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第四章:紅き月の儀式
第48話・失われた記録
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「……紅き月の儀式、だと?」
ユリウスが文献を閉じ、低く呻くように呟いた。
そこは、古城の書庫とは別に用意されたユリウスの魔術研究室。
夜明け前、ユリウス、フィン、シグの3人は、
ヴィクトルの父が口にした“儀式”の意味を確かめるため、古い記録を調べていた。
「ルナを救うための覚醒儀式――最初は、そう信じていた」
ユリウスは机に山積みにされた古文書を見下ろす。
「だが、ここに記されているのは……
“力の覚醒”と引き換えに、“命を代償とする”という記述だ」
「……命?」
フィンが顔を上げる。
「ルナの?」
「違う。――“周囲にいる者すべて”の命だ」
ページを指差しながら、ユリウスは静かに続けた。
「紅き月の力を媒介に、対象者の力を限界まで引き出す。
だが、それには“莫大な魔力の血”が必要になる。
記録では“王族の血”と曖昧にされているが……」
「まさか、それって……」
「――ルナの血と力を“触媒”として、儀式を完成させるつもりだ」
言葉に詰まるフィンの隣で、シグが立ち上がる。
「ふざけんな……それじゃあ、ルナが――」
「そう、“救う”んじゃない。“使う”んだ」
部屋の空気が一気に冷えた。
思い出すのは、あのときのヴィクトルの呟き。
『――あの場所なら、力に耐えられる……はずだ』
ユリウスの表情が強張る。
「……まさか」
「あの場所って……どこだよ?」
フィンが問うと、ユリウスは一枚の古地図を机に広げる。
「この記録にだけ記されていた。
百年前、ヴァンパイアの王族が“儀式の間”として使っていた、かつての拠点――」
指でなぞられたのは、現在“人間の王城”として使われている場所だった。
「ヴィクトルは……ルナを、そこに……」
「……チクショウ……!」
シグが拳を壁に叩きつける。
「今すぐ向かうぞ!間に合わなくなる!」
「……だが、相手はヴィクトルの父だ。
おそらく、表向きはルナの“覚醒”を装って儀式を進める」
「……そうだとしても、俺たちは行くしかねぇだろ」
シグの叫びに、ユリウスとフィンが頷いた。
「ルナを……取り戻す」
その決意を胸に、3人は準備を整え、静かにその場を後にした。
外の空は、もうすぐ夜が明けようとしていた。
ユリウス、フィン、シグ――三人の騎士たちは、
まだ誰も目覚めぬ森を抜け、
急ぎ王都の中心――“王城”へと向かっていた。
「まさか、あそこが儀式の場だったとはな……」
手綱を握りながらシグが低く唸るように言う。
「100年前の惨劇。ルナ以外の王族が暴走し、
互いに殺し合ったという話……あれが、同じ場所で……?」
フィンの声は静かだが、震えていた。
「同じ“間”に、彼女を寝かせて……また儀式を……」
「絶対に間に合わせる。今度こそ、ルナを救う」
ユリウスの瞳は静かに燃えていた。
「このままじゃ、またルナは――自分を責めたまま、壊れてしまう」
三騎士の想いが交錯するなか、
夜明けの風が、紅く染まり始めた空を抜けていく。
⸻———
同時刻――
王城・最奥の間。
冷たく静かな空間に、ゆっくりと光が広がっていた。
魔法陣の紋様が、再び蠢き始める。
赤黒い魔素が浮かび上がり、まるで呼吸するように光と闇を繰り返している。
祭壇の上、ルナフィエラの体が再び反応した。
「……ぁ……っ、あ、あああッ……!!」
突然、全身を仰け反らせる。
皮膚の下を走る魔力が、異常な速さで脈動を始めた。
「……始まったな」
ヴィクトルの父が低く言う。
「魔力の馴染みが進み、陣が次の段階に入った。
今夜、満月の時を迎えれば、完全な覚醒が可能となる」
「……それで、本当に救えるのですか?」
ヴィクトルの声には、もはや迷いはなかった。
だが、その眼差しの奥にあるのは――痛みと疑念。
「もちろんだ。覚醒すれば、姫様は真に“ヴァンパイアの王族”として目覚める。
――失われた力を継ぐ、唯一の存在としてな」
(だが、その“力”の代償に……彼女が何かを背負うことになるのか)
祭壇の上、ルナフィエラの呼吸は乱れ、指先がわずかに動いた。
「ヴィク……と、る……」
震える唇が彼の名を呼ぶ。
ヴィクトルはもう、止められなかった。
誰よりも彼女の命を望んでいたから――
それが、どれほど残酷な手段であっても。
ユリウスが文献を閉じ、低く呻くように呟いた。
そこは、古城の書庫とは別に用意されたユリウスの魔術研究室。
夜明け前、ユリウス、フィン、シグの3人は、
ヴィクトルの父が口にした“儀式”の意味を確かめるため、古い記録を調べていた。
「ルナを救うための覚醒儀式――最初は、そう信じていた」
ユリウスは机に山積みにされた古文書を見下ろす。
「だが、ここに記されているのは……
“力の覚醒”と引き換えに、“命を代償とする”という記述だ」
「……命?」
フィンが顔を上げる。
「ルナの?」
「違う。――“周囲にいる者すべて”の命だ」
ページを指差しながら、ユリウスは静かに続けた。
「紅き月の力を媒介に、対象者の力を限界まで引き出す。
だが、それには“莫大な魔力の血”が必要になる。
記録では“王族の血”と曖昧にされているが……」
「まさか、それって……」
「――ルナの血と力を“触媒”として、儀式を完成させるつもりだ」
言葉に詰まるフィンの隣で、シグが立ち上がる。
「ふざけんな……それじゃあ、ルナが――」
「そう、“救う”んじゃない。“使う”んだ」
部屋の空気が一気に冷えた。
思い出すのは、あのときのヴィクトルの呟き。
『――あの場所なら、力に耐えられる……はずだ』
ユリウスの表情が強張る。
「……まさか」
「あの場所って……どこだよ?」
フィンが問うと、ユリウスは一枚の古地図を机に広げる。
「この記録にだけ記されていた。
百年前、ヴァンパイアの王族が“儀式の間”として使っていた、かつての拠点――」
指でなぞられたのは、現在“人間の王城”として使われている場所だった。
「ヴィクトルは……ルナを、そこに……」
「……チクショウ……!」
シグが拳を壁に叩きつける。
「今すぐ向かうぞ!間に合わなくなる!」
「……だが、相手はヴィクトルの父だ。
おそらく、表向きはルナの“覚醒”を装って儀式を進める」
「……そうだとしても、俺たちは行くしかねぇだろ」
シグの叫びに、ユリウスとフィンが頷いた。
「ルナを……取り戻す」
その決意を胸に、3人は準備を整え、静かにその場を後にした。
外の空は、もうすぐ夜が明けようとしていた。
ユリウス、フィン、シグ――三人の騎士たちは、
まだ誰も目覚めぬ森を抜け、
急ぎ王都の中心――“王城”へと向かっていた。
「まさか、あそこが儀式の場だったとはな……」
手綱を握りながらシグが低く唸るように言う。
「100年前の惨劇。ルナ以外の王族が暴走し、
互いに殺し合ったという話……あれが、同じ場所で……?」
フィンの声は静かだが、震えていた。
「同じ“間”に、彼女を寝かせて……また儀式を……」
「絶対に間に合わせる。今度こそ、ルナを救う」
ユリウスの瞳は静かに燃えていた。
「このままじゃ、またルナは――自分を責めたまま、壊れてしまう」
三騎士の想いが交錯するなか、
夜明けの風が、紅く染まり始めた空を抜けていく。
⸻———
同時刻――
王城・最奥の間。
冷たく静かな空間に、ゆっくりと光が広がっていた。
魔法陣の紋様が、再び蠢き始める。
赤黒い魔素が浮かび上がり、まるで呼吸するように光と闇を繰り返している。
祭壇の上、ルナフィエラの体が再び反応した。
「……ぁ……っ、あ、あああッ……!!」
突然、全身を仰け反らせる。
皮膚の下を走る魔力が、異常な速さで脈動を始めた。
「……始まったな」
ヴィクトルの父が低く言う。
「魔力の馴染みが進み、陣が次の段階に入った。
今夜、満月の時を迎えれば、完全な覚醒が可能となる」
「……それで、本当に救えるのですか?」
ヴィクトルの声には、もはや迷いはなかった。
だが、その眼差しの奥にあるのは――痛みと疑念。
「もちろんだ。覚醒すれば、姫様は真に“ヴァンパイアの王族”として目覚める。
――失われた力を継ぐ、唯一の存在としてな」
(だが、その“力”の代償に……彼女が何かを背負うことになるのか)
祭壇の上、ルナフィエラの呼吸は乱れ、指先がわずかに動いた。
「ヴィク……と、る……」
震える唇が彼の名を呼ぶ。
ヴィクトルはもう、止められなかった。
誰よりも彼女の命を望んでいたから――
それが、どれほど残酷な手段であっても。
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