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第六章:流れる鼓動、重なる願い
第88話・甘い衝動と、静かな痛み
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「……ルナ様。そろそろ止めましょうか」
後方から聞こえたヴィクトルの声に、ルナフィエラははっとして顔を上げた。
牙を引き、口元を手で押さえる。
「ごめ……」
「いいんだ。嬉しかったから」
そう言ったユリウスは、血の滲む自らの首に手を当てて傷を癒やす。
──そしてそのまま、ルナの頬に手を添えた。
何かを確かめるように、その瞳を覗き込んで。
「……よくできたね。偉いよ、ルナ」
ぽそりと囁くような声音とともに、彼の唇がルナフィエラの唇に触れた。
ほんの一瞬。
でも、確かに触れた──優しく、けれど迷いのないキス。
「……ご褒美。吸血の、ね」
ユリウスの声に、フィンがすかさず声を上げる。
「ユリウス……!?」
シグはあからさまに呆れた表情でため息をつき、ヴィクトルは眉をひそめたまま黙っている。
吸血の余韻がまだ身体に残る中──
唇に触れた、ユリウスのキスの感触が、じんわりとルナフィエラの中に広がっていった。
驚いた。
けれど──拒む気持ちはなかった。
ほんのりと熱を帯びた頬が、雄弁にその心を物語っていた。
(……今の、見られてた……よね?)
ちら、と視線を動かす。
案の定、フィンは驚いたように目を丸くして固まり、シグは眉を寄せ、ヴィクトルは気配を落とし静かに目を伏せていた。
そんな中、ユリウスは自然な仕草で、そっとルナフィエラの手を取る。
「ね。もう少しだけ、このまま一緒にいていい?」
その声は、つい先ほどまで吸血を許した相手とは思えないほど穏やかで、親しげだった。
ルナフィエラは戸惑いながらも、その手を振り払うことはなかった。
まるで引き寄せられるように──ユリウスの膝の上に、横向きに座らされる。
すべての動作があまりに自然で、導かれるままだったから。
ルナ自身も、抵抗することを忘れてしまっていた。
「よく頑張ったね、ルナ」
耳元で囁かれ、そっと抱きしめられる。
ユリウスの温もりが、くすぐったくて、落ち着かなくて──でも、安心する。
(……なんだろう、この感じ)
恥ずかしいけれど、嫌じゃない。
ぎゅっとされるたびに、心がやわらかく満たされていく。
──が。
「ちょっと、それずるいっ!」
唐突に立ち上がったフィンが、ぷくっと頬を膨らませながらルナフィエラに詰め寄る。
「僕、ルナに今日まだなにもしてないのにっ……!」
「え、えっ……!?」
「……ねぇ、僕もキスしていい?」
ぽつりと漏れたその声に、ルナフィエラの肩がびくりと跳ねる。
「え、フィン……?」
ルナフィエラが戸惑うより早く、フィンはユリウスの膝の前にしゃがみ込み、彼女の顔を見上げるようにして言った。
「僕も、ルナの唇に触れたい。……少しだけ、ね?」
その声は甘く、拗ねたようで、けれど真剣だった。
ユリウスは黙ったまま、腕の中のルナをそっと支えながらフィンを見つめる。
そして──
「フィ、フィン……っ」
ルナフィエラの声が震えた瞬間、フィンはその顔に優しく手を添え、そっと唇を重ねた。
「っ……!」
ごく軽く、けれど確かに触れたそのキスに、ルナフィエラの頬が一気に真紅に染まる。
「……ルナ、今日もほんとに可愛い」
満足げに微笑んだフィンの言葉に、ルナフィエラは思わずうつむいてユリウスの胸元へ顔を隠した。
「……も、もう、二人とも……好き勝手
すぎ……っ」
だけどその中に、ほんのりと浮かぶ笑み。
どこか心があたたかくなるような、そんなひとときだった──
「……はしゃぎすぎだ、フィン」
低くぼやいたのは、窓辺に立っていたシグだった。
腕を組んだまま、視線は微動だにせずルナのほうを見ている。
「つーか、お前が火つけたんだろ、ユリウス」
ぼそりと呟きながらも、声に怒気はない。
けれど口調には、苦い諦めと、少しの呆れが混じっていた。
ユリウスはそれを聞き流すでもなく、軽く肩をすくめてみせる。
「ルナの魅力が悪いんだよ。僕は素直に応えただけさ」
さらりと返されて、シグはますます眉をひそめた。
その横で、フィンはフィンで満足げに笑っている。
「だって、可愛いんだもん。ルナ、ほんと反則だよ~」
──そんな中、ただ一人、何も言わない男がいた。
ヴィクトルだ。
壁際から一歩も動かず、ただルナフィエラを見つめている。
その眼差しは静かで、深く、決して視線を逸らすことがない。
(唇にキス、など……)
ほんの一瞬、瞳の奥に揺らぎが走る。
だが、それを表に出すことはなかった。
彼は微笑すら見せず、ただ静かに頭を垂れる。
「……ルナ様が、笑っていらっしゃるなら」
それだけを、ぽつりと小さく呟いた。
けれどその声音には、ひとつの決意が滲んでいた。
まるで、譲れぬ想いを、再び胸の奥に刻み込むように。
(今夜だけは、隣にいられる……)
だから、今は、耐える——。
後方から聞こえたヴィクトルの声に、ルナフィエラははっとして顔を上げた。
牙を引き、口元を手で押さえる。
「ごめ……」
「いいんだ。嬉しかったから」
そう言ったユリウスは、血の滲む自らの首に手を当てて傷を癒やす。
──そしてそのまま、ルナの頬に手を添えた。
何かを確かめるように、その瞳を覗き込んで。
「……よくできたね。偉いよ、ルナ」
ぽそりと囁くような声音とともに、彼の唇がルナフィエラの唇に触れた。
ほんの一瞬。
でも、確かに触れた──優しく、けれど迷いのないキス。
「……ご褒美。吸血の、ね」
ユリウスの声に、フィンがすかさず声を上げる。
「ユリウス……!?」
シグはあからさまに呆れた表情でため息をつき、ヴィクトルは眉をひそめたまま黙っている。
吸血の余韻がまだ身体に残る中──
唇に触れた、ユリウスのキスの感触が、じんわりとルナフィエラの中に広がっていった。
驚いた。
けれど──拒む気持ちはなかった。
ほんのりと熱を帯びた頬が、雄弁にその心を物語っていた。
(……今の、見られてた……よね?)
ちら、と視線を動かす。
案の定、フィンは驚いたように目を丸くして固まり、シグは眉を寄せ、ヴィクトルは気配を落とし静かに目を伏せていた。
そんな中、ユリウスは自然な仕草で、そっとルナフィエラの手を取る。
「ね。もう少しだけ、このまま一緒にいていい?」
その声は、つい先ほどまで吸血を許した相手とは思えないほど穏やかで、親しげだった。
ルナフィエラは戸惑いながらも、その手を振り払うことはなかった。
まるで引き寄せられるように──ユリウスの膝の上に、横向きに座らされる。
すべての動作があまりに自然で、導かれるままだったから。
ルナ自身も、抵抗することを忘れてしまっていた。
「よく頑張ったね、ルナ」
耳元で囁かれ、そっと抱きしめられる。
ユリウスの温もりが、くすぐったくて、落ち着かなくて──でも、安心する。
(……なんだろう、この感じ)
恥ずかしいけれど、嫌じゃない。
ぎゅっとされるたびに、心がやわらかく満たされていく。
──が。
「ちょっと、それずるいっ!」
唐突に立ち上がったフィンが、ぷくっと頬を膨らませながらルナフィエラに詰め寄る。
「僕、ルナに今日まだなにもしてないのにっ……!」
「え、えっ……!?」
「……ねぇ、僕もキスしていい?」
ぽつりと漏れたその声に、ルナフィエラの肩がびくりと跳ねる。
「え、フィン……?」
ルナフィエラが戸惑うより早く、フィンはユリウスの膝の前にしゃがみ込み、彼女の顔を見上げるようにして言った。
「僕も、ルナの唇に触れたい。……少しだけ、ね?」
その声は甘く、拗ねたようで、けれど真剣だった。
ユリウスは黙ったまま、腕の中のルナをそっと支えながらフィンを見つめる。
そして──
「フィ、フィン……っ」
ルナフィエラの声が震えた瞬間、フィンはその顔に優しく手を添え、そっと唇を重ねた。
「っ……!」
ごく軽く、けれど確かに触れたそのキスに、ルナフィエラの頬が一気に真紅に染まる。
「……ルナ、今日もほんとに可愛い」
満足げに微笑んだフィンの言葉に、ルナフィエラは思わずうつむいてユリウスの胸元へ顔を隠した。
「……も、もう、二人とも……好き勝手
すぎ……っ」
だけどその中に、ほんのりと浮かぶ笑み。
どこか心があたたかくなるような、そんなひとときだった──
「……はしゃぎすぎだ、フィン」
低くぼやいたのは、窓辺に立っていたシグだった。
腕を組んだまま、視線は微動だにせずルナのほうを見ている。
「つーか、お前が火つけたんだろ、ユリウス」
ぼそりと呟きながらも、声に怒気はない。
けれど口調には、苦い諦めと、少しの呆れが混じっていた。
ユリウスはそれを聞き流すでもなく、軽く肩をすくめてみせる。
「ルナの魅力が悪いんだよ。僕は素直に応えただけさ」
さらりと返されて、シグはますます眉をひそめた。
その横で、フィンはフィンで満足げに笑っている。
「だって、可愛いんだもん。ルナ、ほんと反則だよ~」
──そんな中、ただ一人、何も言わない男がいた。
ヴィクトルだ。
壁際から一歩も動かず、ただルナフィエラを見つめている。
その眼差しは静かで、深く、決して視線を逸らすことがない。
(唇にキス、など……)
ほんの一瞬、瞳の奥に揺らぎが走る。
だが、それを表に出すことはなかった。
彼は微笑すら見せず、ただ静かに頭を垂れる。
「……ルナ様が、笑っていらっしゃるなら」
それだけを、ぽつりと小さく呟いた。
けれどその声音には、ひとつの決意が滲んでいた。
まるで、譲れぬ想いを、再び胸の奥に刻み込むように。
(今夜だけは、隣にいられる……)
だから、今は、耐える——。
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