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19話
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「よくやったわ。上出来よ」
いつの間にか、ヤシャはゆゆねの後ろに立っていた。
ショートソードに固く張り付いたゆゆねの指を、ヤシャが一本一本剥がしていく。
「これが剣よ。これが暴力よ。あなたはこれから、これを何度も経験する」
ヤシャは刃の粘液を拭くと、ゆゆねの鞘に納めた。
「それが、お姉さん。ねねかを目指すということ」
「……聞いたんですか、亭主さんに」
「ええ……ねねかは10年前の英雄。ガラクタの女王と呼ばれ、古代機を従え、死王と相討った。汚染された極北を切り離し、世界を守った」
ヤシャは空を仰ぐ。
「一般には、死んだとされる。けど、今も務めを成す機械たちを見て、まだ戦い続けているのではないかと信じるものもいる。あなたは……信じたいのね」
「わかりません。今も、ここも、でたらめまみれで。私が元の世界で姉と別れたのも2年前ですし……。でも、そんなことはどうでもよくて」
ただ、とゆゆねは言った。
「私は、お姉ちゃんに会いたい。私がかつて、大事に思えた唯一の人だから……」
「極北に入るのは難しいわよ。破断は大きく、渡る術は古い。その淵に近づくにも、いくつもの荒れ地と狂った機械たちが立ちふさがる」
「それでも、それだけなんです。私には」
「ならば、強くなりなさい。体を、心を。武器を研ぎ、技を磨き、信用できる仲間を集め。……ええ、数多を踏み越えて」
ヤシャは倒れた、切り刻まれた歩きキノコを見下ろす。
「これが一歩目よ、ゆゆね。この先、あなたは殺すでしょう。魔物を、機械を、亡者を。そして人を。でも止まってはダメよ。止まったとき、あなたは斬り捨てた死を裏切ることになるのだから」
ゆゆねは顔を上げた。
「ヤシャさんは。なんで、私にそこまで言ってくれるんですか? なんで、仲間にしてくれたんですか?」
「私たちはね、もう旅を終えた者なの。ガジュマルと二人、人生にひとつの結論を出した。だからね。まだもがいている人が、それもかわいい子がいたら、ちょっと手伝ってあげようかと思ったのよ」
「……か、かわいい」
「まっ、もちろん実益もあるんだけどね。あなたのチートは利用させてもらう。お金になるし、いくつかの記録に使いたい」
ヤシャはローブをひるがえす。
「さあ、黒きのこを集めて。この魔物の近くには、多くあるはず」
「は、はい」
ゆゆねは辺りを見渡そうとする。
だがその前にと。歩きキノコの死体の横に膝を折って座った。
少女は思った、祈った。
キノコさん、ごめんね。
でも私は決めたから。
横暴に、傲慢に目的を成すと。
この世界では、生きたいから。
でもやっぱり、ごめんね。
ゆゆねは立ち、体についた土を払った。
いこう。
――――――――――――――――
「寝たわ。あなたのベッドを使わせてもらったけど」
『夢見るもぐら亭』
夜の酒場に、ヤシャとガジュマルがいた。
周囲の喧騒を避け、カウンターの端に座っていた。
「戦わせたのか、わざわざ。歩きキノコのセオリーじゃあ……」
「そうよ、わざわざ戦わせたの。ねねかに追いつきたいのなら、多少急ぎ足じゃないとね」
「ねねか。ゆゆねの姉ちゃんか。……姉のために、か」
「あら、感じ入るものがある? ガジュマル」
「うるせぇな。家族を大事にするのはいいことだ。エルフはどうだか知らんがな」
「失礼ね。……まっ、荒っぽかったけど、これで入会のテストは済んだわ。明日からは、通常営業よ」
ヤシャは果実酒で、唇を湿らせる。
「依頼を受ける、ダンジョンを攻略する、秘境を渡る。冒険者として、強くなる。三人で」
「三人ねぇ……お前はさ、どこまでついていく気なんだ? ゆゆねに」
「どこまで、って?」
「あいつは極北まで行くつもりなんだろ。途方もない話だが、本気なのはわかる。お前はその純粋さに、最後まで付き合うのか?」
「今は……ないわ。利用して、適当なところで切り離す」
「ひでぇな。それで三人って言えるのか」
「一人で生きられるようにはしてあげるわ。それで十分すぎる」
「あくまでギブアンドテイクか」
「当たり前でしょ。……でも、今の話よ。もしも先、もしも未来……。あの子を好きになったら、うんと好きになったら。違う考えになるかもね」
「……そうか」
ガジュマルは目を細め、ビールを一口飲んだ。
「ヤシャ。お前は頭はいい。が、ちと心が固い。あのガキが、かき回してくれると面白くなるんだがな」
「あら、生意気などら猫ね。どっちが主人か忘れたの」
「いんや。片時も。ご主人様」
互いに笑う。
それから、二人は黙って酒を飲んだ。
いつの間にか、ヤシャはゆゆねの後ろに立っていた。
ショートソードに固く張り付いたゆゆねの指を、ヤシャが一本一本剥がしていく。
「これが剣よ。これが暴力よ。あなたはこれから、これを何度も経験する」
ヤシャは刃の粘液を拭くと、ゆゆねの鞘に納めた。
「それが、お姉さん。ねねかを目指すということ」
「……聞いたんですか、亭主さんに」
「ええ……ねねかは10年前の英雄。ガラクタの女王と呼ばれ、古代機を従え、死王と相討った。汚染された極北を切り離し、世界を守った」
ヤシャは空を仰ぐ。
「一般には、死んだとされる。けど、今も務めを成す機械たちを見て、まだ戦い続けているのではないかと信じるものもいる。あなたは……信じたいのね」
「わかりません。今も、ここも、でたらめまみれで。私が元の世界で姉と別れたのも2年前ですし……。でも、そんなことはどうでもよくて」
ただ、とゆゆねは言った。
「私は、お姉ちゃんに会いたい。私がかつて、大事に思えた唯一の人だから……」
「極北に入るのは難しいわよ。破断は大きく、渡る術は古い。その淵に近づくにも、いくつもの荒れ地と狂った機械たちが立ちふさがる」
「それでも、それだけなんです。私には」
「ならば、強くなりなさい。体を、心を。武器を研ぎ、技を磨き、信用できる仲間を集め。……ええ、数多を踏み越えて」
ヤシャは倒れた、切り刻まれた歩きキノコを見下ろす。
「これが一歩目よ、ゆゆね。この先、あなたは殺すでしょう。魔物を、機械を、亡者を。そして人を。でも止まってはダメよ。止まったとき、あなたは斬り捨てた死を裏切ることになるのだから」
ゆゆねは顔を上げた。
「ヤシャさんは。なんで、私にそこまで言ってくれるんですか? なんで、仲間にしてくれたんですか?」
「私たちはね、もう旅を終えた者なの。ガジュマルと二人、人生にひとつの結論を出した。だからね。まだもがいている人が、それもかわいい子がいたら、ちょっと手伝ってあげようかと思ったのよ」
「……か、かわいい」
「まっ、もちろん実益もあるんだけどね。あなたのチートは利用させてもらう。お金になるし、いくつかの記録に使いたい」
ヤシャはローブをひるがえす。
「さあ、黒きのこを集めて。この魔物の近くには、多くあるはず」
「は、はい」
ゆゆねは辺りを見渡そうとする。
だがその前にと。歩きキノコの死体の横に膝を折って座った。
少女は思った、祈った。
キノコさん、ごめんね。
でも私は決めたから。
横暴に、傲慢に目的を成すと。
この世界では、生きたいから。
でもやっぱり、ごめんね。
ゆゆねは立ち、体についた土を払った。
いこう。
――――――――――――――――
「寝たわ。あなたのベッドを使わせてもらったけど」
『夢見るもぐら亭』
夜の酒場に、ヤシャとガジュマルがいた。
周囲の喧騒を避け、カウンターの端に座っていた。
「戦わせたのか、わざわざ。歩きキノコのセオリーじゃあ……」
「そうよ、わざわざ戦わせたの。ねねかに追いつきたいのなら、多少急ぎ足じゃないとね」
「ねねか。ゆゆねの姉ちゃんか。……姉のために、か」
「あら、感じ入るものがある? ガジュマル」
「うるせぇな。家族を大事にするのはいいことだ。エルフはどうだか知らんがな」
「失礼ね。……まっ、荒っぽかったけど、これで入会のテストは済んだわ。明日からは、通常営業よ」
ヤシャは果実酒で、唇を湿らせる。
「依頼を受ける、ダンジョンを攻略する、秘境を渡る。冒険者として、強くなる。三人で」
「三人ねぇ……お前はさ、どこまでついていく気なんだ? ゆゆねに」
「どこまで、って?」
「あいつは極北まで行くつもりなんだろ。途方もない話だが、本気なのはわかる。お前はその純粋さに、最後まで付き合うのか?」
「今は……ないわ。利用して、適当なところで切り離す」
「ひでぇな。それで三人って言えるのか」
「一人で生きられるようにはしてあげるわ。それで十分すぎる」
「あくまでギブアンドテイクか」
「当たり前でしょ。……でも、今の話よ。もしも先、もしも未来……。あの子を好きになったら、うんと好きになったら。違う考えになるかもね」
「……そうか」
ガジュマルは目を細め、ビールを一口飲んだ。
「ヤシャ。お前は頭はいい。が、ちと心が固い。あのガキが、かき回してくれると面白くなるんだがな」
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「いんや。片時も。ご主人様」
互いに笑う。
それから、二人は黙って酒を飲んだ。
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