58 / 184
第四章:紅き月の儀式
第57話・静かな安息
しおりを挟む
重々しく、古城の門が開いた。
既に日は高く昇り、
あたたかな陽射しが城の中庭を明るく照らしている。
馬車は静かに、中庭へと滑り込んだ。
これまでルナフィエラが過ごした場所。
今は、彼女を迎えるためだけに――ただ静かに待っていた。
ヴィクトルは、そっとルナフィエラを抱き上げた。
「……戻ってきましたよ、ルナ様」
囁くような声で、彼女に語りかける。
毛布の中のルナフィエラは、眠ったまま反応はない。
けれど、その胸は静かに、規則正しく上下していた。
ユリウスが先導し、
フィンとシグも無言で後に続く。
四人の騎士たちに守られながら、
ルナフィエラは古城の奥、彼女専用の寝室へと運ばれていった。
高い天窓から、日の光がやわらかく差し込む。
寝台にそっと寝かされたルナフィエラは、
まるで繊細なガラス細工のように、静かに横たわっていた。
ヴィクトルは、彼女の手を離せないまま、
じっとその寝顔を見つめていた。
「……ユリウス」
呼びかけに応じて、ユリウスが静かに歩み寄る。
彼はそっとルナフィエラに手をかざし、
魔力の流れを探るように目を閉じた。
数瞬の沈黙。
やがて、ユリウスがゆっくりと口を開く。
「……身体に異常はない」
「呼吸も、安定している」
「魔力も……枯渇しているわけではない。
きちんと循環している」
ヴィクトルをはじめ、フィンとシグも静かに息を吐く。
「命に別状は……ない、ように思うよ」
ユリウスはそう結論づけた。
けれど――
「……目を覚ますには、時間がかかるかもしれないな」
「……なら、待つだけだ」
ヴィクトルが静かに言った。
「どれだけかかってもいい。
俺たちは、ここで待つ」
「当然だ」
フィンが柔らかく微笑み、
シグも黙って深く頷く。
誰一人、焦ろうとする者はいなかった。
誰一人、諦めようとする者もいなかった。
「……おかえり、ルナ」
ユリウスが小さく囁いた。
それは、まだ眠り続ける彼女への、
最も温かい祝福の言葉だった。
——————
春。
命が芽吹く季節。
ルナフィエラは静かに、古城へと帰還した。
柔らかな光に包まれて、
彼女は長い眠りの中にいた。
呼吸は安定している。
脈も、魔力の流れも正常だった。
けれど、彼女の意識だけが、深く閉ざされたままだった。
ヴィクトルは、彼女の手を握りながら、
小さな声で何度も呼びかけた。
「……ルナ様。あなたが目を覚ます日まで、俺たちは、ここにいます」
どれだけ返事がなくても、決して諦めなかった。
**
夏。
緑が満ち、蝉の声が降り注ぐ季節。
中庭は陽光に溢れ、森の木々は勢いよく枝を伸ばしていた。
けれど、ルナフィエラの寝室だけは、時間が止まったように静かだった。
フィンは、毎朝欠かさずそっと治癒の魔力を流した。
「……大丈夫。今日も、問題ないよ」
微笑みながら、彼はルナの髪を撫でた。
(ルナがここにいるだけで、
こんなにも世界が優しくなるんだ)
たとえ眠ったままでも、ルナフィエラは彼らの“希望”だった。
**
秋。
葉が色づき、風に冷たさが混じる季節。
ユリウスは、窓の外に舞う落葉を眺めながら、
静かに目を閉じた。
「……季節は変わっても、
僕たちの想いは、変わらない」
彼はそう呟き、毛布を直す手を止めなかった。
一瞬たりとも、彼女を独りにはしなかった。
**
冬。
雪が降り積もり、城を白く包む季節。
凍てつく空気の中、
シグは窓際に立ち、外を見やった。
白銀に染まった世界。
その静けさに、胸が締めつけられる。
「……目ぇ覚ましたら、文句のひとつも言ってやる」
ぼそりと、そんな言葉を呟いた。
でも、誰よりも、彼はその日を待ち焦がれていた。
**
季節は、静かに巡った。
白い雪が溶け、
再び大地に命が芽吹く春が訪れた。
小鳥たちがさえずり、
中庭には今年最初の花が咲き始める。
その朝だった。
ヴィクトルが、ルナフィエラの手を取ったとき――
指先に、かすかな、でも確かな力を感じた。
「……ルナ様……?」
彼は小さく囁いた。
フィンが顔を上げ、
ユリウスとシグも息を呑む。
寝台の上、長い眠りについていたルナフィエラが――
ほんの僅かに、睫毛を震わせた。
春の光がカーテン越しに差し込む中、
彼女の指先が、ヴィクトルの手をきゅっと握り返す。
目覚めの瞬間が、
ゆっくりと、静かに、訪れようとしていた。
既に日は高く昇り、
あたたかな陽射しが城の中庭を明るく照らしている。
馬車は静かに、中庭へと滑り込んだ。
これまでルナフィエラが過ごした場所。
今は、彼女を迎えるためだけに――ただ静かに待っていた。
ヴィクトルは、そっとルナフィエラを抱き上げた。
「……戻ってきましたよ、ルナ様」
囁くような声で、彼女に語りかける。
毛布の中のルナフィエラは、眠ったまま反応はない。
けれど、その胸は静かに、規則正しく上下していた。
ユリウスが先導し、
フィンとシグも無言で後に続く。
四人の騎士たちに守られながら、
ルナフィエラは古城の奥、彼女専用の寝室へと運ばれていった。
高い天窓から、日の光がやわらかく差し込む。
寝台にそっと寝かされたルナフィエラは、
まるで繊細なガラス細工のように、静かに横たわっていた。
ヴィクトルは、彼女の手を離せないまま、
じっとその寝顔を見つめていた。
「……ユリウス」
呼びかけに応じて、ユリウスが静かに歩み寄る。
彼はそっとルナフィエラに手をかざし、
魔力の流れを探るように目を閉じた。
数瞬の沈黙。
やがて、ユリウスがゆっくりと口を開く。
「……身体に異常はない」
「呼吸も、安定している」
「魔力も……枯渇しているわけではない。
きちんと循環している」
ヴィクトルをはじめ、フィンとシグも静かに息を吐く。
「命に別状は……ない、ように思うよ」
ユリウスはそう結論づけた。
けれど――
「……目を覚ますには、時間がかかるかもしれないな」
「……なら、待つだけだ」
ヴィクトルが静かに言った。
「どれだけかかってもいい。
俺たちは、ここで待つ」
「当然だ」
フィンが柔らかく微笑み、
シグも黙って深く頷く。
誰一人、焦ろうとする者はいなかった。
誰一人、諦めようとする者もいなかった。
「……おかえり、ルナ」
ユリウスが小さく囁いた。
それは、まだ眠り続ける彼女への、
最も温かい祝福の言葉だった。
——————
春。
命が芽吹く季節。
ルナフィエラは静かに、古城へと帰還した。
柔らかな光に包まれて、
彼女は長い眠りの中にいた。
呼吸は安定している。
脈も、魔力の流れも正常だった。
けれど、彼女の意識だけが、深く閉ざされたままだった。
ヴィクトルは、彼女の手を握りながら、
小さな声で何度も呼びかけた。
「……ルナ様。あなたが目を覚ます日まで、俺たちは、ここにいます」
どれだけ返事がなくても、決して諦めなかった。
**
夏。
緑が満ち、蝉の声が降り注ぐ季節。
中庭は陽光に溢れ、森の木々は勢いよく枝を伸ばしていた。
けれど、ルナフィエラの寝室だけは、時間が止まったように静かだった。
フィンは、毎朝欠かさずそっと治癒の魔力を流した。
「……大丈夫。今日も、問題ないよ」
微笑みながら、彼はルナの髪を撫でた。
(ルナがここにいるだけで、
こんなにも世界が優しくなるんだ)
たとえ眠ったままでも、ルナフィエラは彼らの“希望”だった。
**
秋。
葉が色づき、風に冷たさが混じる季節。
ユリウスは、窓の外に舞う落葉を眺めながら、
静かに目を閉じた。
「……季節は変わっても、
僕たちの想いは、変わらない」
彼はそう呟き、毛布を直す手を止めなかった。
一瞬たりとも、彼女を独りにはしなかった。
**
冬。
雪が降り積もり、城を白く包む季節。
凍てつく空気の中、
シグは窓際に立ち、外を見やった。
白銀に染まった世界。
その静けさに、胸が締めつけられる。
「……目ぇ覚ましたら、文句のひとつも言ってやる」
ぼそりと、そんな言葉を呟いた。
でも、誰よりも、彼はその日を待ち焦がれていた。
**
季節は、静かに巡った。
白い雪が溶け、
再び大地に命が芽吹く春が訪れた。
小鳥たちがさえずり、
中庭には今年最初の花が咲き始める。
その朝だった。
ヴィクトルが、ルナフィエラの手を取ったとき――
指先に、かすかな、でも確かな力を感じた。
「……ルナ様……?」
彼は小さく囁いた。
フィンが顔を上げ、
ユリウスとシグも息を呑む。
寝台の上、長い眠りについていたルナフィエラが――
ほんの僅かに、睫毛を震わせた。
春の光がカーテン越しに差し込む中、
彼女の指先が、ヴィクトルの手をきゅっと握り返す。
目覚めの瞬間が、
ゆっくりと、静かに、訪れようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
召喚先は、誰も居ない森でした
みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて──
次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず──
その先で、茉白が見たモノは──
最初はシリアス展開が続きます。
❋他視点のお話もあります
❋独自設定有り
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる