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4.想いを重ねて★(終)
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木々の葉がふわりと舞い、午後の光が淡く部屋に差し込む。
レアンドルの手が、そっとエリーズの頬に添えられる。
そのまま、ふたりはしばらく何も言わなかった。
言葉を重ねなくても伝わることがある——そう思えたのは、たぶん初めてだった。
彼のまなざしは、まっすぐで、少しだけ怯えを含んでいる。
それでも、逃げようとはしなかった。
火傷の痕も過去の痛みも、すべてさらけ出したその横顔は、どこまでも人間らしく、美しかった。
エリーズは、そっと微笑んだ。
嘘ではない、本当の笑顔で。
(もう、隠さなくていいんだ)
「レアンドル」
「……ん?」
「目、閉じて」
「……なんで?」
「ううん。理由なんて、ないよ」
そう言って、エリーズはそっと顔を寄せた。
レアンドルは、わずかに目を丸くし、それからおずおずと、目を閉じた。
そのまつげが、かすかに震えている。エリーズは、自分の胸の高鳴りを静めながら、包帯を巻いた手で彼の手をしっかりと握った。
もう、逃げないように。もう、一人にしないように。
そして——そっと唇を重ねた。
それは、まるで硝子の表面に触れるような、繊細な感触。けれど、心の奥まで染み渡るような、確かな温度を持っていた。
レアンドルの呼吸がふっと止まり、次の瞬間、ゆっくりと吐き出される。彼の指先が、エリーズの手を包むように動いた。
ふたりの傷も、不安も、すべてが沈黙のなかで溶けていく。
それは赦しであり、誓いであり、再生の始まりだった。
唇が離れたあと、エリーズは照れくさそうに笑った。
レアンドルは少しだけ目を伏せ、それから、言った。
「……生きててよかった、って思ったの、今が初めてかもしれない」
エリーズの胸が、静かに震える。
「私も。そう思った」
言葉のかわりに、またそっと唇が重なった。
今度は、迷いのないキスだった。
炎のなかで交わした視線の、その続き。
嘘も仮面もないふたりの、本当のはじまり。
包帯を巻いた手と手が、静かに絡まる。
陽射しの中で、ただ優しく、指先が溶け合っていく。
見つめられることで、ふたりは〝ここにいる〟と、知ったのだ。互いの傷跡を抱きしめるその唇に、確かな未来が宿っていた。
* * *
レアンドルは、包帯を巻いたエリーズの手をゆっくりと引き寄せた。
指先が触れるたび、彼女の体温が手のひらを伝い、胸の奥を震わせる。
(こんなにも、誰かに触れたくなるなんて)
エリーズの唇が、まだ余韻に濡れていた。レアンドルはそっと彼女を抱きしめ、その柔らかな髪に顔を埋めた。
「……エリーズ」
名前を呼ぶ声が、かすかに震えていた。
それでも、彼の両腕は確かに彼女を包み込み、もう離さないと告げていた。
レアンドルの手が、エリーズの背に回る。そしてそのまま、ゆっくりとベッドの上へと導かれていく。エリーズは抵抗することなく、その身を委ねた。
「……いいかい?」
彼の低い声が、耳もとでささやかれる。
その問いかけに、エリーズは一言も発さず、ただ静かにコクンと頷いた。
レアンドルの瞳が細められ、ふたたび唇がエリーズの唇に重なる。
今度のキスは、先ほどよりもずっと深く、情熱的で、迷いがなかった。
(私、この人に、溶かされていく)
絡まる舌先、くちびるをついばむような動き。
どちらからともなく息が漏れ、熱が高まっていく。
レアンドルの指先がエリーズの頬をなぞり、耳の裏を撫でる。
その動きはとても丁寧で、慎重で、まるで大切な彫刻に触れるかのようだった。
(触れられるたびに、自分が〝ここにいていい〟って思える)
エリーズはその思いを噛みしめながら、レアンドルの背にそっと腕を回す。
ふたりの体温がゆっくりと重なり、世界に音が消えていく。
部屋の中には、カーテン越しの柔らかな光と、肌と肌が触れ合うかすかな衣擦れの音だけ。
レアンドルがエリーズの首筋に唇を落とし、彼女の呼吸がふっと震える。
その胸元に触れる手は優しく、慎重に布をほどきながら、彼女の意思を確かめるように動いた。
「……エリーズ、怖くない?」
「ううん、怖くない。レアンドルとなら、どこまでもいけるわ」
その答えに、彼は深く息を吸い込んだ。
胸に宿る熱を抑えることなく、ゆっくりと彼女の肌に口づけていく。
包帯を巻いた手と手が、重なり合う。
仮面を脱いだふたりの、何も隠さない、ありのままの時間が始まった。
——誰かに見られることで生まれる恐怖も、誰かを見つめることで生まれる覚悟も。今、このベッドの上で、ふたりだけの愛へと変わっていく。
エリーズは目を閉じた。
そっと、彼に身を預けながら。
(私、あなたのすべてを、受け入れたい)
その願いは、唇ではなく、指先とぬくもりで伝えられていく。
ふたりは静かな寝室のなかで、何度も口づけを交わしながら、互いの記憶の海を漂うように、ゆっくりとひとつになっていった。
——それは、再生の儀式のように静かで、けれど情熱の炎を秘めた、愛の始まり。
* * *
レアンドルの指先が、そっとエリーズのブラウスのボタンに触れた。彼女は何も言わず、自ら進んで、ブラウスを脱いでいく。
そして、レアンドルのシャツにも、指をかけた。ふたりの手が、ぎこちなく重なって、笑い声が漏れる。
「なんだか、変だね」
「うん、でも……レアンドルと触れ合えて、嬉しい」
そう囁くエリーズの瞳は、微笑んでいた。
シャツをすべて外した瞬間、レアンドルの胸に浮かぶ火傷の痕が、陽射しの中に現れた。
赤褐色の皮膚は、まるで燃えた時間の名残のように、そこにあった。
エリーズはその痕にそっと指を這わせた。指先が触れた瞬間、レアンドルの肩が一度だけ、わずかに震えた。
「痛くない?」
「ああ。……もう、痛くはないよ。それに……今は優しい、君の指に触れられている」
その答えに、エリーズは目を細めた。
指先はやさしく、火傷の縁をなぞる。
まるで傷を愛おしむように。まるで、その時間ごと受け入れるように。
「綺麗……って言ったら、変かな」
エリーズの声は、ブランケットのように柔らかく、あたたかい。
レアンドルは静かに笑った。
そして、エリーズのブラウスの布越しに、指をそっと滑らせた。
肌に触れるその瞬間、エリーズの呼吸が少しだけ早くなる。
彼の手はゆっくりと胸元へ伸び、白く柔らかな肌を、驚くほど丁寧に撫でた。
「ありがとう。僕も触れていい? ……君の身体は、まるで彫刻だ」
その囁きに、エリーズの頬が赤く染まる。
(そんなふうに……言われたの、初めて)
レアンドルの指が、胸の頂にそっと触れたとき、エリーズの背筋がぴくんと跳ねた。
「あっ……!」
芯の奥が、じわじわと熱を帯びて疼き始める。
(私、こんなふうに、誰かに見られてるんだ)
彼の目は真剣で、まるで一彫りごとに意味を込めるように、指先を動かしている。
そこには欲望だけではない、尊さがあった。
「君は、僕の作品じゃない。けれど……こんなに近くで見たら、触れたくなる」
「触れて……いいわ。もっと、ちゃんと……私を知って」
エリーズはたどたどしく、そう言った。
そして、二人の身体はまた重なり、肌と肌が、嘘のない熱で繋がっていく。
ガラス越しの時間は、とうに終わった。
今はもう、何も隔てるものはない。
ふたりの間にあるのは、真実だけだった。
――この触れ合いは、きっと光になる。
互いの過去を赦し、未来を結ぶ、静かで燃えるような、愛の光に。
* * *
レアンドルの指先は、まるで祈るように、エリーズの肌の輪郭をなぞっていく。
肩先から鎖骨、そして胸の谷間へ。指が触れたところはじんわりと熱を帯び、エリーズの肌は白磁のように紅く染まっていった。
(ひとつひとつ、触れられるたびに……まるで、心までほどけていくみたい)
唇がそっと首筋に降り、エリーズは小さく息を漏らした。
ふたりの呼吸が、次第に重なっていく。
レアンドルの手は遠慮がちに、けれど明確な意志をもって、エリーズの身体をたどる。
肩紐を下ろし、胸を優しく包み込むと、エリーズは思わず背中を反らせた。
「んっ……!」
抑えきれずに洩れたその吐息が、ふたりの間の空気を変える。
レアンドルの目が揺れながらも真剣で、決して焦らず、彼女のすべてを知ろうとしている。
(触れられているのに、壊されない……私は、大切にされてる)
彼の掌が腹部をなぞり、そっと脚の付け根へと指が移動する。
そのときだった。
「あ、んぁっ……!」
ショーツの上から花芽を的確に捉えられ、エリーズの身体がびくんと跳ねた。
予期せぬ感覚が、一瞬にして彼女の芯を熱く染め上げていく。
(なに、これ……身体の奥が、じりじりしてる……)
脚の奥から湧き上がる疼きに、エリーズは恥じらい、そして否応なく昂ぶる。
だが彼は、動揺することなく、エリーズの身体を開いていく。
「ごめん。……嫌、だったよね?」
「ううん。……このままお願い、レアンドル」
彼女の身体は、これまで感じたことがないほど熱くなっていた。
「……いいのかい?」
レアンドルがたしかめると、エリーズはゆっくりと頷いた。彼はショーツの中に手を入れ、ついに核心の部分にそっと触れる。
「ぁあっ、やぁ……ん!」
自分の意思とは裏腹に身体がぎゅっと強張り、呼吸が浅くなっていく。
(レアンドルを、受け入れたい)
しかし指先はその部分を撫でていくだけだ。エリーズの身体は、それ以上の刺激を求めて疼き、熱を持っていく。
「レアンドル……お願い、もう……」
「怖い?」
その一言に、エリーズはかすかに微笑む。
「ううん。……もっと知って。私のこと」
まつげを伏せた瞳が、やさしく潤んでいる。
レアンドルはふたたび唇を重ね、今度は長く、深く、彼女の中に入り込むようなキスをした。
掌が、秘部を、花びらの内側と外側を、ゆっくりとなぞっていく。肌が火照りと快感で波立ち、エリーズの胸が小さく上下する。
ふたりの身体はもう、触れ合うたびに熱と鼓動を共鳴させていた。
(こんなふうに他人に優しく触れられるの、初めて)
恥ずかしいが、決して拒絶ではない。
むしろ、身体の奥が彼を求めて疼く感覚は、彼女にとって新鮮で、戸惑いのなかに幸福があった。
レアンドルは決して急がず、確かめるように、彼女の中心に手を這わせる。
「……ぃあっ、ああっ」
エリーズの脚が小さく震えた。
その声に、レアンドルはエリーズの額にキスを落とす。
「可愛い声。僕は、彫刻みたいに……君を彫って、形にしてみたい。……君の奥まで、触れてみたい」
囁かれたその言葉に、エリーズの胸の奥が震えた。
さらなる深みが、二人を誘っている。静かに溶けていきたい。エリーズはそう思う。
* * *
「……レアンドル、ありがとう」
エリーズの声が、火照った喉を震わせて漏れた。
その一言には、今まで誰にも渡したことのないものが詰まっていた。
レアンドルの腕のなかで、全身が火のように熱く、震えていた。
エリーズはそっと、彼の耳元に唇を寄せた。
「彫刻をつくるみたいに……私を、あなたの形に変えて。あなたの芸術品に、して」
彼の腕が強くなる。
唇が、鎖骨に落ちる。
息が混じるその動きに、エリーズの胸がかすかに震え、背筋を震わせた。
「わかった。エリーズ……僕と、一つになろう」
レアンドルは、彼女の言葉をまっすぐに受け止めた。
エリーズを導くように、ベッドに仰向けにさせる。
そして脚を大きく開かせ、その間に自らの身体を置いた。
下履きを脱ぐと、現れたのはそそり立つ肉棒だ。
(レアンドルの……大きい)
それは逞しく、生命力に満ちていた。赤黒く脈打ちながら、太い血管が浮き出ていて、先端からは先走りの透明な雫が糸を引く。
まるで生き物のようなそれは、ゆっくりとエリーズの秘部に近づき、先端をその濡れた入り口にあてがった。
「っあぁ……んっ……!」
その刺激だけで、エリーズは期待に震えた。レアンドルは少しずつ力を込めて、彼女の肉襞を割り開くように押し進んでいく。
「苦しい?」
「いいえ……嬉しいの」
(入ってくる……私の中に)
先端が押し入ってきた瞬間、エリーズはたまらない幸福感に包まれた。
レアンドルは、ゆっくりと腰を沈めていく。
熱い楔が、彼女の奥へと進み入る。
ゆっくりと、慎重に、けれど確かな意志で——まるで彫刻刀のように、エリーズの身体に自身の〝証〟を刻み込むように。
「あっ、くぅ……んっ、ぁああっ!」
ストロークが始まれば、あえかな声が漏れる。
エリーズは、自分の奥が熱に溶けていくのを感じた。
身体の芯が、レアンドルという存在で満たされていく。
痛みはなかった。ただ、ひたすらに心が満たされ、身体が応えていく。
(私、今、変わっていく)
レアンドルは動きを重ねながら、エリーズの頬に口づけ、耳を、首筋を、胸を、ゆっくり、丁寧に愛でていく。
まるで、大理石に魂を刻むように。
余白を慈しみ、滑らかな曲線をなぞりながら、ただひとつの芸術を完成させるかのように。
「あっ、あなたが……奥まできてる」
彼のモノが深く侵入するにつれ、エリーズの内側は徐々に彼の形に馴染んでいった。レアンドルは彼女の腰に手を添え、ゆっくりとした動きで彼女を知り尽くそうとする。
「君の中は……僕のものを包み込むようだ」
彼の言葉は熱っぽく、吐息と共にエリーズの耳に注がれた。
「ああっ……!」
レアンドルは彼女の反応を見逃さなかった。彼女の腰がわずかに浮き上がるたびに、彼は動きを調整し、また一段と、彼女の奥へと進んでいく。
「んんっ……! そこ、当たって……っ」
声が高くなり、彼女の内壁がレアンドルをきゅっと締め付けた。
エリーズの仮面——嘘の笑顔、誰かの期待に応えようとした自分——それらが、愛と熱のなかで溶けて剥がれていく。
「レアンドル……私、もう……無理に笑わなくていい?」
「もちろんさ。……笑っていい。君の、本当の顔で」
交わるたびに、エリーズの瞳から涙がこぼれた。
悲しみではなく、喜びの涙。
ようやく素顔で触れ合える、そのことが嬉しくて、どうしようもなかった。
熱が深くまで届き、奥を擦るたびに、エリーズは震える。
「好き……あなたが、好き。傷も、痛みも……ぜんぶ、あなたごと、抱きしめたい」
レアンドルの動きが、そこで一度だけ止まった。
そして——深く、熱く、エリーズの奥まで押し込まれる。
その一瞬、彼の体温ごと、心の核まで届けられたような衝撃が走る。
「ああ……!」
エリーズの声が、感極まった吐息とともに零れる。
身体の奥がきゅっと締まり、ふたりはひとつの鼓動を分かち合うように震えた。
愛の熱が、ふたりを濡らし、濃密な静寂が部屋を満たしていく。
レアンドルの胸に顔を埋め、エリーズは安堵と幸福のなかで目を閉じた。
(私は……あなたの手の中で、生まれ変わった)
愛されることは、赦されること。
愛することは、受け入れること。
それを、身体ごと知った瞬間だった。
そして、レアンドルもまた、自分の存在を誰かに刻めたことに、深く深く、震えるような安堵を感じていた。
ふたりは、裸の心で抱き合いながら、互いの本当を信じ合った。
それは、痛みを刻んだ彫刻に光が差し込む瞬間だった。
* * *
交わりを終えて、しばらくの間、二人は眠った。
窓の向こう、空がすこしずつ色を変えていく。
青空に、柔らかな朱がにじみはじめ、薄く差し込む光が、ベッドにふたりを包んでいた。
エリーズは、レアンドルの胸に頬を預けたまま、ゆっくりとまばたきをした。
裸の肩にかけられたシーツの柔らかさと、彼の呼吸の温度を感じながら、静かに夕暮れを感じていた。
ふたりの間にある沈黙は、もう不安でも気遣いでもなかった。
ただ、安心と、信頼と、温もりだった。
「起きた?」
レアンドルの低い声が、エリーズの髪に降るように落ちた。
「ええ。……眠れたけど、目が覚めてしまったわ」
エリーズは彼の胸に手をのせ、心音を感じる。
(この音が、私のなかにも届いている)
「ねえ……レアンドルは、火傷の痕を見られること、まだ怖い?」
レアンドルはしばらく黙っていた。
そして、ぽつりと呟く。
「怖い、っていうより……恥ずかしいな。今も時々、鏡を見ると、目を背けたくなる。でも……君が見てくれるなら、ちょっとだけ、誇らしいとも思えるんだ」
その言葉に、エリーズの胸がじんと熱くなる。
彼の傷を、ただの過去ではなく〝彼自身の証〟として受け止められたこと。
それが、エリーズにとって何より嬉しかった。
「私もね、レアンドルに見られたことで、変われたと思う。偽った笑顔も、人を避ける癖も、いい子でいなきゃって思い込んでたのも」
エリーズはそっと起き上がり、レアンドルの顔を見下ろすようにして、にっこりと笑った。
それは、仮面ではない――本当の、彼女の笑顔だった。
「全部、もういらないって思えた。だって……こんなふうに誰かに見られるって、怖いだけじゃないんだって、知ったから」
「……エリーズ」
レアンドルがそっと彼女の頬に触れる。
傷のない手と、包帯を巻いた手とで、彼女を包む。
「見られることで、はじめて存在になる。……そう教えてくれたのは、君だ」
エリーズは目を細め、レアンドルの手に自分の手を重ねた。
「私も。あなたに見てもらえたから、やっと、ここにいていいって思えた。ねえ、レアンドル。……これが〝本当の美しさ〟なのかな?」
レアンドルは、そっと頷いた。
「きっと、そうだと思う。嘘じゃなくて、逃げないで、ちゃんと向き合えること……それが、美しさなんだろうな」
ふたりは、朝の静けさの中で、深く口づけを交わした。
もう何も隠すものはない。
傷も、過去も、身体も、そして――心も。
* * *
夕日が部屋に差し込む頃、二人はベッドを出て、裸足のまま窓辺に立った。
開け放たれたカーテンが風に揺れ、橙色の光が部屋中を照らす。
エリーズは、包帯をそっと外して言った。
「包帯、止めた方がいいわね。怪我をしていない私がやったら、おままごとみたいだもの」
「……でも、君が巻いてくれたときは、すごく救われた」
「じゃあ、また必要になったら、私が巻いてあげる」
「あなたの傷を、これからも、私が守るから」
レアンドルがふっと笑う。
「じゃあ、僕も君の笑顔を彫り続けるよ。……今度は、泣いてない笑顔を」
未来はまだ、わからない。
だけど確かに、ふたりの間にはひとつの形が生まれた。
それは彫刻のように、時間をかけて磨かれ、決して壊れない想いとして、互いの心に刻まれていく。
エリーズはもう一度、微笑んだ。
それは——本心からの、人生でいちばん美しい笑顔だった。
おわり
レアンドルの手が、そっとエリーズの頬に添えられる。
そのまま、ふたりはしばらく何も言わなかった。
言葉を重ねなくても伝わることがある——そう思えたのは、たぶん初めてだった。
彼のまなざしは、まっすぐで、少しだけ怯えを含んでいる。
それでも、逃げようとはしなかった。
火傷の痕も過去の痛みも、すべてさらけ出したその横顔は、どこまでも人間らしく、美しかった。
エリーズは、そっと微笑んだ。
嘘ではない、本当の笑顔で。
(もう、隠さなくていいんだ)
「レアンドル」
「……ん?」
「目、閉じて」
「……なんで?」
「ううん。理由なんて、ないよ」
そう言って、エリーズはそっと顔を寄せた。
レアンドルは、わずかに目を丸くし、それからおずおずと、目を閉じた。
そのまつげが、かすかに震えている。エリーズは、自分の胸の高鳴りを静めながら、包帯を巻いた手で彼の手をしっかりと握った。
もう、逃げないように。もう、一人にしないように。
そして——そっと唇を重ねた。
それは、まるで硝子の表面に触れるような、繊細な感触。けれど、心の奥まで染み渡るような、確かな温度を持っていた。
レアンドルの呼吸がふっと止まり、次の瞬間、ゆっくりと吐き出される。彼の指先が、エリーズの手を包むように動いた。
ふたりの傷も、不安も、すべてが沈黙のなかで溶けていく。
それは赦しであり、誓いであり、再生の始まりだった。
唇が離れたあと、エリーズは照れくさそうに笑った。
レアンドルは少しだけ目を伏せ、それから、言った。
「……生きててよかった、って思ったの、今が初めてかもしれない」
エリーズの胸が、静かに震える。
「私も。そう思った」
言葉のかわりに、またそっと唇が重なった。
今度は、迷いのないキスだった。
炎のなかで交わした視線の、その続き。
嘘も仮面もないふたりの、本当のはじまり。
包帯を巻いた手と手が、静かに絡まる。
陽射しの中で、ただ優しく、指先が溶け合っていく。
見つめられることで、ふたりは〝ここにいる〟と、知ったのだ。互いの傷跡を抱きしめるその唇に、確かな未来が宿っていた。
* * *
レアンドルは、包帯を巻いたエリーズの手をゆっくりと引き寄せた。
指先が触れるたび、彼女の体温が手のひらを伝い、胸の奥を震わせる。
(こんなにも、誰かに触れたくなるなんて)
エリーズの唇が、まだ余韻に濡れていた。レアンドルはそっと彼女を抱きしめ、その柔らかな髪に顔を埋めた。
「……エリーズ」
名前を呼ぶ声が、かすかに震えていた。
それでも、彼の両腕は確かに彼女を包み込み、もう離さないと告げていた。
レアンドルの手が、エリーズの背に回る。そしてそのまま、ゆっくりとベッドの上へと導かれていく。エリーズは抵抗することなく、その身を委ねた。
「……いいかい?」
彼の低い声が、耳もとでささやかれる。
その問いかけに、エリーズは一言も発さず、ただ静かにコクンと頷いた。
レアンドルの瞳が細められ、ふたたび唇がエリーズの唇に重なる。
今度のキスは、先ほどよりもずっと深く、情熱的で、迷いがなかった。
(私、この人に、溶かされていく)
絡まる舌先、くちびるをついばむような動き。
どちらからともなく息が漏れ、熱が高まっていく。
レアンドルの指先がエリーズの頬をなぞり、耳の裏を撫でる。
その動きはとても丁寧で、慎重で、まるで大切な彫刻に触れるかのようだった。
(触れられるたびに、自分が〝ここにいていい〟って思える)
エリーズはその思いを噛みしめながら、レアンドルの背にそっと腕を回す。
ふたりの体温がゆっくりと重なり、世界に音が消えていく。
部屋の中には、カーテン越しの柔らかな光と、肌と肌が触れ合うかすかな衣擦れの音だけ。
レアンドルがエリーズの首筋に唇を落とし、彼女の呼吸がふっと震える。
その胸元に触れる手は優しく、慎重に布をほどきながら、彼女の意思を確かめるように動いた。
「……エリーズ、怖くない?」
「ううん、怖くない。レアンドルとなら、どこまでもいけるわ」
その答えに、彼は深く息を吸い込んだ。
胸に宿る熱を抑えることなく、ゆっくりと彼女の肌に口づけていく。
包帯を巻いた手と手が、重なり合う。
仮面を脱いだふたりの、何も隠さない、ありのままの時間が始まった。
——誰かに見られることで生まれる恐怖も、誰かを見つめることで生まれる覚悟も。今、このベッドの上で、ふたりだけの愛へと変わっていく。
エリーズは目を閉じた。
そっと、彼に身を預けながら。
(私、あなたのすべてを、受け入れたい)
その願いは、唇ではなく、指先とぬくもりで伝えられていく。
ふたりは静かな寝室のなかで、何度も口づけを交わしながら、互いの記憶の海を漂うように、ゆっくりとひとつになっていった。
——それは、再生の儀式のように静かで、けれど情熱の炎を秘めた、愛の始まり。
* * *
レアンドルの指先が、そっとエリーズのブラウスのボタンに触れた。彼女は何も言わず、自ら進んで、ブラウスを脱いでいく。
そして、レアンドルのシャツにも、指をかけた。ふたりの手が、ぎこちなく重なって、笑い声が漏れる。
「なんだか、変だね」
「うん、でも……レアンドルと触れ合えて、嬉しい」
そう囁くエリーズの瞳は、微笑んでいた。
シャツをすべて外した瞬間、レアンドルの胸に浮かぶ火傷の痕が、陽射しの中に現れた。
赤褐色の皮膚は、まるで燃えた時間の名残のように、そこにあった。
エリーズはその痕にそっと指を這わせた。指先が触れた瞬間、レアンドルの肩が一度だけ、わずかに震えた。
「痛くない?」
「ああ。……もう、痛くはないよ。それに……今は優しい、君の指に触れられている」
その答えに、エリーズは目を細めた。
指先はやさしく、火傷の縁をなぞる。
まるで傷を愛おしむように。まるで、その時間ごと受け入れるように。
「綺麗……って言ったら、変かな」
エリーズの声は、ブランケットのように柔らかく、あたたかい。
レアンドルは静かに笑った。
そして、エリーズのブラウスの布越しに、指をそっと滑らせた。
肌に触れるその瞬間、エリーズの呼吸が少しだけ早くなる。
彼の手はゆっくりと胸元へ伸び、白く柔らかな肌を、驚くほど丁寧に撫でた。
「ありがとう。僕も触れていい? ……君の身体は、まるで彫刻だ」
その囁きに、エリーズの頬が赤く染まる。
(そんなふうに……言われたの、初めて)
レアンドルの指が、胸の頂にそっと触れたとき、エリーズの背筋がぴくんと跳ねた。
「あっ……!」
芯の奥が、じわじわと熱を帯びて疼き始める。
(私、こんなふうに、誰かに見られてるんだ)
彼の目は真剣で、まるで一彫りごとに意味を込めるように、指先を動かしている。
そこには欲望だけではない、尊さがあった。
「君は、僕の作品じゃない。けれど……こんなに近くで見たら、触れたくなる」
「触れて……いいわ。もっと、ちゃんと……私を知って」
エリーズはたどたどしく、そう言った。
そして、二人の身体はまた重なり、肌と肌が、嘘のない熱で繋がっていく。
ガラス越しの時間は、とうに終わった。
今はもう、何も隔てるものはない。
ふたりの間にあるのは、真実だけだった。
――この触れ合いは、きっと光になる。
互いの過去を赦し、未来を結ぶ、静かで燃えるような、愛の光に。
* * *
レアンドルの指先は、まるで祈るように、エリーズの肌の輪郭をなぞっていく。
肩先から鎖骨、そして胸の谷間へ。指が触れたところはじんわりと熱を帯び、エリーズの肌は白磁のように紅く染まっていった。
(ひとつひとつ、触れられるたびに……まるで、心までほどけていくみたい)
唇がそっと首筋に降り、エリーズは小さく息を漏らした。
ふたりの呼吸が、次第に重なっていく。
レアンドルの手は遠慮がちに、けれど明確な意志をもって、エリーズの身体をたどる。
肩紐を下ろし、胸を優しく包み込むと、エリーズは思わず背中を反らせた。
「んっ……!」
抑えきれずに洩れたその吐息が、ふたりの間の空気を変える。
レアンドルの目が揺れながらも真剣で、決して焦らず、彼女のすべてを知ろうとしている。
(触れられているのに、壊されない……私は、大切にされてる)
彼の掌が腹部をなぞり、そっと脚の付け根へと指が移動する。
そのときだった。
「あ、んぁっ……!」
ショーツの上から花芽を的確に捉えられ、エリーズの身体がびくんと跳ねた。
予期せぬ感覚が、一瞬にして彼女の芯を熱く染め上げていく。
(なに、これ……身体の奥が、じりじりしてる……)
脚の奥から湧き上がる疼きに、エリーズは恥じらい、そして否応なく昂ぶる。
だが彼は、動揺することなく、エリーズの身体を開いていく。
「ごめん。……嫌、だったよね?」
「ううん。……このままお願い、レアンドル」
彼女の身体は、これまで感じたことがないほど熱くなっていた。
「……いいのかい?」
レアンドルがたしかめると、エリーズはゆっくりと頷いた。彼はショーツの中に手を入れ、ついに核心の部分にそっと触れる。
「ぁあっ、やぁ……ん!」
自分の意思とは裏腹に身体がぎゅっと強張り、呼吸が浅くなっていく。
(レアンドルを、受け入れたい)
しかし指先はその部分を撫でていくだけだ。エリーズの身体は、それ以上の刺激を求めて疼き、熱を持っていく。
「レアンドル……お願い、もう……」
「怖い?」
その一言に、エリーズはかすかに微笑む。
「ううん。……もっと知って。私のこと」
まつげを伏せた瞳が、やさしく潤んでいる。
レアンドルはふたたび唇を重ね、今度は長く、深く、彼女の中に入り込むようなキスをした。
掌が、秘部を、花びらの内側と外側を、ゆっくりとなぞっていく。肌が火照りと快感で波立ち、エリーズの胸が小さく上下する。
ふたりの身体はもう、触れ合うたびに熱と鼓動を共鳴させていた。
(こんなふうに他人に優しく触れられるの、初めて)
恥ずかしいが、決して拒絶ではない。
むしろ、身体の奥が彼を求めて疼く感覚は、彼女にとって新鮮で、戸惑いのなかに幸福があった。
レアンドルは決して急がず、確かめるように、彼女の中心に手を這わせる。
「……ぃあっ、ああっ」
エリーズの脚が小さく震えた。
その声に、レアンドルはエリーズの額にキスを落とす。
「可愛い声。僕は、彫刻みたいに……君を彫って、形にしてみたい。……君の奥まで、触れてみたい」
囁かれたその言葉に、エリーズの胸の奥が震えた。
さらなる深みが、二人を誘っている。静かに溶けていきたい。エリーズはそう思う。
* * *
「……レアンドル、ありがとう」
エリーズの声が、火照った喉を震わせて漏れた。
その一言には、今まで誰にも渡したことのないものが詰まっていた。
レアンドルの腕のなかで、全身が火のように熱く、震えていた。
エリーズはそっと、彼の耳元に唇を寄せた。
「彫刻をつくるみたいに……私を、あなたの形に変えて。あなたの芸術品に、して」
彼の腕が強くなる。
唇が、鎖骨に落ちる。
息が混じるその動きに、エリーズの胸がかすかに震え、背筋を震わせた。
「わかった。エリーズ……僕と、一つになろう」
レアンドルは、彼女の言葉をまっすぐに受け止めた。
エリーズを導くように、ベッドに仰向けにさせる。
そして脚を大きく開かせ、その間に自らの身体を置いた。
下履きを脱ぐと、現れたのはそそり立つ肉棒だ。
(レアンドルの……大きい)
それは逞しく、生命力に満ちていた。赤黒く脈打ちながら、太い血管が浮き出ていて、先端からは先走りの透明な雫が糸を引く。
まるで生き物のようなそれは、ゆっくりとエリーズの秘部に近づき、先端をその濡れた入り口にあてがった。
「っあぁ……んっ……!」
その刺激だけで、エリーズは期待に震えた。レアンドルは少しずつ力を込めて、彼女の肉襞を割り開くように押し進んでいく。
「苦しい?」
「いいえ……嬉しいの」
(入ってくる……私の中に)
先端が押し入ってきた瞬間、エリーズはたまらない幸福感に包まれた。
レアンドルは、ゆっくりと腰を沈めていく。
熱い楔が、彼女の奥へと進み入る。
ゆっくりと、慎重に、けれど確かな意志で——まるで彫刻刀のように、エリーズの身体に自身の〝証〟を刻み込むように。
「あっ、くぅ……んっ、ぁああっ!」
ストロークが始まれば、あえかな声が漏れる。
エリーズは、自分の奥が熱に溶けていくのを感じた。
身体の芯が、レアンドルという存在で満たされていく。
痛みはなかった。ただ、ひたすらに心が満たされ、身体が応えていく。
(私、今、変わっていく)
レアンドルは動きを重ねながら、エリーズの頬に口づけ、耳を、首筋を、胸を、ゆっくり、丁寧に愛でていく。
まるで、大理石に魂を刻むように。
余白を慈しみ、滑らかな曲線をなぞりながら、ただひとつの芸術を完成させるかのように。
「あっ、あなたが……奥まできてる」
彼のモノが深く侵入するにつれ、エリーズの内側は徐々に彼の形に馴染んでいった。レアンドルは彼女の腰に手を添え、ゆっくりとした動きで彼女を知り尽くそうとする。
「君の中は……僕のものを包み込むようだ」
彼の言葉は熱っぽく、吐息と共にエリーズの耳に注がれた。
「ああっ……!」
レアンドルは彼女の反応を見逃さなかった。彼女の腰がわずかに浮き上がるたびに、彼は動きを調整し、また一段と、彼女の奥へと進んでいく。
「んんっ……! そこ、当たって……っ」
声が高くなり、彼女の内壁がレアンドルをきゅっと締め付けた。
エリーズの仮面——嘘の笑顔、誰かの期待に応えようとした自分——それらが、愛と熱のなかで溶けて剥がれていく。
「レアンドル……私、もう……無理に笑わなくていい?」
「もちろんさ。……笑っていい。君の、本当の顔で」
交わるたびに、エリーズの瞳から涙がこぼれた。
悲しみではなく、喜びの涙。
ようやく素顔で触れ合える、そのことが嬉しくて、どうしようもなかった。
熱が深くまで届き、奥を擦るたびに、エリーズは震える。
「好き……あなたが、好き。傷も、痛みも……ぜんぶ、あなたごと、抱きしめたい」
レアンドルの動きが、そこで一度だけ止まった。
そして——深く、熱く、エリーズの奥まで押し込まれる。
その一瞬、彼の体温ごと、心の核まで届けられたような衝撃が走る。
「ああ……!」
エリーズの声が、感極まった吐息とともに零れる。
身体の奥がきゅっと締まり、ふたりはひとつの鼓動を分かち合うように震えた。
愛の熱が、ふたりを濡らし、濃密な静寂が部屋を満たしていく。
レアンドルの胸に顔を埋め、エリーズは安堵と幸福のなかで目を閉じた。
(私は……あなたの手の中で、生まれ変わった)
愛されることは、赦されること。
愛することは、受け入れること。
それを、身体ごと知った瞬間だった。
そして、レアンドルもまた、自分の存在を誰かに刻めたことに、深く深く、震えるような安堵を感じていた。
ふたりは、裸の心で抱き合いながら、互いの本当を信じ合った。
それは、痛みを刻んだ彫刻に光が差し込む瞬間だった。
* * *
交わりを終えて、しばらくの間、二人は眠った。
窓の向こう、空がすこしずつ色を変えていく。
青空に、柔らかな朱がにじみはじめ、薄く差し込む光が、ベッドにふたりを包んでいた。
エリーズは、レアンドルの胸に頬を預けたまま、ゆっくりとまばたきをした。
裸の肩にかけられたシーツの柔らかさと、彼の呼吸の温度を感じながら、静かに夕暮れを感じていた。
ふたりの間にある沈黙は、もう不安でも気遣いでもなかった。
ただ、安心と、信頼と、温もりだった。
「起きた?」
レアンドルの低い声が、エリーズの髪に降るように落ちた。
「ええ。……眠れたけど、目が覚めてしまったわ」
エリーズは彼の胸に手をのせ、心音を感じる。
(この音が、私のなかにも届いている)
「ねえ……レアンドルは、火傷の痕を見られること、まだ怖い?」
レアンドルはしばらく黙っていた。
そして、ぽつりと呟く。
「怖い、っていうより……恥ずかしいな。今も時々、鏡を見ると、目を背けたくなる。でも……君が見てくれるなら、ちょっとだけ、誇らしいとも思えるんだ」
その言葉に、エリーズの胸がじんと熱くなる。
彼の傷を、ただの過去ではなく〝彼自身の証〟として受け止められたこと。
それが、エリーズにとって何より嬉しかった。
「私もね、レアンドルに見られたことで、変われたと思う。偽った笑顔も、人を避ける癖も、いい子でいなきゃって思い込んでたのも」
エリーズはそっと起き上がり、レアンドルの顔を見下ろすようにして、にっこりと笑った。
それは、仮面ではない――本当の、彼女の笑顔だった。
「全部、もういらないって思えた。だって……こんなふうに誰かに見られるって、怖いだけじゃないんだって、知ったから」
「……エリーズ」
レアンドルがそっと彼女の頬に触れる。
傷のない手と、包帯を巻いた手とで、彼女を包む。
「見られることで、はじめて存在になる。……そう教えてくれたのは、君だ」
エリーズは目を細め、レアンドルの手に自分の手を重ねた。
「私も。あなたに見てもらえたから、やっと、ここにいていいって思えた。ねえ、レアンドル。……これが〝本当の美しさ〟なのかな?」
レアンドルは、そっと頷いた。
「きっと、そうだと思う。嘘じゃなくて、逃げないで、ちゃんと向き合えること……それが、美しさなんだろうな」
ふたりは、朝の静けさの中で、深く口づけを交わした。
もう何も隠すものはない。
傷も、過去も、身体も、そして――心も。
* * *
夕日が部屋に差し込む頃、二人はベッドを出て、裸足のまま窓辺に立った。
開け放たれたカーテンが風に揺れ、橙色の光が部屋中を照らす。
エリーズは、包帯をそっと外して言った。
「包帯、止めた方がいいわね。怪我をしていない私がやったら、おままごとみたいだもの」
「……でも、君が巻いてくれたときは、すごく救われた」
「じゃあ、また必要になったら、私が巻いてあげる」
「あなたの傷を、これからも、私が守るから」
レアンドルがふっと笑う。
「じゃあ、僕も君の笑顔を彫り続けるよ。……今度は、泣いてない笑顔を」
未来はまだ、わからない。
だけど確かに、ふたりの間にはひとつの形が生まれた。
それは彫刻のように、時間をかけて磨かれ、決して壊れない想いとして、互いの心に刻まれていく。
エリーズはもう一度、微笑んだ。
それは——本心からの、人生でいちばん美しい笑顔だった。
おわり
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