転生したら魅了スキルが強すぎて人生ハードモードだった件

蟒蛇シロウ

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第1章「幼少期~小学生の日々」

第48話「雄飛と華怜 ~夕影の2人~」

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 ホテルで朝食を食べ終えた俺たちは、平和連合軍から情報提供を求められて、彼らにOuroborosの連中について知っていること、見たことを説明した。
 俺はできる限りのことは説明したつもりだ。……俺と華怜が転生者であることなどは隠していたけど……。
 たしかに平和連合軍は頼りになる組織で俺たちを保護してくれたけど、実際、黒い噂を聞かないでもない。
 今の時点で確実に信用できるわけではない。
 先日もテロ組織と内通していた軍幹部が逮捕されている。
 つまりOuroborosやテロ組織、ニュー東京の連中とつながっている可能性のある人物だっているかもしれないのだから。

 結局、全て終わって解放される頃には夕方近くになってしまっていた。
 岡山に向けて出発しようと準備する俺に、華怜が声を掛けた。
「雄飛、私と母さんは後から行くわ。あなたたちは先に岡山に行って」
 彼女の言葉に茉純さんもうなずく。やはり茉純さんの様子は、まだ少し心配だ。だけど、2人だけ残していって大丈夫だろうか?
「……わかった」
 俺が少し間を置いてからそう言うと、華怜は微笑む。
「何? ひょっとして心配してくれてるの?大丈夫よ、もう。……でもありがとう」
 華怜はそう言って、俺の頭を優しくなでる。
「ちょっ! か、華怜の強さはよく知ってる……けど。昨日のことがあるし、心配はするよ」
 俺がそう言って頬を膨らませると、華怜はクスッと笑っていた。

「雄飛ったら、ほんとに頼もしくなったのね。……安心して。ちょっと母さんの体調が戻るまでこの近くの病院に滞在するだけだから」
 彼女はそう言って、茉純さんの方を見る。
「で、でも大阪に2人だけで残って大丈夫なの? Ouroborosとかテロリストの心配は少ないだろうけど、知らない土地で2人きりは……」
 俺がそう言っていると、華怜は人差し指を振りながら得意げに言う。
「私の前世の弟、空乎の話し方を見たでしょ? 私はね、前世は大阪生まれ大阪育ちなの。だからむしろ土地勘があるくらいよ」
 自信満々の彼女を見て、納得するしかないなと思う。

「……なら問題なさそうだけど、くれぐれも気を付けてね? 万が一にも2人に何かあったら……」
 俺がそこまで言うと、華怜はフッと笑う。
「私の心配よりも、自分と舞……雄飛のママの心配をしなさい。……でも、ありがと」
 彼女はそう言って微笑むと、母さんと茉純さんの方を見る。
 2人は何やら話し込んでいるようだ。恐らくは茉純さんの体調が戻った後のことについて、大人同士で話し合っているのだろう。

「ねぇ雄飛。少しの間会えないだろうし、修行に付き合ったげる♪」
 視線を俺に戻した華怜は、そう言ってニッコリと微笑んだ。母さんたちはまだ話し込んでいる。
 少しの間なら、華怜と格闘術の鍛錬をしても大丈夫だろう。
「わかった、ありがとう」
 俺がそう言うと、彼女はニッコリと笑って手を差し伸べてくる。俺はその手を強く握ったのだった。


 俺たちは少し開けた場所に移動する。
「さぁ、雄飛。ここ数年でずいぶん強くなったけど、まだ私には一度も勝ててないわね。今日こそ頑張って勝ってみせなさいよ?」
 華怜はそう言うと、拳を握りしめて構えを取る。
「もちろん! 今日こそ勝つ!」
 俺もそう言い返して構えを取った。
 夕日が俺たちを照らし、春風が俺たちの髪を揺らしていく。
 そして……。
 俺たちは激しく拳を交える……が、やはり華怜にはかすりもしない。
 一方の俺は、すでに何度か彼女の攻撃を受けている。

「ほら雄飛、どうしたの? 息が上がってるわよ?」
 華怜はニヤリと笑いながらそう言う。俺は荒い息を整えながら彼女の動きを観察していた。
 ほんと彼女には隙がない……。なんとかして攻め込まなければ……。
 俺は思い切って間合いをつめる。そして拳を突き出した。華怜はそれを避けると、すかさず俺の腕をつかむ。
「甘い!」
 彼女はそう言って、俺を投げ飛ばしたのだった。
 地面に叩きつけられた俺は、すぐに起き上がる。すると……目の前には彼女の足があった。
 彼女はそのまま俺の頭に回し蹴りを炸裂させる。それをかろうじてガードしたものの、そのまま吹き飛ばされてしまった俺。

「ほら、まだ終わりじゃないんでしょ!? 本気でかかってきなさい!」
「くっ……」
 俺が立ち上がると、華怜は再び構えを取る。俺もそれに呼応するように身構えた。
(華怜はどうしてここまで……いや、そうだ。華怜と離れて行動するってことは、本当に俺1人で母さんを守らないといけないってことだ。華怜はきっとそれを心配してくれてるんだ)
 そう考えながら、俺は再び華怜に拳を振るう。今度は彼女よりも素早く動くことを意識し、攻撃のチャンスを窺っていた。
 俺の拳はことごとく躱されるものの、少しずつ彼女の動きにも慣れていく。そして……ついにその時が来た!

「ここだぁ!」
 俺の放った右ストレートは華怜の頬をかすめる。彼女はそれを間一髪で回避したが、体勢を崩した! 俺はその隙を逃さず、そのまま彼女の体に抱き着くように接近して、勢いに任せて押し倒した。
「やった!」
 確実に華怜の体を下に押し倒した感覚があったのに、そこには彼女の姿はなかった。
「あ、あれ!?」
 俺が後ろを振り返ると同時に、いつものように俺の額に人差し指が当てられる。
 ……しまった、いつもと同じだ。
 ニッコリと微笑む華怜。彼女はトンッと俺の額を押す。
 いつもと同じく、たったそれだけのことで俺の体は力が抜けてそのまま尻もちを着いてしまう。


「くっそ~! 絶対にいい線行ってたのにぃ~! 今までで一番勝てそうだったのにぃ~!」
 俺は情けない声を上げながら、地面に寝転がった。
「いつも同じ手に引っ掛かってたらダメでしょ? まだまだね♪」
 華怜はそう言うと、俺の前にしゃがみこむ。
「……なんてね。雄飛ってほんとに優しいのね」
 彼女の微笑みに、俺は首を傾げる。
「え、何が?」
 すると彼女は、俺の頭をなでてきた。俺はいつものようにそれを受け入れる。

「……やっぱ気付いてないか。あのね、さっきもそうだしこれまでだって何度か、雄飛は私に勝ってるのよ?」
 そう言って苦笑する彼女。
「い、いいって……気休めを言うのは。一回だって華怜に勝てたことなんてないんだから」
 俺はそう言って視線を逸らした。
 さすがに今回は初めて惜しいなって自分でも思えたけど、それでもとても勝てるなんて思えない。
 だけど華怜は……。
「だから優しいって言ったの。雄飛はね……無意識に拳を下げたり、蹴りを入れられそうなのに入れなかったり、もう何度もそんなことがあったのよ? きっと相手が私だから無意識のうちに手加減しちゃってるのよね」
 彼女の言葉は優しかったけど、それってつまり俺が勝負において本気になれていないってことじゃ……。
 俺は本気でみんなを守らないといけないのに。

「そんな顔しないの」
 彼女は俺の頬を掴んでムニムニと引っ張る。突然のことに、俺はされるがままだ。
「大丈夫。ちょっと前からそのことは気になっていたけど、雄飛はちゃんとOuroborosの連中と本気で戦っていたでしょ?」
 彼女はそう言って微笑む。
「でも……それは……」
 俺がそう言いかけた時、華怜は人差し指を俺の唇に当てる。
「雄飛、あなたは戦うべき時に戦うことができる人よ。それを忘れないで。あなたには、もう守りたいものを守れるだけの力があるんだから」
 華怜の言葉に、俺は心が熱くなるのを感じた。確かに俺は……守りたいもののためならいくらだって戦える、と自分でも思う。

「確かに私相手には本気になれないかもしれないけど、そこが雄飛の優しいところだもの」
 そう言って彼女は、俺に手を差し出す。
「ほら。そんな優しい雄飛が私は好きよ。だから自信を持ちなさい?」
 そう言って優しく微笑む華怜。
 その笑顔に、俺は……。
「うん、ありがとう」
 そう言って彼女の手を取り、立ち上がるのだった。
「雄飛は強い子よ。でも、もっと強くなるのよ。そして……いつか私よりも強くなってね?」
 彼女の言葉に、俺は深くうなずく。
「うん」
 俺の返事を聞いた華怜は安心したように微笑むと、再び俺の頭をなでてくれる。
 こうしていると、やっぱり華怜は俺よりもずっとお姉さんなんだなって実感する。
 1歳年上ってだけじゃなくて、転生者としても俺よりもずっと先輩なわけだし。

「雄飛ちゃ~ん! そろそろ出発だよ~?」
 母さんがこちらに向かって手を振っている。
 俺と華怜はうなずいて、母さんと茉純さんのところへと戻るのだった。

「それじゃあ、またすぐに会えるけど元気でね、雄飛」
「華怜こそ。こっちは大丈夫だから、茉純さんが良くなったら一緒に岡山に来てよね」
 そう言って俺たちは握手を交わす。
「もちろんよ。今度会う時は、雄飛ももうちょっと大人っぽくなってるかな~?」
 華怜はそう言って、クスッと笑う。
「き、きっと今よりもずっとカッコよくて大人っぽくなってるさ」
 俺がそう言うと、2人で顔を見合わせて笑い合った。
「うん、楽しみにしとく♪」
 彼女はそう言うと、俺の頭を優しくなでる。

「じゃあね、華怜」
「うん、またね雄飛」

 そう言って微笑むと、華怜は茉純さんと一緒に病院へと向かうタクシーに乗って行ってしまった。俺と母さんは見えなくなるまで見送るのだった。


「……行っちゃったね」
 母さんがポツリと呟くように言う。俺はそんな母さんに微笑みかけた。
「大丈夫、すぐにまた会えるよ。華怜とも茉純さんとも」
 俺の言葉に母さんは嬉しそうに目を細めると、
「ふふ、そうだよね。また雄飛ちゃんに励まされちゃったね。……よし、じゃあ私たちも行きましょうか♪」
 そう言って歩き出すのだった。
 俺たちは岡山に向けて出発する新幹線に乗り込んだ。
 これからどうなるのかはわからないけど、俺は必ず母さんを守り抜くんだと心に固く誓ったのだった。
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