みっしょん!! ~異世界で生き返ったから、自由気ままに生きてやれ!~ ~狭い世界を飛び出して、最強無敵をめざしちゃえ!~

蟒蛇シロウ

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第2章「新たな地、灯ノ原」

第28話「ラムルとの別れ、裏切りの鬼と魔族の結託」

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「若矢くん、若矢くん聞こえているかい? 僕だよ、ラムルだよ」
「……」
 意識を失っている若矢に対して、ラムルの声が呼び掛けている。
「……う、うぅ……うん?」
 若矢はその声で目を覚ますと、ラムルの姿を見つけて嬉しそうに声を上げる。
「ラムル!! よかった、生きてのか!」

 しかしラムルは困ったように微笑みながら首を横に振る。
「僕はあの児赤にせきっていう鬼に食べられてしまったんだよ。残念だけど、もう……。こうして若矢くんと、話ができるのも本当に最後になると思う。だから、お別れを言いに来たんだ」
「な……何言っているんだ! そんなこと言うなよ!」
 若矢は立ち上がりながら必死に訴える。その様子を見たラムルは優しい笑みを浮かべると、再び首を横に振る。

「ありがとう、若矢くん。でも、ダメなんだ。エルはね、他の悪い神様たちから妬まれて力のほとんどを封じられている。だからもう、僕を生き返らせることはできない。エルにはその力が残されていないんだ。だから彼の声ももう、若矢くんには届かない」
「そ、そんな……。ラムル! 何か方法があるはずだ! 一緒に考えよう!!」
 若矢は必死に訴えるが、ラムルは首を振るだけだ。

「もう時間が無いから聞いて欲しいんだ。君には強く願ったことを叶えるために、自らを強化する力が備わっているんだ。本来の闘気はその人が持つ力や武器を強化することしかできないんだけど、君の場合は違う。君が願えば君自身の性質はもちろん、姿だって変化させることができるんだ」
「……え?」

「今はまだ、実感がないかもしれないけど。僕が消滅したらわかるはずだよ。僕は最後に君と出会えて良かったと思っている。君には元の世界で叶えられなかったことを、叶えて欲しいんだ。それは僕だけじゃない、エルの願いでもある」
 ラムルは一度言葉を区切ると、真剣な表情になった。
「もう一つだけ注意してほしいのが、あの黒い闘気は本当にピンチの時しか使っちゃダメだ。僕もあんなのは初めて見たんだけど、恐らく君の肉体や精神の限界を超えた危険なものだと思う。使い続けると本当に自我を失って、もう二度と元に戻れないかもしれない。だからその力はできるだけ使っちゃダメだよ」

 そう言い終えたラムルの体が光を帯び始める。
「それじゃあ、若矢くん。そろそろお別れだね。そうだ……ファブリスくんたちは生きているはず……。いつか再会できるといいね」
 ラムルは寂しそうに微笑みながら、光の粒子となって消えていく。
 若矢は呆然とその様子を見ていたが、すぐにハッとしたように表情を変える。そして拳を握り締める。
「俺は諦めない! エルさんの封じられた力を悪い神様たちから解放して、エルさんもラムルも絶対に助けるから。だからこれは最後の別れじゃない」

(俺の使命は、最初から決まっている。だけどこれからは旅の目的が1つ増えたんだ。ファブリスさんたちと再会すること、それに加えてエルさんの力を悪い神様たちから解放して、2人を救うことだ!)
 若矢は決意を新たにすると、ラムルはもう一度微笑んだ。
「ありがとう」
とラムルの口が動いたように見えた。そして完全に消えてしまう。
「エルさん……ラムル……待っていてくれ」
 そして決意を新たにすると同時に、若矢は現実世界で目を覚ますのだった。


「う、うぅ~ん……」
 タイニーの背中に乗せられていた若矢。
「モフモフだぁ」
 布団で寝ていると思っているのかタイニーの耳や背中を擦る若矢。
「ニャアッ! お、おい若矢。タイニーは毛布じゃないぞ」
「え……? あ、あれ? 布団じゃない!?」
 若矢は驚きの声を上げる。タイニーの耳や尻尾を触っていたことに気づいたようだ。

「う~ん……はっ! 児赤は!?」
 我に返り、気を失う前のことを少しずつ思い出す若矢。
 途中から異様なほどの絶望や悲しみを感じ、それ以降の記憶が思い出せない。だが自分の周りを黒い闘気が覆い始めたところまでは覚えている。
 さっきラムルが使うなと言っていた力は、その黒い闘気のことで間違いないだろう。

「あの化け物ならお兄さんが暴れまわってる隙に、山を下って町の方に逃げちゃったよ。」
 弁慶が若矢に説明する。
「そうか……やっぱり俺、正気を失って暴れていたんだな」
「うん。もうすごかったんだよ? ボクとタイニーと真之介の3人でやっと押さえ込めたんだから」
 その言葉を受けて、申し訳なさそうに俯く若矢。
「迷惑かけてごめんな」
「いえ、今はその話をするよりも児赤を急いで追いましょう。あんなのが町に現れたら、30年前と同じ悪夢が繰り返されてしまいます」
 真之介の言葉に若矢は頷く。
「ああ、そうだな。すぐに行こう!」
 そして一行は山を下っていくのだった。

「あ! あそこだ!」
 弁慶が指さす先には、児赤が先に到着していた数体の鬼たちと交戦していた。
「若矢さんが気を失っている間に、鬼たちと児赤を倒すまでの間は協力することになって……」
 若矢の姿を見た鬼たちは、児赤と戦いながら叫ぶ。
「お前ら! 俺たちは味方だ! 一緒に児赤を仕留めるぞ!!」
 その声と共に、鬼たちが一斉に児赤に向かって攻撃を仕掛ける。
 若矢たちも児赤に向かって攻撃する。

 と、その時だった。
「ぎゃああああああ!」
「きゃああああああっ!」
 麓の村の人たちの叫び声が響く。児赤と戦っている若矢や鬼たちが、そちらに視線を向けると、別の鬼たちが人々を捕まえて食べようとしている。
「な、なんのつもりだ! 児赤を倒すまでの間は協力することになっているはずだ!」
 真之介がその鬼たちを睨みつけて叫ぶと
「うるせぇっ! そんなのは涅鴉无ねあんが勝手に決めたことだろうが! 俺たちの中にはもともと、好き勝手やりてぇ奴も大勢いるんだよ。児赤が暴れてるとなりゃちょうどいいぜ! 俺たちが暴れまわりゃあ、人間どもは鬼に対して憎悪を抱くだろう。そうすりゃあ人間と鬼の間に結ばれた条約なんざ取り消しになるだろうぜ! ついでに涅鴉无が失脚してくれりゃあ、俺らとしては万々歳よ。なぁ?」
 その鬼の呼びかけに、他の鬼たちもゲラゲラと笑いながら応える。

「ふざけるなっ!」
 真之介は怒りに身を任せて走り出す。
「ニャンて勝手な奴らだ!」
「クソ、涅鴉无様を裏切るつもりか……!」
 タイニー、そして児赤と戦う鬼が叫ぶ。

(鬼も一枚岩じゃないってわけか……)
 若矢がそう考えていると、到着した涅鴉无が裏切った鬼たちを睨みながら
「……重企じゅうき、本気でこの僕を裏切るつもりかい?」
と、静かに問いかける。
 重企と呼ばれた鬼は、涅鴉无の方を見てニヤリと笑う。
「俺は最初からお前のやり方にゃ納得がいかなかったんだ! 俺たちの方が人間どもより強いのに、あんな山の中の狭っ苦しい城に押し込まれてよ。だからよ、この際に町の人間どもを皆殺しにしちまおうぜ!」
 その言葉に他の鬼たちも賛同する。
「……お前たちだけで出来ると思っているのか? 児赤のことだって手に負えないだろう?」
 涅鴉无は呆れたように言うが、重企は馬鹿にしたように笑う。
「俺たちは、鬼の国を作るんだ! 俺たちが人間どもを支配してなぁ。それに俺たちだけじゃねぇ。涅鴉无、お前らに対抗するために俺たちはこいつらと手を組んだぜ!」
 重企が高らかに宣言すると、彼の背後から鬼……ではなく魔族であるレッサーデーモンやインプ、グレムリンが姿を現す。

「魔族……か……」
 涅鴉无は忌々しそうに魔物を睨み付ける。
 若矢も魔族の姿を見て、クレフィラやディドロスのことを思い出す。
「ようやく会えたなぁ、転生者の牛方若矢」
 狂気に満ちた声の持ち主は、重企の背後より現れる。老人のような姿をした男性が魔法使いの杖のようなものをついている。
「お前は……誰だ!?」
 若矢の問いに老人はニヤリと笑って答える。
「ワタシか? ワタシの名前はベルフェゴール。クレフィラやディドロスと同格だと言えば、その危険度がわかるだろう?」

 若矢はその名を聞いて驚く。ディドロスとクレフィラと同格ということは、ムレクの後を継いで魔王の座に就く可能性が高い存在と目されているということだ。
「魔王になる可能性が高いと言われているうちの1人か……」
 若矢が呟くと、ベルフェゴールは可笑しそうに笑う。
「ふぅむ……。誰がそれを言い出したのかわからんが、ワタシはワタシの研究を続けることができればよいのだがな。魔王の座などに興味はないのだよ。」
「なんだと……?」
 若矢はベルフェゴールの意外な言葉に呆気にとられる。

「魔王の仕事をしている暇なぞワタシには無いのだ。……さて、それでは早速新しい実験といこうではないかね? その児赤とやらを使ってなぁ」
 ベェルフェゴールがそう告げると、児赤が叫び出す。そしてさらに肥大化し、もはや小さな山程度の怪物へと姿を変える。
「……いくらなんでも大きすぎる……。児赤はここまで巨大じゃなかったはずだ」
 涅鴉无は訝しむように児赤を見る。
「ククク……。こいつはこれまでの児赤とやらではないぞ? 重企の依頼を得て、ワタシの開発した薬物で強化した、いわば強化児赤とでも言おうかねぇ」

「な……」
 涅鴉无は驚きと共に、悔しそうな表情を浮かべて重企を睨みつける。
「ざまぁねぇなぁ! 涅鴉无、お前がここまで悔しがる姿なんて想像もつかなかったぜ!」
と愉快そうに笑う重企。
「重企……貴様!」
 涅鴉无は重企に詰め寄ろうとするが、周りの鬼たちが立ちふさがる。そして重企も受けて立つと言わんばかりに身構え、さらには児赤も大きな咆哮を轟かせる。

「と、とにかくこの児赤って奴をニャンとかしないと!」
 タイニーがそう言うと、真之介や弁慶もうなずく。
「そうですね。まずは児赤に隙を作る必要がありますが……」
と、真之介は重企とベルフェゴールにチラリと視線を送る。
(あの重企という鬼、それからあの魔族の老人も手ごわそうだ……児赤との戦いに集中させてくれるとは思えないし……)
 どうすべきか、と真之介は思考を巡らせる。鬼殺しの一族として、自分がどう動くべきか。


「重企と裏切り者の鬼たちの相手は、この涅鴉无が1人で引き受けよう。これは鬼の頭目たる僕の責任でもあるからね」
 涅鴉无はそう言うと、重企たちの前に歩いていく。
「はっ! お前が1人で俺たち全員を相手にするだと? 馬鹿も休み休み言えや。何百年も生きてボケたか?」
 重企は鼻で笑いながら言うが、涅鴉无は静かに首を横に振ると
「……僕は本気だよ?」
と鋭い視線を重企へと向ける。
 主君に加勢しようとした捷騎しょうきを手で制し、涅鴉无は彼にここは自分に任せるように言う。
 恐らく裏切った鬼は全員がここにいるわけではない、別動隊がいるはずだからそいつらを足止めするように、と。
「かしこまりました」
 捷騎は一礼すると、後ろへと下がるのだった。
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