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第138話・帰り道に混ざる声
店の前で、両家は改めて挨拶を交わし、それぞれの車へ向かっていく。
「では、また改めて」
父同士が最後に握手を交わし、母たちも穏やかに頭を下げた。
その間に、奏一が琴葉の隣へ来る。
何も言わず、そっと肩に手を添えた。
「行きましょう」
低い声。
琴葉は小さく頷く。
「うん」
2人は並んで駐車場の方へ歩き出す。
奏一の手はそのまま、琴葉の肩に軽く添えられている。
さりげない仕草だったが、守るような距離だった。
駐車場に停めていた車の前で、奏一が助手席のドアを開ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
琴葉が座るのを確認してから、奏一は静かにドアを閉めた。
そのとき――
「お兄ちゃん、待って」
彩乃の声が後ろから聞こえた。
振り向くと、彩乃と響がこちらへ歩いてくる。
来るときと同じように乗るつもりなのだろうか、と一瞬思う。
だが今回は琴葉がいる。
自然と、親の車に乗るのだろうと思っていた。
しかし彩乃は迷いなく言った。
「私たちも乗せて」
そして続ける。
「向こうの車、息が詰まるから嫌」
はっきりした口調だった。
隣で響は何も言わない。
ただ、どこか気まずそうな顔をしている。
奏一はしばらく2人を見ていたが――
はっきりとため息をついた。
そして助手席のドアを開ける。
「琴葉さん」
少し身をかがめる。
「この2人も一緒で構いませんか」
琴葉はきょとんとしたあと、小さく笑う。
「うん、大丈夫だよ」
嫌な様子はまったくない。
奏一はその言葉だけでなく、琴葉の表情を一度確かめる。
本当に気にしていないか、ほんの一瞬、視線を合わせる。
そして後ろのドアを開けた。
「どうぞ」
彩乃がぱっと顔を明るくする。
「やった」
嬉しそうに乗り込み、後部座席に腰を下ろす。
響は軽く頭を下げた。
「……兄貴、悪い」
どこか申し訳なさそうだった。
奏一は何も言わない。
ただ小さく息をつき、やれやれといった様子で運転席へ回る。
エンジンをかけ、車は静かに駐車場を出た。
店の灯りが、ゆっくりと後ろへ遠ざかっていく。
しばらくのあいだ、車内には落ち着いた静けさが流れていた。
その沈黙を破ったのは、やはり彩乃だった。
「ことちゃん」
前の座席の間から、ひょいと顔を出す。
「今日は大丈夫だった?」
気遣うような声。
琴葉は少し振り向く。
「はい。少し緊張しましたけど……大丈夫でした」
彩乃がしみじみ頷く。
「だよねぇ……
顔合わせって緊張するもん」
少し笑って、続ける。
「私も自分のとき、すごく緊張した」
響がすぐに口を挟む。
「姉貴が?」
半信半疑の声。
「緊張してた記憶ないけどな」
彩乃が振り向く。
「してたよ。最初だけ」
響は肩をすくめる。
「最初だけって……最初から普通に喋ってたじゃん」
彩乃はさらっと言う。
「すぐ慣れたの」
そしてまた琴葉を見る。
「でも安心して」
少し声を柔らかくする。
「お母さん優しいから。
ことちゃんのこと、ずっと心配してたみたい」
その横で響が口を挟む。
「普段は優しいけどな」
少し間を置く。
「怒ると普通に怖いぞ」
彩乃が即座に言う。
「それは響の素行が悪かっただけでしょ」
「え?」
響が眉を上げる。
「俺のせい?」
当然のように言い切る。
「そう」
そして琴葉を見る。
「ことちゃんは大丈夫だよ。可愛いもん」
真顔だった。
響がすぐ突っ込む。
「姉貴それしか言わないよな。可愛い可愛いって」
彩乃はまったく気にしていない。
「えー、いいでしょ」
少し嬉しそうに言う。
「妹ができたみたいで可愛いんだもん」
「妹って……兄貴と結婚するんだから姉だろ」
彩乃が少しむくれる。
「だから、わかってるって。お兄ちゃんと同じこと言わないで」
響が続ける。
「妹なら杏奈がいるだろ」
彩乃が首を振る。
「杏奈ちゃんは杏奈ちゃん」
そして琴葉を見る。
「ことちゃんはことちゃん」
――杏奈。
響の奥さんの名前だと、琴葉は思い出す。
さっき顔合わせの席でも一度話に出ていた。
響は肩をすくめる。
「よく分からないな」
小さく首を傾げる。
そのやり取りを聞きながら、琴葉は思わず笑ってしまった。
後部座席では、2人が当たり前のように言葉を交わしている。
軽く言い合いながら、それでもどこか楽しそうだ。
――妹と弟って、こんな感じなんだ。
少しだけ不思議な気持ちになる。
でも、嫌ではなかった。
むしろ、少しだけ羨ましい。
そのとき奏一が小さく言う。
「すみません」
視線は前を向いたまま。
「この2人は昔からこうで」
彩乃がすぐ言う。
「だって楽しいじゃない」
響も頷く。
「まあ、それはそう」
車の中には、賑やかな空気が広がっていた。
「では、また改めて」
父同士が最後に握手を交わし、母たちも穏やかに頭を下げた。
その間に、奏一が琴葉の隣へ来る。
何も言わず、そっと肩に手を添えた。
「行きましょう」
低い声。
琴葉は小さく頷く。
「うん」
2人は並んで駐車場の方へ歩き出す。
奏一の手はそのまま、琴葉の肩に軽く添えられている。
さりげない仕草だったが、守るような距離だった。
駐車場に停めていた車の前で、奏一が助手席のドアを開ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
琴葉が座るのを確認してから、奏一は静かにドアを閉めた。
そのとき――
「お兄ちゃん、待って」
彩乃の声が後ろから聞こえた。
振り向くと、彩乃と響がこちらへ歩いてくる。
来るときと同じように乗るつもりなのだろうか、と一瞬思う。
だが今回は琴葉がいる。
自然と、親の車に乗るのだろうと思っていた。
しかし彩乃は迷いなく言った。
「私たちも乗せて」
そして続ける。
「向こうの車、息が詰まるから嫌」
はっきりした口調だった。
隣で響は何も言わない。
ただ、どこか気まずそうな顔をしている。
奏一はしばらく2人を見ていたが――
はっきりとため息をついた。
そして助手席のドアを開ける。
「琴葉さん」
少し身をかがめる。
「この2人も一緒で構いませんか」
琴葉はきょとんとしたあと、小さく笑う。
「うん、大丈夫だよ」
嫌な様子はまったくない。
奏一はその言葉だけでなく、琴葉の表情を一度確かめる。
本当に気にしていないか、ほんの一瞬、視線を合わせる。
そして後ろのドアを開けた。
「どうぞ」
彩乃がぱっと顔を明るくする。
「やった」
嬉しそうに乗り込み、後部座席に腰を下ろす。
響は軽く頭を下げた。
「……兄貴、悪い」
どこか申し訳なさそうだった。
奏一は何も言わない。
ただ小さく息をつき、やれやれといった様子で運転席へ回る。
エンジンをかけ、車は静かに駐車場を出た。
店の灯りが、ゆっくりと後ろへ遠ざかっていく。
しばらくのあいだ、車内には落ち着いた静けさが流れていた。
その沈黙を破ったのは、やはり彩乃だった。
「ことちゃん」
前の座席の間から、ひょいと顔を出す。
「今日は大丈夫だった?」
気遣うような声。
琴葉は少し振り向く。
「はい。少し緊張しましたけど……大丈夫でした」
彩乃がしみじみ頷く。
「だよねぇ……
顔合わせって緊張するもん」
少し笑って、続ける。
「私も自分のとき、すごく緊張した」
響がすぐに口を挟む。
「姉貴が?」
半信半疑の声。
「緊張してた記憶ないけどな」
彩乃が振り向く。
「してたよ。最初だけ」
響は肩をすくめる。
「最初だけって……最初から普通に喋ってたじゃん」
彩乃はさらっと言う。
「すぐ慣れたの」
そしてまた琴葉を見る。
「でも安心して」
少し声を柔らかくする。
「お母さん優しいから。
ことちゃんのこと、ずっと心配してたみたい」
その横で響が口を挟む。
「普段は優しいけどな」
少し間を置く。
「怒ると普通に怖いぞ」
彩乃が即座に言う。
「それは響の素行が悪かっただけでしょ」
「え?」
響が眉を上げる。
「俺のせい?」
当然のように言い切る。
「そう」
そして琴葉を見る。
「ことちゃんは大丈夫だよ。可愛いもん」
真顔だった。
響がすぐ突っ込む。
「姉貴それしか言わないよな。可愛い可愛いって」
彩乃はまったく気にしていない。
「えー、いいでしょ」
少し嬉しそうに言う。
「妹ができたみたいで可愛いんだもん」
「妹って……兄貴と結婚するんだから姉だろ」
彩乃が少しむくれる。
「だから、わかってるって。お兄ちゃんと同じこと言わないで」
響が続ける。
「妹なら杏奈がいるだろ」
彩乃が首を振る。
「杏奈ちゃんは杏奈ちゃん」
そして琴葉を見る。
「ことちゃんはことちゃん」
――杏奈。
響の奥さんの名前だと、琴葉は思い出す。
さっき顔合わせの席でも一度話に出ていた。
響は肩をすくめる。
「よく分からないな」
小さく首を傾げる。
そのやり取りを聞きながら、琴葉は思わず笑ってしまった。
後部座席では、2人が当たり前のように言葉を交わしている。
軽く言い合いながら、それでもどこか楽しそうだ。
――妹と弟って、こんな感じなんだ。
少しだけ不思議な気持ちになる。
でも、嫌ではなかった。
むしろ、少しだけ羨ましい。
そのとき奏一が小さく言う。
「すみません」
視線は前を向いたまま。
「この2人は昔からこうで」
彩乃がすぐ言う。
「だって楽しいじゃない」
響も頷く。
「まあ、それはそう」
車の中には、賑やかな空気が広がっていた。
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