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第2章「経矢の故郷」
第30話「光を奪う者、黒魔術師ジャスティン」
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「イリーナ、あいつは魔法で明かりを消すつもりだ! 消えたらすぐに次々と明かりを灯してくれ!」
「わかった! 任せて!」
経矢の言葉にイリーナは力強くうなずくと、背中に担いでいたライフル、ハンドガンにそれぞれ弾を装填し直す。
「ハッ! 俺の魔法の杖と嬢ちゃんの銃……文字どおりどっちが明暗を分けるか勝負ってわけだ!」
灯明に照らされたジャスティンの顔の影が、いっそう深さを増した。
「闇の子らよ、光を喰らえ。『ブラックアウト!』」
その詠唱と共に、光が悲鳴を上げるように消えていった。
杖先から放たれた黒い光は、イリーナが銃弾で灯していた灯明の光を塗り潰していく。
ジャスティンが使用したのは"暗転"の魔法だ。
灯明のような明かりを灯す魔法とは真逆の、周囲にある光を奪って消してしまう魔法だ。
杖先から次々と暗転の魔法を使用して、光を消していくジャスティン。
一瞬、夜の闇は暗闇に包まれる。
だが、すぐにまたイリーナの灯明の魔法が籠められた銃弾が、辺りに光をもたらす。
そしてそれをジャスティンが消し、イリーナが再び灯すという繰り返しだ。
光が灯るたび、影が躍る。
次の瞬間にはすべてが闇に飲まれ、息を呑む音だけが響いた。
目を凝らす暇もなく、闇が牙を剥く。
その中で経矢は、女性吸血鬼たちがイリーナを襲わないように後方に気を配りながら、炎の刃で吸血鬼たちと戦っていく。
しかし、先ほどと違って周囲の明かりが点いたり消えたりする状況は、経矢の感覚をわずかにだが狂わせ、攻撃が当たりにくくなってしまう。
一瞬の闇の中で、経矢とイリーナの互いの瞳がぶつかった。
言葉はいらなかった——ただ、「信じている」という想いだけが伝わった。
だがジャスティンとイリーナとでは、ジャスティンの闇の方が支配している時間が少しばかりだが長かった。
なぜならイリーナの方は、魔力とは別に弾のリロードが必要なのに対して、ジャスティンは魔力さえあれば即座に魔法を発動できるからだ。
イリーナのリロード自体はかなり速い方で隙をほとんど生じさせないが、それでも現状は辛うじてジャスティンのスピードに食らいついているに過ぎない。
リロードに手間取ったり、いずれ銃弾が尽きたりすれば、即座に辺りは闇に包まれてしまうだろう。
ある程度は感覚で戦うことができる経矢であっても、一斉に複数の気配を感じ取りながら、イリーナを守って戦うのは厳しい。
「ほらほらどうしたよ嬢ちゃん。さっきよりもペースが落ちて来てるんじゃねぇのか? このままだとお前らのお先も真っ暗になっちまうぜ」
「くっ……!」
経矢の懸念は的中し、徐々にイリーナは押され始めていた。
(あたしがここで持ちこたえないと……。キョウヤがあの吸血鬼たちを倒しきるまでは絶対に光を……灯し続けないと——!)
イリーナは必死に灯明の銃弾を放っていくが、ほんの僅かのうちにすぐにジャスティンの暗転にかき消されてしまう。
そして……。
(明かりが弱まってきた……。イリーナの魔力が限界に近いのか……!)
先ほどまでに比べて、灯明弾の明かりが弱まっていることに気付く経矢。
イリーナのリロードミスよりも銃弾が底を尽きるよりも先に、彼女の魔力の限界が近づいていたのだ。
元々、魔力量は多くないイリーナ。
基礎魔法である灯明の連発だけでも、彼女にとっては重労働なのだ。
一方のジャスティンは余裕の表情で杖を振るい、イリーナの限界が近い光を消していく。
作戦ミスだった、と経矢は動揺を隠せなかった。
元々麻痺成分が配合されている麻痺弾などとは異なり、灯明弾はイリーナの魔力を消費して、実弾に灯明という魔法を付与している。
つまりこれはジャスティンとの魔力対決だ。
イリーナの魔力が少ないのに対して、彼の方は……。
「ひひひっ、クソガキ……。俺が吸血鬼ってことに囚われすぎたなぁ?」
明かりを消しながらジャスティンは、吸血鬼たちに炎の刃を振る経矢を嘲る。
「——っ!」
一瞬にらみ返すものの、言い返すことができない経矢。
「お前は知ってるだろ? 500年前、まだ吸血鬼じゃなかった頃の俺を。黒魔術師ルーベン・メンデンホールに仕える俺もまた、黒魔術師だってことをよぉ!」
経矢の脳裏に、かつての彼との戦いの記憶がよぎる。
そう。
ルーベン・メンデンホールと彼が率いる一団は、全員が黒魔術師であり、特に死霊術に重きをおいた集団だった。
ジャスティンはルーベンの幹部の1人として、強力な召喚魔法を用いてかつて経矢と戦った相手だ。
当時もこのように自分で戦闘を行わずに、スケルトンや召喚霊などを呼び出して戦わせていた。
彼の魔力量とイリーナの魔力量では、比べるべくもなくイリーナが不利なのは当然だ。
このままでは間もなくイリーナの魔力は尽き、辺りは闇に包まれるだろう。
吸血鬼側が常に優位になり、加えてジャスティンも本格的に魔法を行使してくるかもしれない。
そうなれば経矢とて苦戦は必至だ。
「わかった! 任せて!」
経矢の言葉にイリーナは力強くうなずくと、背中に担いでいたライフル、ハンドガンにそれぞれ弾を装填し直す。
「ハッ! 俺の魔法の杖と嬢ちゃんの銃……文字どおりどっちが明暗を分けるか勝負ってわけだ!」
灯明に照らされたジャスティンの顔の影が、いっそう深さを増した。
「闇の子らよ、光を喰らえ。『ブラックアウト!』」
その詠唱と共に、光が悲鳴を上げるように消えていった。
杖先から放たれた黒い光は、イリーナが銃弾で灯していた灯明の光を塗り潰していく。
ジャスティンが使用したのは"暗転"の魔法だ。
灯明のような明かりを灯す魔法とは真逆の、周囲にある光を奪って消してしまう魔法だ。
杖先から次々と暗転の魔法を使用して、光を消していくジャスティン。
一瞬、夜の闇は暗闇に包まれる。
だが、すぐにまたイリーナの灯明の魔法が籠められた銃弾が、辺りに光をもたらす。
そしてそれをジャスティンが消し、イリーナが再び灯すという繰り返しだ。
光が灯るたび、影が躍る。
次の瞬間にはすべてが闇に飲まれ、息を呑む音だけが響いた。
目を凝らす暇もなく、闇が牙を剥く。
その中で経矢は、女性吸血鬼たちがイリーナを襲わないように後方に気を配りながら、炎の刃で吸血鬼たちと戦っていく。
しかし、先ほどと違って周囲の明かりが点いたり消えたりする状況は、経矢の感覚をわずかにだが狂わせ、攻撃が当たりにくくなってしまう。
一瞬の闇の中で、経矢とイリーナの互いの瞳がぶつかった。
言葉はいらなかった——ただ、「信じている」という想いだけが伝わった。
だがジャスティンとイリーナとでは、ジャスティンの闇の方が支配している時間が少しばかりだが長かった。
なぜならイリーナの方は、魔力とは別に弾のリロードが必要なのに対して、ジャスティンは魔力さえあれば即座に魔法を発動できるからだ。
イリーナのリロード自体はかなり速い方で隙をほとんど生じさせないが、それでも現状は辛うじてジャスティンのスピードに食らいついているに過ぎない。
リロードに手間取ったり、いずれ銃弾が尽きたりすれば、即座に辺りは闇に包まれてしまうだろう。
ある程度は感覚で戦うことができる経矢であっても、一斉に複数の気配を感じ取りながら、イリーナを守って戦うのは厳しい。
「ほらほらどうしたよ嬢ちゃん。さっきよりもペースが落ちて来てるんじゃねぇのか? このままだとお前らのお先も真っ暗になっちまうぜ」
「くっ……!」
経矢の懸念は的中し、徐々にイリーナは押され始めていた。
(あたしがここで持ちこたえないと……。キョウヤがあの吸血鬼たちを倒しきるまでは絶対に光を……灯し続けないと——!)
イリーナは必死に灯明の銃弾を放っていくが、ほんの僅かのうちにすぐにジャスティンの暗転にかき消されてしまう。
そして……。
(明かりが弱まってきた……。イリーナの魔力が限界に近いのか……!)
先ほどまでに比べて、灯明弾の明かりが弱まっていることに気付く経矢。
イリーナのリロードミスよりも銃弾が底を尽きるよりも先に、彼女の魔力の限界が近づいていたのだ。
元々、魔力量は多くないイリーナ。
基礎魔法である灯明の連発だけでも、彼女にとっては重労働なのだ。
一方のジャスティンは余裕の表情で杖を振るい、イリーナの限界が近い光を消していく。
作戦ミスだった、と経矢は動揺を隠せなかった。
元々麻痺成分が配合されている麻痺弾などとは異なり、灯明弾はイリーナの魔力を消費して、実弾に灯明という魔法を付与している。
つまりこれはジャスティンとの魔力対決だ。
イリーナの魔力が少ないのに対して、彼の方は……。
「ひひひっ、クソガキ……。俺が吸血鬼ってことに囚われすぎたなぁ?」
明かりを消しながらジャスティンは、吸血鬼たちに炎の刃を振る経矢を嘲る。
「——っ!」
一瞬にらみ返すものの、言い返すことができない経矢。
「お前は知ってるだろ? 500年前、まだ吸血鬼じゃなかった頃の俺を。黒魔術師ルーベン・メンデンホールに仕える俺もまた、黒魔術師だってことをよぉ!」
経矢の脳裏に、かつての彼との戦いの記憶がよぎる。
そう。
ルーベン・メンデンホールと彼が率いる一団は、全員が黒魔術師であり、特に死霊術に重きをおいた集団だった。
ジャスティンはルーベンの幹部の1人として、強力な召喚魔法を用いてかつて経矢と戦った相手だ。
当時もこのように自分で戦闘を行わずに、スケルトンや召喚霊などを呼び出して戦わせていた。
彼の魔力量とイリーナの魔力量では、比べるべくもなくイリーナが不利なのは当然だ。
このままでは間もなくイリーナの魔力は尽き、辺りは闇に包まれるだろう。
吸血鬼側が常に優位になり、加えてジャスティンも本格的に魔法を行使してくるかもしれない。
そうなれば経矢とて苦戦は必至だ。
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