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第五章:みんなと歩く日常
第61話・初めての一歩
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城の中庭――
朝露が消えたころ、訓練用の広場にはルナと4人の騎士たちが集まっていた。
ルナの目の前に、淡く魔力の流れが浮かび上がる。
「落ち着いてください。魔力を流しながら、少しだけ血を出して」
横でヴィクトルが優しく声をかける。
「焦らなくていい。お前のペースでやれ」
シグは腕を組んで、直線的な視線を向ける。
「ルナ、血の量はほんの数滴で十分だ」
ユリウスは的確なアドバイスを添える。
ルナは、小さく深呼吸をした。
(できる……はず)
数日前まで、血を使う魔法に対する抵抗があった。
けれど今は――違う。
「……はじめます」
彼女は指先に意識を集中し、爪先で軽く皮膚を引っ掻いた。
ぽたり、と血がにじむ。
すぐにその血が空中に浮かび、薄紅の膜を形作り始める。
「……っ」
魔力の流れが途切れそうになるたび、集中し直す。
血と魔力が噛み合うまで、何度も呼吸を整える。
(もう少し……)
その瞬間、
ふわり、と空気が変わった。
紅く輝く、半透明の魔法陣がルナの前に展開され――
ぴたりと固定された「血の盾」が、静かに完成した。
「……っ!」
「……できた」
沈黙のあと、
拍手の音が響く。
最初に手を叩いたのはフィンだった。
「すごいよルナ! 本当にできた!」
「ふん、やっとか」
シグはそっぽを向きながらも口角がわずかに上がる。
「初成功にしては、非常に安定している」
ユリウスは、目元を細めて評価した。
「……ご立派です、ルナ様」
ヴィクトルの言葉は静かで、しかし心からの称賛だった。
ルナフィエラは、みんなの顔を順に見て、
そして――ふわりと、笑った。
心の奥でふわっと膨らむ達成感。
“自分でできた”という初めての実感。
(……うれしい)
この小さな盾は、
ルナフィエラが一歩前に踏み出した証だった。
魔力を扱うことも、血を使うことも――
もう、怖くない。
誰かに守られるだけじゃない。
自分の力で、未来をつかんでいく。
そう思えるほどに、
彼女の瞳は、まっすぐに澄んでいた。
——————
血の盾を成功させてからというもの、
ルナフィエラは、少しずつ“自分の力で歩く”ということに慣れ始めていた。
朝は、図書室の片隅でユリウスとの座学。
魔法陣の構造、血と魔力の関係、属性変化の理論――
専門用語だらけの文献に眉をひそめるルナフィエラの横で、
ユリウスは淡々と、だが丁寧に解説を続けてくれる。
「ここを覚えておけば、次の応用魔法でも混乱しない」
「……ありがとう。ユリウスの教え方、わかりやすい」
ユリウスは小さく笑って、「ああ」と返したが、
ほんの一瞬、嬉しそうに目元がゆるんだのをルナは見逃さなかった。
昼の訓練場では、ヴィクトルと共に魔力操作の練習。
血の盾を複数展開することに挑戦していた。
「魔力の出力、安定してます。次、三枚目です」
ヴィクトルの落ち着いた声が飛ぶ。
「うん……っ、やってみる」
集中して、血と魔力を同時に操る。
その瞬間――
「……っ!」
肩が跳ね、膝が崩れそうになる。
(出しすぎた――!)
目の前がかすかに揺れる。
だが、倒れるよりも早く、
ふわりと誰かの腕が支えてくれる。
「ルナ様――大丈夫ですか?」
すぐそばにいたヴィクトルが、彼女をしっかりと抱き留めていた。
腕の中はあたたかく、安定していて、
落ちそうだった心ごと支えてくれるような、安心感があった。
「……ごめんなさい。ちょっと、魔力使いすぎたみたい」
「謝ることではありません。努力の証です。……少し、座りましょう」
ヴィクトルに支えられてベンチに腰を下ろすと、すぐにもうひとつの気配が近づいてくる。
「ルナ、動かないでね。……今、癒すから」
駆け寄ってきたフィンが、
彼女の胸元にそっと手をかざす。
フィンの手から淡く魔力が広がり、
体の内側にあった魔力の乱れがすうっと整っていく。
「……あ、楽になった……ありがとう、フィン」
「うん!ルナが苦しそうなの、嫌だから。
無理して強くなるより、元気で笑ってる方が……僕は、好きだよ」
照れくさそうに笑うフィンに、
ルナフィエラも自然と頬をゆるめた。
午後は、シグとの実践形式の訓練。
ぶっきらぼうな指導の裏に、いつも絶妙な“配慮”があることを、ルナはもう知っていた。
「今日は手加減しねぇぞ。さっきの魔力制御、崩れてたしな」
「……わかってる。次はちゃんとやる」
どこか悔しそうに言うルナフィエラに、シグはニッと笑った。
「その調子だ。甘えるのもいいが、前に進むなら、踏ん張れ」
夕暮れ時、訓練を終えると、
お決まりのように、フィンが準備してくれていたお茶とおやつがテーブルに並ぶ。
「今日のルナ、たくさん頑張ったから……ごほうびのリンゴタルトです♪」
「フィン、いつもありがとう……あのね」
「ん?」
「お昼の治癒魔法……ほんとに、ありがとう。
あれがなかったら、たぶん立ち上がれなかったと思う」
「……っ」
突然の素直な感謝に、フィンは頬を染めて照れ笑いする。
「うん!僕の治癒魔法はルナのためにあるからね!」
訓練を重ねる日々の中で、ルナフィエラは気づいていた。
自分は、ずっと守られていた。
それに気づかないふりをしていたのは、
頼ることに臆病だった、自分の方だったのだと。
けれど今――
彼らの言葉や手のぬくもり、
そして訓練の中で積み重ねる信頼が、
確かにルナフィエラの背中を押してくれていた。
「……ありがとう、みんな」
風が吹き抜ける中庭で、
ルナフィエラはただ静かに、あたたかな風の中で目を閉じた。
朝露が消えたころ、訓練用の広場にはルナと4人の騎士たちが集まっていた。
ルナの目の前に、淡く魔力の流れが浮かび上がる。
「落ち着いてください。魔力を流しながら、少しだけ血を出して」
横でヴィクトルが優しく声をかける。
「焦らなくていい。お前のペースでやれ」
シグは腕を組んで、直線的な視線を向ける。
「ルナ、血の量はほんの数滴で十分だ」
ユリウスは的確なアドバイスを添える。
ルナは、小さく深呼吸をした。
(できる……はず)
数日前まで、血を使う魔法に対する抵抗があった。
けれど今は――違う。
「……はじめます」
彼女は指先に意識を集中し、爪先で軽く皮膚を引っ掻いた。
ぽたり、と血がにじむ。
すぐにその血が空中に浮かび、薄紅の膜を形作り始める。
「……っ」
魔力の流れが途切れそうになるたび、集中し直す。
血と魔力が噛み合うまで、何度も呼吸を整える。
(もう少し……)
その瞬間、
ふわり、と空気が変わった。
紅く輝く、半透明の魔法陣がルナの前に展開され――
ぴたりと固定された「血の盾」が、静かに完成した。
「……っ!」
「……できた」
沈黙のあと、
拍手の音が響く。
最初に手を叩いたのはフィンだった。
「すごいよルナ! 本当にできた!」
「ふん、やっとか」
シグはそっぽを向きながらも口角がわずかに上がる。
「初成功にしては、非常に安定している」
ユリウスは、目元を細めて評価した。
「……ご立派です、ルナ様」
ヴィクトルの言葉は静かで、しかし心からの称賛だった。
ルナフィエラは、みんなの顔を順に見て、
そして――ふわりと、笑った。
心の奥でふわっと膨らむ達成感。
“自分でできた”という初めての実感。
(……うれしい)
この小さな盾は、
ルナフィエラが一歩前に踏み出した証だった。
魔力を扱うことも、血を使うことも――
もう、怖くない。
誰かに守られるだけじゃない。
自分の力で、未来をつかんでいく。
そう思えるほどに、
彼女の瞳は、まっすぐに澄んでいた。
——————
血の盾を成功させてからというもの、
ルナフィエラは、少しずつ“自分の力で歩く”ということに慣れ始めていた。
朝は、図書室の片隅でユリウスとの座学。
魔法陣の構造、血と魔力の関係、属性変化の理論――
専門用語だらけの文献に眉をひそめるルナフィエラの横で、
ユリウスは淡々と、だが丁寧に解説を続けてくれる。
「ここを覚えておけば、次の応用魔法でも混乱しない」
「……ありがとう。ユリウスの教え方、わかりやすい」
ユリウスは小さく笑って、「ああ」と返したが、
ほんの一瞬、嬉しそうに目元がゆるんだのをルナは見逃さなかった。
昼の訓練場では、ヴィクトルと共に魔力操作の練習。
血の盾を複数展開することに挑戦していた。
「魔力の出力、安定してます。次、三枚目です」
ヴィクトルの落ち着いた声が飛ぶ。
「うん……っ、やってみる」
集中して、血と魔力を同時に操る。
その瞬間――
「……っ!」
肩が跳ね、膝が崩れそうになる。
(出しすぎた――!)
目の前がかすかに揺れる。
だが、倒れるよりも早く、
ふわりと誰かの腕が支えてくれる。
「ルナ様――大丈夫ですか?」
すぐそばにいたヴィクトルが、彼女をしっかりと抱き留めていた。
腕の中はあたたかく、安定していて、
落ちそうだった心ごと支えてくれるような、安心感があった。
「……ごめんなさい。ちょっと、魔力使いすぎたみたい」
「謝ることではありません。努力の証です。……少し、座りましょう」
ヴィクトルに支えられてベンチに腰を下ろすと、すぐにもうひとつの気配が近づいてくる。
「ルナ、動かないでね。……今、癒すから」
駆け寄ってきたフィンが、
彼女の胸元にそっと手をかざす。
フィンの手から淡く魔力が広がり、
体の内側にあった魔力の乱れがすうっと整っていく。
「……あ、楽になった……ありがとう、フィン」
「うん!ルナが苦しそうなの、嫌だから。
無理して強くなるより、元気で笑ってる方が……僕は、好きだよ」
照れくさそうに笑うフィンに、
ルナフィエラも自然と頬をゆるめた。
午後は、シグとの実践形式の訓練。
ぶっきらぼうな指導の裏に、いつも絶妙な“配慮”があることを、ルナはもう知っていた。
「今日は手加減しねぇぞ。さっきの魔力制御、崩れてたしな」
「……わかってる。次はちゃんとやる」
どこか悔しそうに言うルナフィエラに、シグはニッと笑った。
「その調子だ。甘えるのもいいが、前に進むなら、踏ん張れ」
夕暮れ時、訓練を終えると、
お決まりのように、フィンが準備してくれていたお茶とおやつがテーブルに並ぶ。
「今日のルナ、たくさん頑張ったから……ごほうびのリンゴタルトです♪」
「フィン、いつもありがとう……あのね」
「ん?」
「お昼の治癒魔法……ほんとに、ありがとう。
あれがなかったら、たぶん立ち上がれなかったと思う」
「……っ」
突然の素直な感謝に、フィンは頬を染めて照れ笑いする。
「うん!僕の治癒魔法はルナのためにあるからね!」
訓練を重ねる日々の中で、ルナフィエラは気づいていた。
自分は、ずっと守られていた。
それに気づかないふりをしていたのは、
頼ることに臆病だった、自分の方だったのだと。
けれど今――
彼らの言葉や手のぬくもり、
そして訓練の中で積み重ねる信頼が、
確かにルナフィエラの背中を押してくれていた。
「……ありがとう、みんな」
風が吹き抜ける中庭で、
ルナフィエラはただ静かに、あたたかな風の中で目を閉じた。
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