ、これで終わりじゃない」

ヴィクトルが静かに言う。

「ルナをこんな目に遭わせた奴らに、必ず報いを与える」

四人はそれぞれ決意を新たにし、静かに立ち上がった。戦いはまだ終わっていない。
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