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第93話・初夏の、静かな通過点
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6月のレポートと小テストは、どうにか乗り切った。
提出期限に追われながらも、休まず通えた
――それだけで、少し達成感はあったはずなのに。
「でさ、その直後にこれ」
真奈が、プリントをひらひらと掲げる。
「前期試験の範囲。……え、休む暇なくない?」
「あると思った?」
綾花が苦笑して、アイスコーヒーに口をつけた。
「ないとは思ってたけど!思ってたけどさ!」
「大学ってそういうとこだよ」
綾花が淡々とそう言って、ページをめくる。
「性格悪すぎない?」
「大学が?」
「大学が」
くすっと笑いが落ちる。
テーブルいっぱいに広がる、3人分の参考書とノート。
「でもさ」
真奈が顔を上げる。
「ここ越えたら、夏休みじゃん?」
「一応ね」
綾花が言う。
「7月で試験終われば、9月まで授業ないし」
真奈がにっと笑う。
「大学の夏休みって、ほんと自由だから、めっちゃ遊べる」
「だね」
綾花が言う。
「朝ゆっくりできるだけで助かるし」
琴葉はページをめくりながら、ぽつりと。
「……それだけで嬉しいかも」
「わかる~」
真奈が笑う。
「目覚ましかけなくていいの、ほんと幸せ」
軽口を交わしながらも、自然と3人の手はノートへ戻っていく。
「じゃ、とりあえず頑張ろ。私、18時までね。バイトあるから」
「了解」
「うん」
窓の外はまだ明るく、 夏の光がガラス越しに店内へ差し込んでいた。
それぞれがノートに視線を落とし、静かな時間が流れる。
講義で使ったスライドの写し、配られたプリント、参考書の端に引かれた線。
必要な箇所だけを確かめるように、ページを行き来していた。
「ここさ、言い回しややこしくない?」
真奈が小さく声を落とす。
「そこ、先生が強調してたとこだと思う」
綾花が、彼女のノートを覗き込んだ。
「じゃあ、ここ押さえとけば大丈夫かな」
「うん、多分」
短いやりとりを挟みながら、またそれぞれの手元に戻る。
集中していると、時間はあっという間だった。
***
ふと、真奈がスマホを見て固まる。
「……やば」
次の瞬間、椅子を引いて立ち上がった。
「もう18時過ぎてる! 私、行かなきゃ!」
「もう、そんな時間?」
綾花も時計を見る。
「ごめんごめん、ほんとごめん!」
慌ててカバンを肩にかけながら、真奈が言う。
「グラスは片付けておくよ」
綾花が言うと、真奈はほっとしたように笑った。
「ありがとう!じゃ、先行くね!」
ばたばたと手を振りながら、真奈は店を出ていった。
残された2人も、そろそろ切り上げる空気になる。
参考書を閉じ、ノートを重ねていると、綾花がふと、視線を窓の外へ向けた。
「……あ」
「どうしたの?」
琴葉が顔を上げる。
「琴葉ちゃん、外。……彼氏さん来てるよ」
その一言で、琴葉も窓の向こうを見る。
ガラス越しに見える店の外。
入口の近く、歩道の端に見慣れた姿があった。
「……あ、ほんとだ」
思わず声が小さくなる。
「お迎え、来ちゃった」
「本当に、毎日来るんだね」
綾花がくすっと笑う。
琴葉は少し照れたように、慌てて荷物をまとめる。
「……うん。1人で帰れるって言ってるんだけどね。
でも、夏は体調崩しやすいからって……心配みたい」
言い訳するような口調になって、最後は小さく笑った。
「……愛されてるね」
少しからかうように言って、綾花は笑う。
「……恥ずかしいから、やめてよ」
「でも、すごいと思うよ。普通はなかなかできないから」
琴葉は一瞬だけ手を止め、それからバッグを肩にかける。
「……うん。ありがたいなって思ってる」
2人は席を立ち、店の出口へ向かった。
ガラス扉を押すと、夕方のやわらかな風が流れ込んでくる。
「じゃ、私は駅の方だから」
綾花が言って、軽く手を振る。
「うん。また明日ね」
歩き出す綾花の背中を見送り、琴葉は反対側へ視線を戻す。
歩道の端で待っている奏一の姿は、さっきと変わらずそこにあった。
呼吸を整えたまま、無理のない足取りで近づく。
「そうちゃん、待たせてごめんね」
奏一は静かに首を振った。
「いえ。お疲れさまでした、琴葉さん」
その声に、胸の奥が静かにほどけていく。
2人は自然な距離で並び、停めてある車までの道を歩き出した。
提出期限に追われながらも、休まず通えた
――それだけで、少し達成感はあったはずなのに。
「でさ、その直後にこれ」
真奈が、プリントをひらひらと掲げる。
「前期試験の範囲。……え、休む暇なくない?」
「あると思った?」
綾花が苦笑して、アイスコーヒーに口をつけた。
「ないとは思ってたけど!思ってたけどさ!」
「大学ってそういうとこだよ」
綾花が淡々とそう言って、ページをめくる。
「性格悪すぎない?」
「大学が?」
「大学が」
くすっと笑いが落ちる。
テーブルいっぱいに広がる、3人分の参考書とノート。
「でもさ」
真奈が顔を上げる。
「ここ越えたら、夏休みじゃん?」
「一応ね」
綾花が言う。
「7月で試験終われば、9月まで授業ないし」
真奈がにっと笑う。
「大学の夏休みって、ほんと自由だから、めっちゃ遊べる」
「だね」
綾花が言う。
「朝ゆっくりできるだけで助かるし」
琴葉はページをめくりながら、ぽつりと。
「……それだけで嬉しいかも」
「わかる~」
真奈が笑う。
「目覚ましかけなくていいの、ほんと幸せ」
軽口を交わしながらも、自然と3人の手はノートへ戻っていく。
「じゃ、とりあえず頑張ろ。私、18時までね。バイトあるから」
「了解」
「うん」
窓の外はまだ明るく、 夏の光がガラス越しに店内へ差し込んでいた。
それぞれがノートに視線を落とし、静かな時間が流れる。
講義で使ったスライドの写し、配られたプリント、参考書の端に引かれた線。
必要な箇所だけを確かめるように、ページを行き来していた。
「ここさ、言い回しややこしくない?」
真奈が小さく声を落とす。
「そこ、先生が強調してたとこだと思う」
綾花が、彼女のノートを覗き込んだ。
「じゃあ、ここ押さえとけば大丈夫かな」
「うん、多分」
短いやりとりを挟みながら、またそれぞれの手元に戻る。
集中していると、時間はあっという間だった。
***
ふと、真奈がスマホを見て固まる。
「……やば」
次の瞬間、椅子を引いて立ち上がった。
「もう18時過ぎてる! 私、行かなきゃ!」
「もう、そんな時間?」
綾花も時計を見る。
「ごめんごめん、ほんとごめん!」
慌ててカバンを肩にかけながら、真奈が言う。
「グラスは片付けておくよ」
綾花が言うと、真奈はほっとしたように笑った。
「ありがとう!じゃ、先行くね!」
ばたばたと手を振りながら、真奈は店を出ていった。
残された2人も、そろそろ切り上げる空気になる。
参考書を閉じ、ノートを重ねていると、綾花がふと、視線を窓の外へ向けた。
「……あ」
「どうしたの?」
琴葉が顔を上げる。
「琴葉ちゃん、外。……彼氏さん来てるよ」
その一言で、琴葉も窓の向こうを見る。
ガラス越しに見える店の外。
入口の近く、歩道の端に見慣れた姿があった。
「……あ、ほんとだ」
思わず声が小さくなる。
「お迎え、来ちゃった」
「本当に、毎日来るんだね」
綾花がくすっと笑う。
琴葉は少し照れたように、慌てて荷物をまとめる。
「……うん。1人で帰れるって言ってるんだけどね。
でも、夏は体調崩しやすいからって……心配みたい」
言い訳するような口調になって、最後は小さく笑った。
「……愛されてるね」
少しからかうように言って、綾花は笑う。
「……恥ずかしいから、やめてよ」
「でも、すごいと思うよ。普通はなかなかできないから」
琴葉は一瞬だけ手を止め、それからバッグを肩にかける。
「……うん。ありがたいなって思ってる」
2人は席を立ち、店の出口へ向かった。
ガラス扉を押すと、夕方のやわらかな風が流れ込んでくる。
「じゃ、私は駅の方だから」
綾花が言って、軽く手を振る。
「うん。また明日ね」
歩き出す綾花の背中を見送り、琴葉は反対側へ視線を戻す。
歩道の端で待っている奏一の姿は、さっきと変わらずそこにあった。
呼吸を整えたまま、無理のない足取りで近づく。
「そうちゃん、待たせてごめんね」
奏一は静かに首を振った。
「いえ。お疲れさまでした、琴葉さん」
その声に、胸の奥が静かにほどけていく。
2人は自然な距離で並び、停めてある車までの道を歩き出した。
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