転生したら魅了スキルが強すぎて人生ハードモードだった件

蟒蛇シロウ

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第1章「幼少期~小学生の日々」

第49話「新たな地、岡山。絶望の報せ」

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 それから1時間ちょっと。
 俺と母さんは、岡山駅に到着していた。
「舞歌ちゃん! 雄飛くん!」
「さつきさん!」
 駅の改札にはすでに新山にいやまさんが待っていて、母さんと彼女は固く抱きしめ合っていた。
「よかった、2人が無事で……。本当に心配したんだから」
 新山さんはそう言って涙を流している。母さんはまるで子供のように彼女の腕に抱かれている。
「雄飛くんも、もう大丈夫だからね」
 彼女はそう言って優しく微笑んでくれた。俺も久しぶりに見た新山の笑顔に、安堵する。年齢はそんなに高くないけど、母さんのことを娘のように思っている新山さんからすれば、俺は孫みたいなものなんだろうな。
「うん、ありがとう。新山さん」
 俺がそう言うと、彼女は母さんから離れて今度は俺にハグをしてくれた。

「あれ? もう2人、一緒に来るはずじゃ?」
 新山さんは俺と母さんしかいないことに気付き、不安そうな表情を浮かべる。
「あ、実は……。ちょっとお母さんの方が体調を崩してしまって、娘さんと一緒に大阪の病院で少し良くなってから来ることになってるんです」
 母さんがそう言うと、新山さんはホッと安堵したようだ。
「そうだったのね。それを聞いて安心したわ。それじゃあ行こうか」
 そう言って先導する新山さんに続く俺たち。


 案内された新居は、親子2人で住むには結構広めなマンションだった。
「ここならセキュリティもしっかりしてるわ。同じマンションの1室を押さえてるから、あとから来るお友達の家族にもそこを紹介するわね」
 新山さんはそう言って、俺たちを家の中に案内してくれるのだった。部屋の中に入ると、リビングやキッチンなど、かなり広くて驚いた。
 今日からここが俺たちの住まいになるんだ。
「さつきさん、ありがとう。本当はもっとお礼をしたいんだけど……」
 彼女は申し訳なさそうに言うと、新山さんも小さく首を振って否定する。
「ううん、いいの……。舞歌ちゃんたちが生きてくれてるだけで十分だよ」
 新山さんがそう言うと、母さんは改めてお礼を言い、俺たちも頭を下げたのだった。
「さつきさんのおかげで私は今まで生きてこれたから……」
 母さんがそう呟くと、新山さんは母さんの頭をポンポンと優しくなでる。
「まったくこの子は……。舞歌ちゃんは、舞歌ちゃんが今できることで頑張ればいいんだからね?」
 新山さんの言葉に、母さんは小さくうなずく。
「……うん」
「よし、いい子!」


 こうして俺たちの新しい生活が始まる。
 俺はもうすぐ近くの中学校に通うことになる。
 ほぼ転校みたいなものだけど、元々小学校の時から友達は少なかったからあまり変わらない。
 問題は、茉純さんと華怜の2人がいつ来てくれるのかだ。茉純さんの体調が戻ったら来ると言っていたけど……。
 華怜が来れば、きっと中学生活も以前と変わらずに過ごせるだろう。
 ……って、また華怜を頼っちゃってるな。しっかりしないと。華怜にばっかり頼らずに、自分で頑張れるように。

 それから約1週間が経ち、華怜から連絡が来た。どうやら茉純さんの体調が回復したようだ。
 俺はすぐに母さんに報告する。
「よかった……。これでみんな揃うわね」
 母さんはホッとしたように胸を撫で下ろすと、嬉しそうに微笑んだ。
 だけど……。


 だけど1週間後、マンションにやって来たのは茉純さん1人だけだった。
 俺は、また彼女がイタズラしているのだと思ったんだ。俺をビックリさせようとして、ふざけているんだって。
 茉純さんの影からひょいっと現れたり、あるいはキョロキョロしている俺の背後から目隠ししてきたり、あるいはすでにアパートの前に立っていたり……。
 そんなドッキリを仕掛けてくるに違いないんだ、と。
 だけど、華怜の姿はどこにもない。
 茉純さんの暗い表情が、彼女に何かあったことを物語っていた。

「ま、茉純さん? か、華怜ちゃんは……?」
 母さんが暗い表情のまま、玄関に立ち尽くす茉純さんにそう尋ねる。
 茉純さんは黙っている。
 俺は華怜に何かあったんだという不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら、茉純さんの言葉を待った。
 そして……彼女はゆっくりと口を開く。
「……華怜は…………もういないの」
 その言葉に俺は絶句する。隣にいる母さんも目を見開いて固まってしまったようだ。
「な、なんで……」
 辛うじて俺が口にできたのはそれだけだった。茉純さんは唇を震わせている。

「な、なにを……なんで……いやだよ……。ど、どうして!」
 俺は思わず叫んでしまった。
 そんな俺を、茉純さんは悲しそうな目で見ている。
「お、教えてよ! なんで……なんで華怜は……」
 俺が詰め寄ると、彼女は俯いたまま小さく呟いた。
「……華怜は……あの時の連中に……」
 あの時の連中。Ouroborosのことだ! まさか、アイツらが華怜を……。
「そ、そんな……」
 俺は愕然としたまま、立ち尽くす。
 母さんは涙を浮かべて茉純さんを見つめている。
 茉純さんは悲しげな表情で首を左右に振り、何も話そうとはしなかった。

「……華怜ちゃん」
 母さんの目からポロポロと涙が溢れる。
 母さんの涙を見てついに耐えられなくなったのか、茉純さんはその場に崩れ落ちて泣き出した。
「うう……ぐす……華怜……華怜……どうしてあの子が……うぅっ……うあああっ!」
 慟哭する茉純さん。
 そんな茉純さんを母さんは強く抱きしめ、自分も涙を流し続けていた。

 嘘だ……。華怜が……。華怜が……?
『ほら。そんな優しい雄飛が私は好きよ。だから自信を持ちなさい?』
 笑顔で手を差し伸べる華怜。
『雄飛は強い子よ。でも、もっと強くなるのよ。そして……いつか私よりも強くなってね?』
 握手をしながら微笑む華怜。
『うん、またね雄飛』
 笑顔で手を振って別れた華怜。
 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!! そんなの……。華怜!
 俺の中で彼女のよく通る声と、少しお姉さんぶった話し方、そして夕日のように明るく、だけどどこか儚い笑顔が浮かんでは消える。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 俺は絶叫して床を何度も叩いた。
 そんな……嘘だ! 華怜が……。そんな……そんなのって……。
「うあああ!! あああああああ!!!」
 怒りなのか悲しみなのかわからない感情に襲われて、俺はただ泣き叫ぶことしかできなかった。


 その数日前の大阪。
 雄飛と別れた華怜と茉純は、療養先の病院付きホテルへと戻っていた。
「華怜……ごめんね。もう少しで良くなるから」
 茉純はベッドの上で上半身を起こすと、心配そうにベッドの横にある椅子に腰掛ける華怜を見つめる。
「ううん、ゆっくりでいいよお母さん。あんなことがあったんだもの……」
 華怜は茉純さんを優しく見つめる……が、視線を落としてスカートの裾をぎゅっと握る。
「怖い……よね。私のこと……。ずっと嘘ついててごめんなさい。……私は前世の記憶を持ってて、だから……お母さんが感じていた大人びてるってのは、当然で……。ごめんなさい……。本当にごめんなさい」
 華怜は辛そうな表情で茉純さんに謝罪する。そんな華怜を見て、茉純は慌てて彼女の手を取った。
「ち、違うの! それはいいの! だって……あなたは私の娘なんだから!」 
 そう言って微笑む茉純に、華怜は驚いたように彼女を見る。
「え……? でも……。嫌じゃないの?」
 華怜の不安そうな声に、茉純は優しく微笑んで首を横に振る。
「ううん、嫌じゃないわ。華怜、あなたは私の娘よ? 誰がなんと言おうと、前世の記憶を持っていようと」 
 そう言って彼女はそっと華怜を抱きしめた。

 その温かさに、華怜はポロポロと涙を流して嗚咽する。
「……お母さん、お母さん!!」
(転生者だと知っても、私のこと受け入れてくれるなんて……。お母さん……ありがとう)
 華怜は茉純さんの胸に顔を埋めて、しばらく泣き続けたのだった。

「ごめんね、お母さん。もう大丈夫」
 しばらくして、ようやく落ち着いたのか華怜はそっと茉純から離れると涙を拭う。
「いいのよ。……でも、もう華怜が傷付くのは見たくないわ。だから……今度ああいうことがあったら、すぐに逃げましょう? それでも逃げられないなら、平和連合軍の人たちに助けてもらうの」
 茉純の言葉に華怜はうなずく。
「うん、そうする(約束はできないかもしれないけど……お母さんをこれ以上心配させたくない)」
 華怜は心の中でそう呟きながら、茉純さんに向かって微笑んだ。


 その翌日。
 まだ体調が戻らず病室のベッドに横になっている茉純のために、華怜は果物などを買いに行くことにした。
「お母さん、何か買って来るよ? 食べたいものはない?」
 華怜がそう尋ねると、茉純は少し考える素振りを見せる。
「うーん、そうね……。じゃありんごとみかんをお願いしてもいい? それとスポーツドリンクも……いい?」
 茉純の言葉に、華怜は笑顔でうなずく。
「うん、わかった! 買って来るから待っててね?」
「ごめんね……。ありがとう、華怜」
 茉純は申し訳なさそうにそう言った。華怜はそんな彼女を安心させるように、彼女の頭をなでる。
「ううん、気にしないでお母さん」
 華怜はそう言うと病室を後にするのだった。


 病院の近くのスーパーへと向かう華怜。
「えっとりんごとみかん……スポーツドリンクは……っと」
 華怜がキョロキョロしながら買い物かごに商品を入れていく。
「あとは……。あ、そうだ! ちょっと甘いものも買おうかな」
 そんな独り言を呟きながら華怜はお菓子売り場へと足を運ぶ。そして、チョコレートやクッキーなど、いくつかの商品を手に取った。
 ふと、華怜は茉純の好きなかりんとうの袋が目に留まる。それは棚の一番高い位置にあった。
「うぅうん!」
 目一杯背伸びをする華怜だったがあと僅かに手が届かない。
「もう……ちょっとなのにぃ……!」
 華怜はもう一度背伸びをして手を伸ばすが、やはりあと少しのところで届かないようだ。
 その時だった。

「なんや、これが欲しいんか?」
 という声と共に、かりんとうの袋を掴む手があった。
 その声、そしてその口調に華怜はすぐにそれが誰なのかわかった。
「く、空……乎」
 驚いたように見上げると、そこには彼女の予想した通りの人物、空乎くうやが立っていた。
「えらい小さなったなぁ……」
 空乎はかりんとうの袋を手に、華怜を見てニッと笑う。
「……あんたの方は、あんなに小さかったのに……。ずいぶんと大きくなったのね、空乎」
 華怜の声は幼い子に話しかけるように穏やかだった。

 慈しむような視線で見上げられ、照れくさそうに視線を逸らす空乎。
「……はぁ、相変わらずやなぁ姉ちゃんは」
 参ったと言うように髪を弄り、髪をポリポリと掻きながら、空乎はかりんとうの袋を手渡す。
「ありがと」
 そう言ってニッコリ微笑む華怜に、空乎はさらに照れたように視線を泳がせるのだった。
「……おう」
 そこから少しの沈黙があった。
「……私を仲間に引き入れに来たの? それとも雄飛に用事?」
 華怜は威圧するでもなく、淡々とした口調で尋ねる。
「あぁ、ちゃうわ……。今日は非番や」

「じゃあ、なんでわざわざ接触しに来たの?」
 華怜は空乎に尋ねる。だが、彼は答えない。少し気まずそうに視線を泳がせているだけだ。
 そんな彼の態度に華怜は大きくため息をつくと、小さく頷いた。
「わかったわ、場所を変えましょ? 支払いをしてくるわね」
 そう言って歩き始める華怜を、空乎は呼び止めた。
「姉ちゃん、あんな」
 空乎の声に華怜は振り返る。
「ん?」
 不思議そうに首を傾げる彼女に向かって、空乎は口を開いた。
「いや、やっぱしなんでもない。店の前で待っとるわ」
 そう言って、空乎は後ろ手を振って店の入り口へと向かう。華怜はそれを見送ると、レジに並ぶのだった。
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