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第2章「経矢の故郷」
第24話「赤き瞳の襲来、闇夜に浮かぶ白い牙」
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それからわずかに後のこと。
経矢とイリーナがテントで寝る準備をしていたところ、風の音に混じって、ザリ……ザリ……と歩く音が聞こえてきた。
経矢とイリーナは同時に、武器を手に取る。
2人は息を潜めて気配を消しつつ、テントの外へと出た。
焚火の明かりに照らされて、ゆらりゆらりと影が近づいて来る。
それは若い女性だった。
「あの……すみません……。食料を……食料を……ください……」
掠れるような声で、そう告げる。
顔は青白く見るからに不健康そうだ。
焚火の明かりに照らされたその女性の顔は、青白さの中にどこか人間離れした影が見えた。
その虚ろな瞳は、星空ではなく、まるで“何もない闇”を見つめているかのようだった。
そしてその場に倒れ込んでしまう女性。
「だ、大丈夫ですか? ちょっと待っててください!」
そんな女性の様子に、イリーナは慌てたように駆け寄ろうとする。
「イリーナ! ちょっと待ってくれ!」
経矢は女性に近付きかけた、彼女に向かって叫ぶ。
「えっ? で、でも……」
動きを止めるイリーナだが、女性の様子にただ事ではないと一刻も早く助けたい様子だ。
「どうしてこんな夜遅く、こんな山奥にあなたのような女性がいるんですか? 俺たちのように旅をしているような服装にも見えませんし」
経矢は問い詰めるように女性を見つめる。
彼女の着用している衣類は町歩き用のオシャレなもので、とても長距離を旅するためのものには思えなかったのだ。
女性は何も答えない。
イリーナにはそれも、女性が一刻を争う状況のように感じられた。
しかし経矢は冷静に続けた。
「……その首元を隠している布、外してもらって良いですか?」
核心を突くような経矢の言葉にも、女性は無反応だ。
そんな彼女の様子を見て、経矢はイリーナに女性から離れるように言う。
「イリーナ……その女性、吸血鬼に血を吸われて操られてる」
「え!?」
経矢の言葉を受け、急いで距離を取ろうとしたイリーナだったが、突然豹変したような女性に腕を掴まれてしまう。
女性の瞳は暗闇の中で、真っ赤に血走っている。
口元からは鋭い牙が見えていた。
「……血を……寄越せ……!」
ギリギリと彼女の指先に力が込められる。
「イリーナ!」
近づこうとした経矢の行く手を遮るように、無数のコウモリが襲い掛かって来た。
即座に身をひるがえしてコウモリたちの攻撃を躱した経矢だったが、イリーナと女性から距離を離されてしまう。
「っく! イリーナ、待ってろ今助ける!」
経矢の言葉に女性が反応することはない。
ただイリーナの腕を強く握り、その首元に牙を近づけようとする。
その時だった。
「おいおい、御主人様よりも先に味見をしちゃあダメだろうが」
という声が突然聞こえ、無数のコウモリたちが一か所に集まり、人の形を成していく。
やがて現れたのは、黒いローブに身を包んだ男だった。
コウモリから形を成したその身体は、人の姿をしていながらもどこか“空洞”のように見えた。
笑うたびに、牙の間から血の匂いが漂い、焚火の炎すら怯んで揺らめいた。
男の指示を受けた女性は、噛みつこうとするのを止めてイリーナの体を押さえつけている。
「お前は……」
経矢は目の前に現れた男を睨みつける。
「久しぶりだなぁクソガキ……。こうして話をするのは、500年ぶりか? へへへ。まさかまた会えるなんて思わなかったぜぇ?」
男はフードを脱ぎ、赤く光る瞳と白い牙を見せてニヤリと笑う。
粗野な言動に特徴的な無精髭は、経矢の中にある過去の記憶と何も変わっていなかった。
「……やっぱり、お前か」
経矢の声は冷静を装っていたが、その奥には500年前と変わらない怒りと憎しみがわずかに震えて滲んでいた。
「ルーベン・メンデンホールの部下の1人。……名前はジャスティン、だったか……。イリーナを離せ!」
経矢の言葉に、男……ジャスティンは白い牙を見せながら手を叩いて笑う。
「ボスの名前といい、よく500年も前のこと覚えてるもんだぜ!」
「お前らは絶対に許せないからな。それに、俺にとってはそんなに昔の記憶じゃない。……そんなことよりも、俺の仲間を離せと言ってるんだ」
経矢はギロリとジャスティンを睨みつける。
彼もまた、不敵な笑みのまま経矢と視線をぶつからせた。
夜の山を不気味な静けさが包んでいくのだった。
経矢とイリーナがテントで寝る準備をしていたところ、風の音に混じって、ザリ……ザリ……と歩く音が聞こえてきた。
経矢とイリーナは同時に、武器を手に取る。
2人は息を潜めて気配を消しつつ、テントの外へと出た。
焚火の明かりに照らされて、ゆらりゆらりと影が近づいて来る。
それは若い女性だった。
「あの……すみません……。食料を……食料を……ください……」
掠れるような声で、そう告げる。
顔は青白く見るからに不健康そうだ。
焚火の明かりに照らされたその女性の顔は、青白さの中にどこか人間離れした影が見えた。
その虚ろな瞳は、星空ではなく、まるで“何もない闇”を見つめているかのようだった。
そしてその場に倒れ込んでしまう女性。
「だ、大丈夫ですか? ちょっと待っててください!」
そんな女性の様子に、イリーナは慌てたように駆け寄ろうとする。
「イリーナ! ちょっと待ってくれ!」
経矢は女性に近付きかけた、彼女に向かって叫ぶ。
「えっ? で、でも……」
動きを止めるイリーナだが、女性の様子にただ事ではないと一刻も早く助けたい様子だ。
「どうしてこんな夜遅く、こんな山奥にあなたのような女性がいるんですか? 俺たちのように旅をしているような服装にも見えませんし」
経矢は問い詰めるように女性を見つめる。
彼女の着用している衣類は町歩き用のオシャレなもので、とても長距離を旅するためのものには思えなかったのだ。
女性は何も答えない。
イリーナにはそれも、女性が一刻を争う状況のように感じられた。
しかし経矢は冷静に続けた。
「……その首元を隠している布、外してもらって良いですか?」
核心を突くような経矢の言葉にも、女性は無反応だ。
そんな彼女の様子を見て、経矢はイリーナに女性から離れるように言う。
「イリーナ……その女性、吸血鬼に血を吸われて操られてる」
「え!?」
経矢の言葉を受け、急いで距離を取ろうとしたイリーナだったが、突然豹変したような女性に腕を掴まれてしまう。
女性の瞳は暗闇の中で、真っ赤に血走っている。
口元からは鋭い牙が見えていた。
「……血を……寄越せ……!」
ギリギリと彼女の指先に力が込められる。
「イリーナ!」
近づこうとした経矢の行く手を遮るように、無数のコウモリが襲い掛かって来た。
即座に身をひるがえしてコウモリたちの攻撃を躱した経矢だったが、イリーナと女性から距離を離されてしまう。
「っく! イリーナ、待ってろ今助ける!」
経矢の言葉に女性が反応することはない。
ただイリーナの腕を強く握り、その首元に牙を近づけようとする。
その時だった。
「おいおい、御主人様よりも先に味見をしちゃあダメだろうが」
という声が突然聞こえ、無数のコウモリたちが一か所に集まり、人の形を成していく。
やがて現れたのは、黒いローブに身を包んだ男だった。
コウモリから形を成したその身体は、人の姿をしていながらもどこか“空洞”のように見えた。
笑うたびに、牙の間から血の匂いが漂い、焚火の炎すら怯んで揺らめいた。
男の指示を受けた女性は、噛みつこうとするのを止めてイリーナの体を押さえつけている。
「お前は……」
経矢は目の前に現れた男を睨みつける。
「久しぶりだなぁクソガキ……。こうして話をするのは、500年ぶりか? へへへ。まさかまた会えるなんて思わなかったぜぇ?」
男はフードを脱ぎ、赤く光る瞳と白い牙を見せてニヤリと笑う。
粗野な言動に特徴的な無精髭は、経矢の中にある過去の記憶と何も変わっていなかった。
「……やっぱり、お前か」
経矢の声は冷静を装っていたが、その奥には500年前と変わらない怒りと憎しみがわずかに震えて滲んでいた。
「ルーベン・メンデンホールの部下の1人。……名前はジャスティン、だったか……。イリーナを離せ!」
経矢の言葉に、男……ジャスティンは白い牙を見せながら手を叩いて笑う。
「ボスの名前といい、よく500年も前のこと覚えてるもんだぜ!」
「お前らは絶対に許せないからな。それに、俺にとってはそんなに昔の記憶じゃない。……そんなことよりも、俺の仲間を離せと言ってるんだ」
経矢はギロリとジャスティンを睨みつける。
彼もまた、不敵な笑みのまま経矢と視線をぶつからせた。
夜の山を不気味な静けさが包んでいくのだった。
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