転生したら魅了スキルが強すぎて人生ハードモードだった件

蟒蛇シロウ

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第1章「幼少期~小学生の日々」

第39話「海岸への旅路 ~痩せ細った女との再会~」

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「みんな、少しいい? みんなに説明しないといけないことがあるの」
 華怜はそう言うと、俺たちに自分が聞いた情報を全て話すことにしたらしい。
 母さんは華怜の大人びた態度に驚いていたけど、茉純さんは華怜の言葉を慎重に聞いていた。そう言えば、以前に華怜が言っていたっけ。
「お母さんには、あえて大人っぽい言動をすることもあるの。もちろん、不自然すぎない程度にね。重要なこととかは、私の意見もちゃんと聞いてくれるようになったわ」
 って、感じのことを。

 華怜が提案したのは、陸路では検問所がいくつかあるだろうけど、そこが暴徒たちやニュー東京の兵士に占領されていたら車でも突破できないかもしれない。
 だから車を見つけたら、南下して海岸を目指す。
 海岸ではニュー東京の不穏な動きやバイオテロに備えて、常にいくつかの世界平和連合軍の艦隊が哨戒にあたっている。民間人である自分たちは、確実に保護してもらえる。
 そのために車を使って海まで移動しよう、というものだった。

「でも華怜、その情報の裏付けは取れてるの? 本当に平和連合軍は保護してくれるの?」
 茉純さんが当然の疑問を華怜にぶつける。すると、彼女は少し考えて答えた。
「確証はない。でも、少なくとも陸路で長距離を移動するよりは、安全だと思う。仮にすぐ保護されなかったとしても海岸沿いに出てしまえば、もう誰も手を出せない。武装した精鋭の兵士を多数乗せた戦艦相手にやり合おうなんて考えるニュー東京の人はいないはずだから」
 華怜はそう言うと、みんなの顔を真剣に見つめた。

「お願い、私を信じて! 私は絶対大丈夫だって信じてる!」
 華怜の必死な訴えに、母さんと茉純さんは少し戸惑っているようだった。
 そんな2人を励ますように俺は言う。
「俺も華怜を信じるよ。それに、他に方法はないんだ。今は華怜の案に賭けてみようよ」
 俺の言葉に母さんと茉純さんは、お互いに顔を見合わせた後小さくうなずいた。
「そうね……。うん! 華怜ちゃんの考えを信じるね」
 母さんの言葉に茉純さんもうなずく。
「この子は小っちゃい頃から、私よりもずっと頭のいい子。信じてるね、華怜」
 茉純さんはそう言うと、華怜の髪を愛おしそうに撫でた。
「ありがとう、お母さん……みんな」
 華怜は少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに微笑む。
 こうして俺たちは、入間さんの用意した車を探してそれに乗り込み、海岸を目指すことを目標に定めるのだった。


 華怜が言うように、隣町にたどり着くとそこには車があった。入間さんが置いて行ってくれたものだ。
 後部座席には小さい袋があり、そこには俺の能力を抑制する薬が入っていた。
 本当にありがたい。あと数日分しか残っていなかったから、どうするべきかと悩んでいたのだ。
 俺は薬の袋を握りしめながら、改めて入間さんに心の中で感謝した。

「よし! じゃあ出発しよう!」
 俺がそう声をかけると、みんなは笑顔でうなずいた。そして俺たちは車に乗り込むと、すぐに出発したのだった。
 道中は特に問題もなく進むことが出来たが、やはり途中で通りかかった検問所を遠くから見てみると、どう見ても怪しげだった。
 検問所の周辺には武装した兵士が巡回しており、明らかに出入りを制限している。
 入間さんの情報通り、ほぼ全ての主要道路は奴らのような連中に押さえられていると言っても過言ではなさそうだ。
 母さんが運転する車は連中に見つからないように、検問所とは別の方向に進んでいくのだった。

 海岸を目指すなかでいくつか町を通過したけど、やはり人の姿はない。
 人々は完全に町を捨てて、安全な地域へと避難しているようだ。
 この辺りに、ニュー東京の売人や暴徒たちの手が伸びてくるのも時間の問題だ。早く関東から抜け出さないと、俺たちも危ない。

 それからしばらく進んでいると、俺たちの目の前にようやく海が見えてきた。
 国道や高速道路などを避け、狭くて細い道を調べながら抜けてきたため、だいぶ時間がかかってしまったけど俺たちはようやく目的地である神奈川県の鎌倉市までたどり着くことが出来た。
 世界的にも有名で、観光地としても人気を博すあの鎌倉だというのに、やはりというべきか人の姿は全く見られなかった。

「こんな場所にも……もう人が残ってないのね……」
 茉純さんはミラーから見える景色を眺めながら、そんな声を漏らす。
「うん……確かに寂しいね……」
 そんな茉純さんに華怜は共感するようにそう返す。俺も同じように感じていた。
 俺たちを乗せた車の音だけが、町に響いていた。
 海岸線の向こうに、空に立ち上る煙が見えた。まだ姿かたちは見えないけど、あれは船から立ち上っているものだろう。

 車は徐々に海岸線へと近付いていく。
「見えてきたぞ!」
 俺は思わずそう叫んだ。だが、その言葉を途中で飲み込んだ。なぜなら、車の中に異音が響き始めたからだ。
 それはまるで金属が擦れ合うような、そんな音だった。

「な、なに!?」
 茉純さんが驚きの声を上げるなか、母さんは必死にハンドルを握りながら叫んだ。
「わ、わからないっ! けど、急にハンドルが……」
 必死にハンドルを切る母さんだったが、思うように車が動かせないらしい。
「タイヤがパンクしてるんだわ! このままだと……」
 華怜がそう言った瞬間、車が大きく揺れた。どうやらタイヤが完全にパンクしたらしい。
「きゃっ!」
 母さんの短い悲鳴が聞こえた直後、車がスリップするような形で停車した。
 しばらくの間、沈黙が続いた。誰も言葉を発せないでいたのだ。


「み、みんな……ごめんね、大丈夫?」
 母さんが胸の辺りを押さえながら、申し訳なさそうに言う。
 どうやら全員、怪我はないようだった。
 パンクした車に乗っていても仕方ないので、大事な物だけ持って俺たちは車を降りた。
「ここからは歩いていくしかないけど、あと少しよ。頑張りましょう!」
 茉純さんの言葉を受けて、俺たちは力強くうなずいた。
 ここから歩いても10分と掛からないだろう。すでにカモメの鳴き声が聞こえ、潮の匂いも漂っている。
 だが、華怜はパンクしたタイヤを見て首を傾げる。

「どうしたの、華怜?」
 俺はそう声を掛けながら彼女の隣に行き、壊れたタイヤを見てみた。
 その瞬間、はっと息を飲んだ。
「こ、これって……パンクしたんじゃなくて、タイヤが切られてる……?」
 タイヤは刃物のようなもので、すぱっと綺麗に切り傷を入れられていたのだ。
「そ、それって……つまり……」
 俺の言葉を聞いた華怜も母さんも茉純さんも……その言葉の意味を理解してしまったようで青ざめていた。

「早くここから逃げないと!」
 俺が慌てて叫ぶと、みんなは一斉に駆け出した。どんな方法を使ったのかはわからない。誰がそんなことをしたのかもわからない。Ouroborosかもしれないし、暴徒たちかもしれないし、生物兵器の可能性だって高い。
 だけど……。今はそんなことはどうだっていい。
 動く車のタイヤだけを攻撃できる存在が、すぐ近くにいる。
 その事実だけは確かなことだ。
 俺たちは海岸まで走って逃げた。幸いなことにまだ追って来る気配はないけど、決して油断は出来ない。


「はあっ……はあっ……ここまで来れば大丈夫かしら……?」
 華怜が息を整えながら、そう言って周囲を見回す。
 俺たちは鎌倉市の海岸沿いまで辿り着いていた。
 すでに船の姿も見えている。どうやらこちらに近づいて来ているようだが、着岸にはまだ少し時間がかかりそうだ。
(頼む! 早くしてくれ! こうしている間にも、誰かが俺たちを狙ってきているんだ!)
 俺は心の中でそう願いながら、船に向かって大きく手を振ったのだった。


 その時だった。
「うそ……。い、いや……。あ、あなたは……。あ……あ、ああ……」
 船に向かって手を振っていた俺は、母さんの震える声が耳に入り、すぐに振り返った。
 母さんの視線の先には……。

「オ久シブリ、雄飛クン……。ソシテ、舞歌チャン……。ヤッパリ2人トモカワイイネェ!」
 ゾッとした。いや、それ以上の感情だった。
 視線の先にいたのは、満面の笑みで微笑む痩せ細った女だった。

 数年前、俺に接触し、襲い掛かってきたOuroborosの女だ。長い黒髪の間からのぞくギョロリとした目が、俺をしっかりと捉えていた。
「う……うぅ……」
 母さんはその場でうずくまり、苦しそうにうめき声を上げていた。俺の心臓もドクンドクンと激しく鳴っていた。
(やっぱりOuroborosの連中が追ってきた……)

 冷静になるように自分に言い聞かせる。俺はあの時の俺とは違う。守られるだけじゃないんだ。
 あと少しで、平和連合軍の船が到着する。それまでの間、この女相手に母さんたちを守ってみせるんだ。
 俺は一歩前に出て、母さんと華怜たちを庇うように立った。
 そんな俺を見て、女は満足そうな笑みを浮かべた。

「ソウダヨ! ソノトオリダネェ~雄飛クゥ~ン! 君ハソウデナクッチャ……ネェ! 愛スル人ヲ守ル雄飛クン、カワイイカワイイ! 怯エテル舞歌チャン、カワイイカワイイ!」
 痩せ細った女は、まるで舌なめずりをするようにしながら、俺と母さんに視線を向ける。
「や……やめて……」
 母さんは震えながらもそう声を絞り出したが、女はそんな母さんの声を聞いてさらに興奮しだした。
「アハハハァ! 覚エテテクレタンダァ~。マタ可愛ガッテアゲル、舞歌チャン! 雄飛クンモ、モウ怖ガラナイデ良インダヨォ!」

「お前は……誰だ……」
 俺がそう問うと、女は一瞬きょとんっとした顔になった後、すぐに笑顔になった。
「ソウダッタナァ~! アノ時ハ自己紹介シテナカッタネ。ワタシハ、名女川優希なめかわゆき
 名女川優希、それがこの女の名前か……。
 この女が名乗った瞬間、母さんは再び耳を塞いで泣き叫んだ。
 母さんがこんなに取り乱す姿を見るのは生まれて初めてだ。
 ……こいつと母さん、昔何かあったのか……?
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