みっしょん!! ~異世界で生き返ったから、自由気ままに生きてやれ!~ ~狭い世界を飛び出して、最強無敵をめざしちゃえ!~

蟒蛇シロウ

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第2章「新たな地、灯ノ原」

第37話「嵐の夜 ~ヒノワグマ登場~」

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「よし、では出発といくかの?」
「江城まではもう少しで着くはずだぜ。長旅でしんどいだろうが、あともうひと踏ん張りといこうじゃねぇか」
 ラグーと六村の言葉にそれぞれうなずき、いつのように馬車に乗り込み、出発した。

 そうして次の日、また次の日と馬車で進んでいく。江城まであと僅かに迫った時だった。急な悪天候が馬車に乗った一行を襲った。
「こいつはひでぇな……。これじゃ江城に着く頃にはびしょ濡れになっちまうぜ」
 雨は強く、遠くの視界すら奪ってしまうほど降り注いでいる。
 ラグーが馬車を止め、空を仰ぎながら言う。
「よし、ここらで一旦休憩にしようぞ。濡れたままでは風邪をひくかもしれぬからのう」
「あ~疲れた~! もうお尻痛い!」
 弁慶と真之介も馬から降りて体を伸ばす。

 だが、雨は止むどころか激しさを増す。雷が鳴り出し、突風が吹き荒れる。
「これは……、今日はここで野宿した方が良さそうですね」
 真之介が小さな洞穴を指差す。かなり小さいが、雨風を凌ぐのにはちょうど良いだろう。
「うむ、そうじゃな。無理をして風邪を引くようでは、元も子もないからの」
 ラグーがうなずき、一行は洞穴へと入っていった。
「寒ぃな……。しかしこんな狭い空間で焚火なんかしたら、酸欠になりそうだな」
 六村が体を擦りながら、困ったように零す。

 するとラグーは、人差し指を立てる。
「ワシら獣人種と違うて、お主らヒューマン種にとってこの雨は体温を著しく消耗させる厄介な物のようじゃ。それ!」
 彼はそう言い終えると、指先を洞穴の地面に当てて何かを描いている。
 不思議そうにしていた若矢たち。
 ラグーが描き終えた場所から、光の炎のようなものが溢れ出る。
 煙は出ず、触れても引火しない、それでいてしっかりとした温かさを感じられる不思議な炎だった。

「これは魔法……?」
 若矢が呆然としていると、ラグーが言う。
「ワシの魔力で描いた魔法陣じゃ。これでこの洞穴の中は温かな空気に包まれ、濡れた体もすぐ乾くじゃろう」
 そんな便利なものがこの世界にあるのかと驚く一行。
「これはただの魔法じゃないぞ? じいちゃんは、獣人族に伝わる精霊魔術を使えるんだ!」
 タイニーは自慢げにそう語る。
「精霊魔術? なんだそれ?」
 若矢が首をかしげると、六村も続けて言う。
「俺も知らねえな……。魔法とは違うのか?」

 するとラグーは魔法陣を見ながら説明し始める。
「さよう。いや、魔法の一種ではあるな。じゃが魔法として世界に広く普及しているものとは、多少原理が異なるのじゃ。魔法は、己が持つ魔力をエネルギーに変換し、詠唱した術式の奇跡を形と成す。対してこの精霊魔法はもっと原始的じゃ。魔力は必要ではない。大事なのは自然に宿るエネルギーを敬い、仲良くすること。さすれば、このように困った時に願えば力を貸してくれるのじゃよ」
「なるほど……。これまで聞いたことが無かったので、使える人は本当に限られているんでしょうね」
 真之介が納得したように呟く。
「そうじゃな。ワシが知る限り、獣人族でも使える者はそう多くないじゃろう」
「へぇ……。じゃあおじいちゃんは、すごいんだねっ!」
 弁慶が目を輝かせながら言うと、ラグーは優しく微笑んで言う。
「うむ、ワシもまだまだじゃがな。さて、そろそろ体を温めておこうかの」
 ラグーの言葉に全員がうなずくと、それぞれ火にあたり始めた。


「腹が減ったにゃ……」
 しばらくして、タイニーが呟いた。本来であれば、もうすぐ江城に着くため、それほど多くの食料は残されていないのだ。
 だが、嵐は未だ止まず。
 無暗に食料を消費しては、いざという時に立ち行かなくなってしまうだろう。
「う~ん、困った。食料がもうないですね。僕、少し調達してきます」
 真之介はそう言って立ち上がるも、弁慶はそんな真之介の腕を掴んで言う。
「ダメだよ~! こんな嵐じゃ危険だし、怪我でもしたらどうするのさ~!」
 確かにこの嵐の中を出歩くのは危険である。だが、もしも数日ここで立ち往生する羽目になれば、食料は尽きてしまうだろう。

 すると少しだけ雨が弱まってきた。何かを探すとすればこのタイミングかもしれない。
「よしっ! 今なら食料を探せるぞ。タイニーは鼻がいいから、変わった匂いの野草や山菜なんかはすぐに見つかるさ! 若矢、お前も来るだろ!?」
「ああ! もちろん!」
 タイニーの提案に若矢がうなずく。
「待て待て2人とも。ここは街道とはいえ、森の中じゃ。少し歩けばそこは山。この視界の悪い嵐の中では迷子になってしまうじゃろうて」
 ラグーの言葉に、2人は我に返る。
「う……確かにそうだ、じいちゃん」
 タイニーがしょんぼりと肩を落とす。
 そんなタイニーを励ますように、六村が立ち上がる。
「それじゃあこの辺りに詳しい俺が同行するぜ。仕事柄、街道から外れた山道を歩くこともあったんでな。ラグーさんもそれなら問題ねぇだろ? 何か調達してくるぜ」
 ラグーは、うむ、とうなずく。
「それじゃあタイニー、六村さん、行こう!」
 3人は、近くに生えていた大きなふきを傘代わりにして、街道に沿って進んでいく。


 少し進んだところで、キノコや山菜を見つける若矢たち。
 食べられるかどうかは六村が詳しく知っており、香りの強いキノコなどはタイニーが若矢たちよりも優れている嗅覚で位置を探してくれる。
「これである程度食料は賄えそうですね」
「おう、これだけあれば数日は大丈夫だな。ま、早いとこ江城に着かねぇと栄養不足になっちまいそうだがな」
 3人は大量に収穫できて満足そうに笑うと、元来た道を戻り始める。

 と、その時だった。
「べぅえぅええぅっ!!」
 という獣のような叫び声が雨を切り裂いて響き渡る。それは荒々しいものではなく、何かに襲われているかのような悲痛さだった。
「な、なんだ!? 今の……」
 驚く若矢とタイニー。六村は、冷静にその声をこの辺りに生息するカモシカのものである、と分析した。
「これは……、まずいぞ」
 六村は、その声が響いてきた方向を睨みつけている。若矢とタイニーは、そんな六村の様子にただならぬ気配を感じていた。
「この声は……まさか……」

 3人が声のする方へ向かうと、そこには大きなシカのような牛ののような生き物が倒れていた。そしてそれを貪り喰らうのは、黒い体色の動物……クマだった。
「クマか……。この辺りに生息しているのは、ヒノワグマっていうクマだ。クマの中じゃ比較的小型だが油断はできねぇ。俺たちが獲物を狙ってるって知ったら、容赦なく排除しようとしてくるだろうさ。……ここは静かにやり過ごすのが一番だろう」
 六村の冷静な判断に、若矢とタイニーもうなずく。
 バレないようにそろりそろりと歩き、ゆっくりその場を後にする。

 だが……。
 もう少しでみんなが待つ洞穴にたどり着きそうな時だった。
「グオォォッ!!」
 という唸り声が近くで聞こえる。
「な、なんだ!?」
 若矢が声の方へ目を向けると、そこには先ほど見つけたヒノワグマが凄まじいスピードでこちらに向かって走って来ていた。
 まだ後ろを見ていないタイニーの背後に迫っている。

「危ないっ!」
 若矢はとっさにタイニーを突き飛ばすと、クマの突進を防ごうと刀を抜いた。だが、そのパワーに押し込まれてしまう。
「「若矢っ!?」」
 タイニーと六村の声が重なる。若矢は、2人の声で気が付いた。もう少し後ろに下がれば、そこは崖だったのだ。
「お、俺が落ちてもみんなは江城に向かってくれ! 俺も絶対に生きて追い付くから! って、う、うわぁぁぁっ!!」
 そのまま若矢は崖から落ちて行ってしまう。

「若矢! 今タイニーたちが助けにっ……!!」
 タイニーが悲痛な声を上げながら断崖へ駆け寄ろうとするのを、六村が必死に引き止める。
「よせタイニー! お前も危ない!」
「でもそれじゃあ若矢はどうなる!?」
 2人が話し合おうにも、ヒノワグマが2人に迫っていた。2人はその突進を躱す。どうにも何かに怯えているのか、苛立っているのか、酷く興奮しているように六村には見えた。
(妙に冷静さを欠いてるクマだ……もしかしてもっと大型の生物にさっきの獲物を奪われたか……)
 タイニーが槍を構えて先端に炎を宿すと、ヒノワグマは火に恐れを成したのか、2人とは別の方向に逃げ去っていった。

「……はぁ……、危ないところだったぜ……」
 六村は崖の方へと目を向けるが、若矢の落ちた先はよく見えなかった。
「く、くそ……! なんでなんだよ!!」
 タイニーは目に涙を溜めて悔しがっている。だが、今はそれどころではない。一刻も早くみんなに報告に行かねばと、2人は洞穴へと引き返したのだった。


 2人の報告を受けた真之介は慌てたように立ち上がるも、弁慶はそんなに心配していないように言う。
「大丈夫だよ。お兄さんのメラメラはまだまだ明るいもん! お兄さんは生きてるし、元気だよ!」
 弁慶はニッコリと笑って言うが、タイニーはその態度に珍しく苛立ったように詰め寄る。
「にゃにを言っているんだ! そんなことどうしてわかる? 若矢が危ないかもしれないんだぞ!」
 それを止めたのはラグーだった。
「止さんかタイニー。弁慶の言う通りじゃ。若矢くんの闘気はいつもと変わらず、感じ取れる。怪我をしていれば、それが痛みや苦しみとなって闘気を乱すじゃろうが、それも無い。彼は無事じゃよ」
 彼の言葉に、タイニーは少し落ち着きを取り戻す。
 タイニーはこれまで何度も、ラグーが闘気を感じ取って安否を判断する姿を目にしてきたのだ。
「そ、そうか……。ごめんよ、じいちゃん。それから、弁慶」
 タイニーは素直に謝ると、若矢が生きていることを確信して安心したように座り込んだ。

「若矢は落っこちる前に、江城に向かうように言ってました。自分も必ず追い付くから、と」
 六村がそう言うと、ラグーはうむ、とうなずく。
「ならば今は彼を信じて江城へ向かうとしよう。若矢くんは強い意志と目的がある。きっと江城に向かうはずじゃ」
「確かに。若矢はあの、デカい鬼を倒したくらい強いんだし、大丈夫だろうな」
 六村はラグーの言葉に同意するようにつぶやいた。
 こうして一行は数時間後に嵐が明けると、江城に向けて再び歩き始めた。若矢の無事を信じて……。
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