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第2章「経矢の故郷」
第25話「血に染まる嘲弄」
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「へへ、こいつがお前の新しいお仲間ってわけだ」
ジャスティンは、女性に押さえつけさせたイリーナの顎を持ち上げると、その容姿を舐め回すように見つめる。
「ふむぅ、可愛い顔してんじゃねぇか」
と口の端を吊り上げるジャスティン。
赤い瞳がギラギラと光り、舌で牙をなぞるその仕草は、まるで獲物を前にした猛獣そのものだった。
その恐ろしく光る赤い瞳に、イリーナは一瞬気圧されそうになるが負けじと睨み返す。
「ほぅ……度胸もいいじゃねぇの……だが……」
感心したように呟いたジャスティンは突然、イリーナの首筋に顔を近づけた。
噛まれる! と、経矢もイリーナもそう直感した。
「やめろっ!」
叫びながら経矢が銃を取り出そうとするが、ジャスティンは手でそれを制した。
そしてスゥ~と深呼吸するかのように息を吸い込んだかと思うと、イリーナの首筋から顔を離した。
「ハッ! やっぱりなぁ……。まだまだガキ臭くてガキ臭くて敵いやしねぇぜ。メスガキの匂いがプンプンして、全然飲めたもんじゃねぇ」
ジャスティンは顔を背けながらそう言うと、イリーナを押さえている女性を眺めて嗜虐的な笑みを浮かべる。
「やっぱり女ってのは、こう……ある程度大人の色気が出て初めて美味い血になるんだよなぁ……」
経矢とイリーナは、ジャスティンの言葉の意味をすぐに理解することができなかった。
そんな2人を無視して彼は続けた。
「そういやお前の死んだ姉ちゃん……。ありゃあよかったなぁ。ちょうど俺の好みだったんだがよぉ、手ぇ出す前にボスが売り飛ばしちまったからなぁ。残念だぜ、へへへ」
ジャスティンは、経矢の姉の話題を持ち出し、ニヤリと笑う。
経矢は表情を変えずにゆっくりと口を開いた。
「……黙れ。俺の前で姉さんを侮辱するなっ!」
その声音は怒りに震えていた。
彼にとっては、ルーベンの部下であるジャスティンもまた、姉の仇の1人だ。
「侮辱じゃねぇ、褒めたんだろうがよ」
ジャスティンはやれやれ、と手を振りながら経矢を見るが、彼の表情はやはり嚙み殺さんばかりの怒りに満ちていた。
「……へっ、まぁいいや。このガキは俺の好みじゃねぇが、こいつを気に入りそうな奴がいるんでね。取引のために連れ帰らせてもらうぜ?」
女性が押さえつけているイリーナに視線を向け、ジャスティンは経矢に告げる。
「そうはさせるかっ!」
「おおっと、動くんじゃねぇぞ。メスガキの綺麗な肌に傷がついちまうぜ」
経矢はジャスティンに向かって飛びかかろうとしたが、その行動を制されてしまう。
イリーナの肩は強引に地面へと押しつけられ、土の冷たさと女の手の異様な力が伝わってくる。
息を吸うたびに胸が圧迫され、抵抗することすら難しい。
ただの一市民である女性だが、吸血鬼に噛まれたことで基礎的な身体能力が常人のそれを大きく上回っている。
近接戦闘の鍛錬を始めたばかりのイリーナでは、少し相手が悪い。
「っ……」
悔しそうに唇を噛む経矢にジャスティンは、愉快そうに笑う。
「ヒャーッハッハッハ! いいねぇ、お前のその悔しそうな顔。あのクソガキがこんな顔するなんて、思いもしなかったぜぇ」
経矢はイリーナの首筋に顔を近づけるジャスティンに銃を向けたまま、何もできないでいる。
(今撃てばイリーナを巻き込む……けど撃たなければ――!)
そんな彼の葛藤を目に焼き付けるかのように、ジャスティンはゆっくりと視線を上げながら続けるのだった。
「へへっ……安心しろ。このメスガキはすぐに"アイツ"の下僕になるからよぉ」
勝ち誇ったようにくつくつと笑い続けるジャスティン。
ジャスティンは、女性に押さえつけさせたイリーナの顎を持ち上げると、その容姿を舐め回すように見つめる。
「ふむぅ、可愛い顔してんじゃねぇか」
と口の端を吊り上げるジャスティン。
赤い瞳がギラギラと光り、舌で牙をなぞるその仕草は、まるで獲物を前にした猛獣そのものだった。
その恐ろしく光る赤い瞳に、イリーナは一瞬気圧されそうになるが負けじと睨み返す。
「ほぅ……度胸もいいじゃねぇの……だが……」
感心したように呟いたジャスティンは突然、イリーナの首筋に顔を近づけた。
噛まれる! と、経矢もイリーナもそう直感した。
「やめろっ!」
叫びながら経矢が銃を取り出そうとするが、ジャスティンは手でそれを制した。
そしてスゥ~と深呼吸するかのように息を吸い込んだかと思うと、イリーナの首筋から顔を離した。
「ハッ! やっぱりなぁ……。まだまだガキ臭くてガキ臭くて敵いやしねぇぜ。メスガキの匂いがプンプンして、全然飲めたもんじゃねぇ」
ジャスティンは顔を背けながらそう言うと、イリーナを押さえている女性を眺めて嗜虐的な笑みを浮かべる。
「やっぱり女ってのは、こう……ある程度大人の色気が出て初めて美味い血になるんだよなぁ……」
経矢とイリーナは、ジャスティンの言葉の意味をすぐに理解することができなかった。
そんな2人を無視して彼は続けた。
「そういやお前の死んだ姉ちゃん……。ありゃあよかったなぁ。ちょうど俺の好みだったんだがよぉ、手ぇ出す前にボスが売り飛ばしちまったからなぁ。残念だぜ、へへへ」
ジャスティンは、経矢の姉の話題を持ち出し、ニヤリと笑う。
経矢は表情を変えずにゆっくりと口を開いた。
「……黙れ。俺の前で姉さんを侮辱するなっ!」
その声音は怒りに震えていた。
彼にとっては、ルーベンの部下であるジャスティンもまた、姉の仇の1人だ。
「侮辱じゃねぇ、褒めたんだろうがよ」
ジャスティンはやれやれ、と手を振りながら経矢を見るが、彼の表情はやはり嚙み殺さんばかりの怒りに満ちていた。
「……へっ、まぁいいや。このガキは俺の好みじゃねぇが、こいつを気に入りそうな奴がいるんでね。取引のために連れ帰らせてもらうぜ?」
女性が押さえつけているイリーナに視線を向け、ジャスティンは経矢に告げる。
「そうはさせるかっ!」
「おおっと、動くんじゃねぇぞ。メスガキの綺麗な肌に傷がついちまうぜ」
経矢はジャスティンに向かって飛びかかろうとしたが、その行動を制されてしまう。
イリーナの肩は強引に地面へと押しつけられ、土の冷たさと女の手の異様な力が伝わってくる。
息を吸うたびに胸が圧迫され、抵抗することすら難しい。
ただの一市民である女性だが、吸血鬼に噛まれたことで基礎的な身体能力が常人のそれを大きく上回っている。
近接戦闘の鍛錬を始めたばかりのイリーナでは、少し相手が悪い。
「っ……」
悔しそうに唇を噛む経矢にジャスティンは、愉快そうに笑う。
「ヒャーッハッハッハ! いいねぇ、お前のその悔しそうな顔。あのクソガキがこんな顔するなんて、思いもしなかったぜぇ」
経矢はイリーナの首筋に顔を近づけるジャスティンに銃を向けたまま、何もできないでいる。
(今撃てばイリーナを巻き込む……けど撃たなければ――!)
そんな彼の葛藤を目に焼き付けるかのように、ジャスティンはゆっくりと視線を上げながら続けるのだった。
「へへっ……安心しろ。このメスガキはすぐに"アイツ"の下僕になるからよぉ」
勝ち誇ったようにくつくつと笑い続けるジャスティン。
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