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第2章「新たな地、灯ノ原」
第33話「いざ江城へ! 馬車での旅路」
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そして翌朝、いよいよ江城に向けて出発することになったのである。
「ほな、若矢はん、みんな。江城までの道中、気ぃ付けてな。桜京に来ることあったら、また寄ってってや」
お美津は若矢たちに手を振って、見送る。
「はい、また来ます! お世話になりました! お美津さんもお元気で!」
若矢は元気よく答えて手を振り返すのだった。
弁慶、ラグー、真之介の3人が乗る馬車と若矢、六村、タイニーの3人が乗る馬車に分かれて桜京を出発する。
最初は御者を雇おうとしたのだが、自分たちで交代で運転した方が安上がりだと六村が提案したため、それに従うことにしたのだ。
「馬車で移動できるなんてのぅ。こりゃあ楽ちんじゃな」
ラグーは馬車に揺られながら、感心したように呟く。
「鎖国が終わってから一気に街道が舗装されたんです。桜京と江城は重要な拠点なので、この街道は真っ先に整備されて馬車が通れるようになったんですよ。……まぁ、少し田舎の方に足を延ばすとまだまだ馬車だと不便な道ばかりなんですけどね」
真之介が丁寧に説明すると、ラグーは納得したような表情を浮かべる。
「ところで結局、弁慶くんはずっと若矢くんに着いて行くことにしたのかの?」
外の景色を見てニコニコしている弁慶に、ラグーが尋ねる。
「うん。ボクはお兄さんに弟子入りしたんだ! だからお兄さんが旅を止めるまで着いて行くんだ」
「そうか、それは良かったな。若矢くんはいい弟子を持ったのだな」
ラグーが嬉しそうに言うと、弁慶も笑顔で返す。
「うん! ボクね、ずっと1人だったから……だからお兄さんたちに会えてすごく嬉しかったんだ!」
真之介は弁慶の笑顔を見て、自分を倒して刀を奪った時から変わっていないが、そもそも邪気が無いのだと改めて感じるのだった。
(この無邪気な笑顔で僕より強いんだもんな……。僕も負けてられない! もっと修行しないと……!)
真之介がそんなことを考えていると、弁慶は心配そうに彼の顔を覗き込む。
「どうしたの? 真之介はあんまり強くないし、ボクが守ってあげるから何も心配いらないよ!」
無邪気なその一言に悪意は全く籠っていないが、真之介の修行に対するやる気をさらに引き出すには十分だった。
「いつかは弁慶に勝ってみせる!!」
真之介は拳を握り、弁慶に突き出す。
「うん! 楽しみにしてるね!」
弁慶も笑って拳を差し出し、お互いの拳を突き合わせるのだった。
「ほっほっほっ! 若いとは良いものじゃのぅ」
ラグーは2人を見て、朗らかに笑うのだった。
一方、若矢たちの馬車では。
「江城は今、警備がかなり厳重になってるだろうからな。将軍様へのお目通りが叶うかどうか……」
タイニーたちの旅の目的を聞いた六村は、あごに手を当てて考える。
「だがタイニーたちはやらないといけないんだ! 中君とティエンムーの会談が江城で行われるのは2週間後。その前に江城には、帝国の交流使節団が来る。江城と帝国に進言して、戦争を止める!」
若矢は馬車の外に視線を向けたまま言う。
「確かに大国である帝国と、中立国である灯ノ原が間に入れば最悪の事態は回避できるかもしれんが……」
六村の顔はやはり浮かない。昨今の情勢について考えれば、その方法で双方が納得する可能性は奇跡に近いからだ。
「でも……やるしかないだろ? タイニーたちは戦争を止めたい。その想いはきっと届くはずだ!」
タイニーの力強い言葉に若矢もうなずく。2人を見た六村は再び何かを考え始めるが、決意したようにうなずき返すのだった。
3時間ほど歩き、疲れた馬を休ませる一行。
こうして少しずつ進んでいくより、方法が無い。
「俺たちは慣れてるんだが、ラグーさんとタイニーは大丈夫かい? 疲れたら筋肉の凝りをほぐすから言ってくれよ?」
六村は焚火にあたって休んでいる2人に声をかける。
「お気遣い感謝するぞい。腰が痛くなったら頼もうかのぅ」
「タイニーは大丈夫だぞ。ティエンムーのジャングルや乾いた大地に比べれば、馬車は快適そのものだからな」
「それはよかった。この分だとあと数日はかかるが、大丈夫そうだな」
少し休憩しては、また数時間移動して休憩する。そんなことを繰り返しているだけでも、時間はあっという間に過ぎていく。
日が傾いて来たところで、次の町で今日は宿を取ろうということになった。
「よし、着いたぞ。今日はここ飛中の宿で休んだ方がいいだろうな。野宿するのはみんな嫌だろうし」
手綱を引いて馬車を止めると、そこには木造の建物が建ち並んでいた。
「ここが飛中か……。桜京に比べるとちょっと寂しいけど、ここはここで賑やかな町だなぁ」
タイニーは町の中を行き交う人々を見て、感慨深げに言う。
「ああ、ここは近くに金鉱山があってな。金を採掘して一儲けしようと集まってる連中が多い町なんだ。だから、飲み屋街はかなり活気があって賑やかなんだぜ」
六村は得意げに言うと、若矢と弁慶はそれぞれお酒と料理を思い浮かべて、ニヤケる。
2人を見た真之介は
「でも注意してくださいね。酔っ払いが多いので喧嘩も多いですし、スリなんかもいますから」
と、釘を刺す。
「まぁ宿でゆっくりしている分には心配なかろうて。それより、そろそろ食事の時間ではないかのぅ?」
ラグーに言われて一行は宿を借りて、中にある食堂で食事を摂るのだった。
その日は慣れない馬車に乗っての旅ということもあり、若矢たちはすぐに就寝した。
一方で六村とラグーの大人組は少し遅くまで起きて話をしていた。
「帝国に鎖国を解禁されてから、幕府はすっかり及び腰で帝国の顔色ばかりうかがってる……。ラグーさんたちの要求が通るかどうかは、正直言っちまうと帝国の出方次第だな」
「ふむぅ……。やはり、そうじゃろうな。しかし中君とティエンムーの間に入れるのは、鎖国中に交易を継続していた灯ノ原しかおらん。帝国の意思があれど、灯ノ原の名が必要なのじゃ。2国共、相手との戦争を避けたいがために自国が下手に出るのは、避けたいのじゃからな」
ラグーはふぅっとため息をつき、酒を煽る。六村はラグーの盃に酒を注ぎながら、寝ている若矢たちを見て言う。
「争いなんてなきゃあ、こんな子供たちが戦う必要も無いってのにな……」
「うむ、まったくじゃ……」
2人は暗い夜空を見上げながら、静かに飲み続けるのだった。
翌朝。若矢たちは身支度を済ませると、宿を出て町の中心にある食事処へ向かう。
そこで軽く朝食を済ませてから、一行は江城を目指して再び出発する。
「ボク、まだ眠いよ~」
弁慶が目を擦りながら、大きな欠伸をする。
「ほっほっほ。旅は長い。寝たいときに寝るのが一番じゃ」
ラグーが笑いながら言うと、弁慶も笑顔でうなずく。
「うん、わかった! じゃあお言葉に甘えて寝ることにするよ!」
そう言って馬車の中で眠る弁慶を見て、真之介はため息をつく。
(僕はどうしてこの子に勝てないんだろ……)
「そういえば六村さんってかなり強いって真之介から聞きました! 医者としての治療ができるだけじゃなくて、戦闘もするんですか?」
若矢が六村に尋ねる。
「ああ、一応な。医者が戦えなくて怪我してたら世話ねぇだろ? だからある程度の戦闘はできる。……とは言っても、せいぜい護身程度だから期待しないでくれよ?」
「ええ! でも六村さんが一緒に戦ってくれるのは心強いですよ!」
「そうかい? そう言ってもらえると嬉しいね」
2人はそんな会話で盛り上がっていると、タイニーが外を見ながら呟く。
「ん? あれは何だ?」
タイニーの声に、若矢と六村が彼の視線の先を見ると大きな蛇の像が建っている。
「ああ。あれは『蛇神』を祀っているらしいぞ」
六村が答えると、弁慶が眠たそうに目を擦りながら尋ねる。
「『蛇神』? それってどんな神様なの?」
「正直なとこ、俺もよくわからねぇが遥か昔、鬼たちと争っていたようだぜ? それで最終的に、鬼を退治して人間を救った……とか何とか。まぁ、そういう伝説みたいなもんさ」
六村がそう言うと、若矢は
「鬼といえば、涅鴉无さんたちはどうしてるかな? 重企はどうなったんだろう……」
と、呟くのだった。
ちょうどその頃、飢鬼山の鬼の城では、魔族と結託して反乱を起こした重企の裁判が行われていた。
「重企、本来なら死罪に値するが、今回は魔族に唆されたことも考慮し禁固300年と処す」
涅鴉无の言葉に、重企は顔を真っ赤にする。
「クソッタレがぁ! 」
「お前は鬼を裏切った。それだけでも死罪に値する」
涅鴉无は手を上げる。すると重企の両脇にいた鬼たちが、彼の腕を掴む。
「ぐあぁっ!! 放せ! 放しやがれ!!」
「連れて行け!」
と、涅鴉无が命令すると鬼たちは重企を連行していく。
「クソが! お前ら、覚えてろよ!」
重企は呪詛の言葉を吐きながら、牢へ連れていかれるのだった。
地下牢に幽閉された重企は、復讐を誓う。
「涅鴉无め! いずれてめぇに変わって俺が鬼の頭目になってやる! あの若矢とかいうガキのせいでこんなことに……。アイツも許さねぇ!」
重企は怒りで震える。
「だが……一番許せねぇのはあの陰陽師の女だ! 大勢の前で俺を小さくして恥をかかせやがって! 絶対にあの女を大勢の人間の前で辱めて、嬲り殺してやる! クハハッ!」
重企は邪悪な笑みを浮かべ、これからの復讐劇を思い浮かべるのだった。
「どうやらまだ、牙をもがれてはいないようだな」
その声に反応し顔を上げる重企。地下牢の前には、ドクロが1つ宙に浮いている。
「その声はベルフェゴールか! 俺を見捨てて逃げやがって! 今さらてめぇなんぞ信用できるか!」
重企は声の主が同盟を組んでいた、魔族のベルフェゴールだとわかり憤りを隠せない。
「まぁ落ち着け。あの状況では仕方あるまい。今こうして助けに来てやっているではないか。 もう一度手を組む気があるのなら、今すぐにでもここから助け出してやるぞ?」
ベルフェゴールの言葉に、重企の心が揺れる。
「……わかったぜ。俺をここから出せ。今度こそヘマはしねぇ!」
「いいだろう」
と、ドクロがつぶやくと同時に、ドクロの何も無い目から黒い光が放たれ、重企の体を吸い込むのだった。
謎の光と物音に気付いた鬼の監視が駆けつけると、見慣れないドクロが振り向いて言う。
「重企は再び、お前たちを脅かす存在になるだろう、と鬼の頭目に伝えておくのだな」
監視が呆気に取られていると、ドクロもまた、黒い光に包まれて消え去ったのだった。
「ね、涅鴉无さまに報告を……」
監視は震えながら、重企の牢を後にするのだった。
「ほな、若矢はん、みんな。江城までの道中、気ぃ付けてな。桜京に来ることあったら、また寄ってってや」
お美津は若矢たちに手を振って、見送る。
「はい、また来ます! お世話になりました! お美津さんもお元気で!」
若矢は元気よく答えて手を振り返すのだった。
弁慶、ラグー、真之介の3人が乗る馬車と若矢、六村、タイニーの3人が乗る馬車に分かれて桜京を出発する。
最初は御者を雇おうとしたのだが、自分たちで交代で運転した方が安上がりだと六村が提案したため、それに従うことにしたのだ。
「馬車で移動できるなんてのぅ。こりゃあ楽ちんじゃな」
ラグーは馬車に揺られながら、感心したように呟く。
「鎖国が終わってから一気に街道が舗装されたんです。桜京と江城は重要な拠点なので、この街道は真っ先に整備されて馬車が通れるようになったんですよ。……まぁ、少し田舎の方に足を延ばすとまだまだ馬車だと不便な道ばかりなんですけどね」
真之介が丁寧に説明すると、ラグーは納得したような表情を浮かべる。
「ところで結局、弁慶くんはずっと若矢くんに着いて行くことにしたのかの?」
外の景色を見てニコニコしている弁慶に、ラグーが尋ねる。
「うん。ボクはお兄さんに弟子入りしたんだ! だからお兄さんが旅を止めるまで着いて行くんだ」
「そうか、それは良かったな。若矢くんはいい弟子を持ったのだな」
ラグーが嬉しそうに言うと、弁慶も笑顔で返す。
「うん! ボクね、ずっと1人だったから……だからお兄さんたちに会えてすごく嬉しかったんだ!」
真之介は弁慶の笑顔を見て、自分を倒して刀を奪った時から変わっていないが、そもそも邪気が無いのだと改めて感じるのだった。
(この無邪気な笑顔で僕より強いんだもんな……。僕も負けてられない! もっと修行しないと……!)
真之介がそんなことを考えていると、弁慶は心配そうに彼の顔を覗き込む。
「どうしたの? 真之介はあんまり強くないし、ボクが守ってあげるから何も心配いらないよ!」
無邪気なその一言に悪意は全く籠っていないが、真之介の修行に対するやる気をさらに引き出すには十分だった。
「いつかは弁慶に勝ってみせる!!」
真之介は拳を握り、弁慶に突き出す。
「うん! 楽しみにしてるね!」
弁慶も笑って拳を差し出し、お互いの拳を突き合わせるのだった。
「ほっほっほっ! 若いとは良いものじゃのぅ」
ラグーは2人を見て、朗らかに笑うのだった。
一方、若矢たちの馬車では。
「江城は今、警備がかなり厳重になってるだろうからな。将軍様へのお目通りが叶うかどうか……」
タイニーたちの旅の目的を聞いた六村は、あごに手を当てて考える。
「だがタイニーたちはやらないといけないんだ! 中君とティエンムーの会談が江城で行われるのは2週間後。その前に江城には、帝国の交流使節団が来る。江城と帝国に進言して、戦争を止める!」
若矢は馬車の外に視線を向けたまま言う。
「確かに大国である帝国と、中立国である灯ノ原が間に入れば最悪の事態は回避できるかもしれんが……」
六村の顔はやはり浮かない。昨今の情勢について考えれば、その方法で双方が納得する可能性は奇跡に近いからだ。
「でも……やるしかないだろ? タイニーたちは戦争を止めたい。その想いはきっと届くはずだ!」
タイニーの力強い言葉に若矢もうなずく。2人を見た六村は再び何かを考え始めるが、決意したようにうなずき返すのだった。
3時間ほど歩き、疲れた馬を休ませる一行。
こうして少しずつ進んでいくより、方法が無い。
「俺たちは慣れてるんだが、ラグーさんとタイニーは大丈夫かい? 疲れたら筋肉の凝りをほぐすから言ってくれよ?」
六村は焚火にあたって休んでいる2人に声をかける。
「お気遣い感謝するぞい。腰が痛くなったら頼もうかのぅ」
「タイニーは大丈夫だぞ。ティエンムーのジャングルや乾いた大地に比べれば、馬車は快適そのものだからな」
「それはよかった。この分だとあと数日はかかるが、大丈夫そうだな」
少し休憩しては、また数時間移動して休憩する。そんなことを繰り返しているだけでも、時間はあっという間に過ぎていく。
日が傾いて来たところで、次の町で今日は宿を取ろうということになった。
「よし、着いたぞ。今日はここ飛中の宿で休んだ方がいいだろうな。野宿するのはみんな嫌だろうし」
手綱を引いて馬車を止めると、そこには木造の建物が建ち並んでいた。
「ここが飛中か……。桜京に比べるとちょっと寂しいけど、ここはここで賑やかな町だなぁ」
タイニーは町の中を行き交う人々を見て、感慨深げに言う。
「ああ、ここは近くに金鉱山があってな。金を採掘して一儲けしようと集まってる連中が多い町なんだ。だから、飲み屋街はかなり活気があって賑やかなんだぜ」
六村は得意げに言うと、若矢と弁慶はそれぞれお酒と料理を思い浮かべて、ニヤケる。
2人を見た真之介は
「でも注意してくださいね。酔っ払いが多いので喧嘩も多いですし、スリなんかもいますから」
と、釘を刺す。
「まぁ宿でゆっくりしている分には心配なかろうて。それより、そろそろ食事の時間ではないかのぅ?」
ラグーに言われて一行は宿を借りて、中にある食堂で食事を摂るのだった。
その日は慣れない馬車に乗っての旅ということもあり、若矢たちはすぐに就寝した。
一方で六村とラグーの大人組は少し遅くまで起きて話をしていた。
「帝国に鎖国を解禁されてから、幕府はすっかり及び腰で帝国の顔色ばかりうかがってる……。ラグーさんたちの要求が通るかどうかは、正直言っちまうと帝国の出方次第だな」
「ふむぅ……。やはり、そうじゃろうな。しかし中君とティエンムーの間に入れるのは、鎖国中に交易を継続していた灯ノ原しかおらん。帝国の意思があれど、灯ノ原の名が必要なのじゃ。2国共、相手との戦争を避けたいがために自国が下手に出るのは、避けたいのじゃからな」
ラグーはふぅっとため息をつき、酒を煽る。六村はラグーの盃に酒を注ぎながら、寝ている若矢たちを見て言う。
「争いなんてなきゃあ、こんな子供たちが戦う必要も無いってのにな……」
「うむ、まったくじゃ……」
2人は暗い夜空を見上げながら、静かに飲み続けるのだった。
翌朝。若矢たちは身支度を済ませると、宿を出て町の中心にある食事処へ向かう。
そこで軽く朝食を済ませてから、一行は江城を目指して再び出発する。
「ボク、まだ眠いよ~」
弁慶が目を擦りながら、大きな欠伸をする。
「ほっほっほ。旅は長い。寝たいときに寝るのが一番じゃ」
ラグーが笑いながら言うと、弁慶も笑顔でうなずく。
「うん、わかった! じゃあお言葉に甘えて寝ることにするよ!」
そう言って馬車の中で眠る弁慶を見て、真之介はため息をつく。
(僕はどうしてこの子に勝てないんだろ……)
「そういえば六村さんってかなり強いって真之介から聞きました! 医者としての治療ができるだけじゃなくて、戦闘もするんですか?」
若矢が六村に尋ねる。
「ああ、一応な。医者が戦えなくて怪我してたら世話ねぇだろ? だからある程度の戦闘はできる。……とは言っても、せいぜい護身程度だから期待しないでくれよ?」
「ええ! でも六村さんが一緒に戦ってくれるのは心強いですよ!」
「そうかい? そう言ってもらえると嬉しいね」
2人はそんな会話で盛り上がっていると、タイニーが外を見ながら呟く。
「ん? あれは何だ?」
タイニーの声に、若矢と六村が彼の視線の先を見ると大きな蛇の像が建っている。
「ああ。あれは『蛇神』を祀っているらしいぞ」
六村が答えると、弁慶が眠たそうに目を擦りながら尋ねる。
「『蛇神』? それってどんな神様なの?」
「正直なとこ、俺もよくわからねぇが遥か昔、鬼たちと争っていたようだぜ? それで最終的に、鬼を退治して人間を救った……とか何とか。まぁ、そういう伝説みたいなもんさ」
六村がそう言うと、若矢は
「鬼といえば、涅鴉无さんたちはどうしてるかな? 重企はどうなったんだろう……」
と、呟くのだった。
ちょうどその頃、飢鬼山の鬼の城では、魔族と結託して反乱を起こした重企の裁判が行われていた。
「重企、本来なら死罪に値するが、今回は魔族に唆されたことも考慮し禁固300年と処す」
涅鴉无の言葉に、重企は顔を真っ赤にする。
「クソッタレがぁ! 」
「お前は鬼を裏切った。それだけでも死罪に値する」
涅鴉无は手を上げる。すると重企の両脇にいた鬼たちが、彼の腕を掴む。
「ぐあぁっ!! 放せ! 放しやがれ!!」
「連れて行け!」
と、涅鴉无が命令すると鬼たちは重企を連行していく。
「クソが! お前ら、覚えてろよ!」
重企は呪詛の言葉を吐きながら、牢へ連れていかれるのだった。
地下牢に幽閉された重企は、復讐を誓う。
「涅鴉无め! いずれてめぇに変わって俺が鬼の頭目になってやる! あの若矢とかいうガキのせいでこんなことに……。アイツも許さねぇ!」
重企は怒りで震える。
「だが……一番許せねぇのはあの陰陽師の女だ! 大勢の前で俺を小さくして恥をかかせやがって! 絶対にあの女を大勢の人間の前で辱めて、嬲り殺してやる! クハハッ!」
重企は邪悪な笑みを浮かべ、これからの復讐劇を思い浮かべるのだった。
「どうやらまだ、牙をもがれてはいないようだな」
その声に反応し顔を上げる重企。地下牢の前には、ドクロが1つ宙に浮いている。
「その声はベルフェゴールか! 俺を見捨てて逃げやがって! 今さらてめぇなんぞ信用できるか!」
重企は声の主が同盟を組んでいた、魔族のベルフェゴールだとわかり憤りを隠せない。
「まぁ落ち着け。あの状況では仕方あるまい。今こうして助けに来てやっているではないか。 もう一度手を組む気があるのなら、今すぐにでもここから助け出してやるぞ?」
ベルフェゴールの言葉に、重企の心が揺れる。
「……わかったぜ。俺をここから出せ。今度こそヘマはしねぇ!」
「いいだろう」
と、ドクロがつぶやくと同時に、ドクロの何も無い目から黒い光が放たれ、重企の体を吸い込むのだった。
謎の光と物音に気付いた鬼の監視が駆けつけると、見慣れないドクロが振り向いて言う。
「重企は再び、お前たちを脅かす存在になるだろう、と鬼の頭目に伝えておくのだな」
監視が呆気に取られていると、ドクロもまた、黒い光に包まれて消え去ったのだった。
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