32 / 57
32話
しおりを挟む
やなぎ谷。
水害の多い、湿った土地。
その奥。
苔むし、ツタが這う穴。
墓所、霊廟。
失われた王国の、尊い墓。
まさに地下墓所(ダンジョン)。
「寒い」
ゆゆねは体を抱く。ローブをかぶり、てるてる坊主のような見た目になっていた。
天気は雨。
強くはないがじっとりと、ずっと。
この土地に入ってから、一度もやまない。
「休憩する? ゆゆね」
先頭をいくヤシャが振り返る。
「大丈夫です。まだ」ゆゆねは額につく髪を拭う。「なんだか動いてくれるようになったんです、私の足」
なぜだろう、とゆゆねは思う。鍛えたなんていえる時間は経っていない。
「体力、筋力も大事だが」後ろからガジュマルの声。「ボケてた手足が働くこと思い出したってのが大きい。脳みそが起きたんだよ」
「そっか、私。この世界にくるまで」いつもイスの上、ベッドの上だった。
「人間種は本来、持久力に優れる。長く遠く歩く者。他の誰もが疲れ果てても、お前たちは歩き続ける」
「適性……でも、ねこさんを超えられるとは思えません」
初めて会った時、自分を抱えて山を走ったガジュマルを忘れてはいない。
「オレは猫人の中では体が太いからな。体力はある」だが、とガジュマル。「良いことばかりじゃない。速さや身のこなしは犠牲になってる」
「私が貧弱だったからね」ヤシャが言った。「荷運びや追跡はガジュマルにやらせてきた。ずっと二人だったから」
猫は笑った。「なに。代わりにも本を読まなくて済んだ」
ゆゆねはなら自分が、と考えた。
私は鍛えたところで、読書も歩荷も二人には及ばないだろう。
でも、ちょっとずつ補うことはできるんじゃないか。
雨の谷を行く。
ゆゆねが雨合羽にしているローブは宿の冒険者のお古だ。
元は防水だったそれも、今はほころび、水がしみる。
でも、ないよりはいい。
強くなろう、ゆゆねは思った。
初めはお姉ちゃんに会うためだけだった。
でも今は、この世界をよく歩きたくなった。
ガジュマルさんとヤシャさんと共に。
鍛えよう、学ぼう、稼ごう、揃えよう。
私は冒険者だ。風の子だ。
お墓が見えた。
水害の多い、湿った土地。
その奥。
苔むし、ツタが這う穴。
墓所、霊廟。
失われた王国の、尊い墓。
まさに地下墓所(ダンジョン)。
「寒い」
ゆゆねは体を抱く。ローブをかぶり、てるてる坊主のような見た目になっていた。
天気は雨。
強くはないがじっとりと、ずっと。
この土地に入ってから、一度もやまない。
「休憩する? ゆゆね」
先頭をいくヤシャが振り返る。
「大丈夫です。まだ」ゆゆねは額につく髪を拭う。「なんだか動いてくれるようになったんです、私の足」
なぜだろう、とゆゆねは思う。鍛えたなんていえる時間は経っていない。
「体力、筋力も大事だが」後ろからガジュマルの声。「ボケてた手足が働くこと思い出したってのが大きい。脳みそが起きたんだよ」
「そっか、私。この世界にくるまで」いつもイスの上、ベッドの上だった。
「人間種は本来、持久力に優れる。長く遠く歩く者。他の誰もが疲れ果てても、お前たちは歩き続ける」
「適性……でも、ねこさんを超えられるとは思えません」
初めて会った時、自分を抱えて山を走ったガジュマルを忘れてはいない。
「オレは猫人の中では体が太いからな。体力はある」だが、とガジュマル。「良いことばかりじゃない。速さや身のこなしは犠牲になってる」
「私が貧弱だったからね」ヤシャが言った。「荷運びや追跡はガジュマルにやらせてきた。ずっと二人だったから」
猫は笑った。「なに。代わりにも本を読まなくて済んだ」
ゆゆねはなら自分が、と考えた。
私は鍛えたところで、読書も歩荷も二人には及ばないだろう。
でも、ちょっとずつ補うことはできるんじゃないか。
雨の谷を行く。
ゆゆねが雨合羽にしているローブは宿の冒険者のお古だ。
元は防水だったそれも、今はほころび、水がしみる。
でも、ないよりはいい。
強くなろう、ゆゆねは思った。
初めはお姉ちゃんに会うためだけだった。
でも今は、この世界をよく歩きたくなった。
ガジュマルさんとヤシャさんと共に。
鍛えよう、学ぼう、稼ごう、揃えよう。
私は冒険者だ。風の子だ。
お墓が見えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる