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第一章 辺境のハロウィンパーティ
1-11.仮面の男とキスをした★
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「きゃっ! ごめんなさい」
ヤバい。そう思ったときには、リズは体勢を崩していた。ダンスに夢中になるあまり、周りが見えなくなっていた。踊る相手――おそらく生徒――は力強いステップが特徴で、リズは彼に合わせるために身体の動きを大きくせざるを得なかったのだ。しかしそれが失敗だった。楽曲の山場に合わせて後ろに一歩引いたところで、背中に誰かがぶつかったのだ。
(ダンスを真剣にやりすぎて、こんなことになるなんて)
ピカピカに磨き上げられた大理石の床に両手を突いた刹那、一人の男が――否、正確に表現するならば銀髪の狼の仮装をした青年が――リズに覆い被さってきた。リズと狼は、ホールの真ん中で倒れ込み重なり合うような体勢になる。そして男の唇が――不幸にもリズの唇に重なってしまった!
(えっ何これ……公衆の面前で……キス……?)
会場には小さなどよめきが起こる。管弦楽団による演奏が続いているというのに、ダンスを中断し、じっとリズたちに視線を向ける者もいた。
リズも相手の男も、目元を仮面で隠しているから正体は分からない。だが、それにしたって学校中の関係者が見ている中で口付けするだなんて、さすがに気まずくないですか……?
「おっと、ごめん、魔女さん。痛いところはないですか?」
青年はガバッと起き上がると、転倒の衝撃で折れた狼耳を直しながら、リズに手を差し伸べた。何事も起こっていないかのような表情だ。リズに原因があるのは百も承知だが、男の素直な反応を見ると、なんだかイライラしてきてしまう。
「あ、ありません。……すみませんでした。では私はこれで」
リズも立ち上がり、念のためワンピースの裾を払い、とんがり帽子の角度を調節した。照れ隠しである。
(ああ、もう。一刻でも早くここから抜け出したい!)
リズの仮装には、ヴィッキーやイヴリンとは根本的に違う点がある。彼女たちは普段の姿の原形を留めず、ガラリと印象を変えている。一方でリズは、魔女になった今でも、生徒や同僚教師が見ればすぐにリズだと分かるのだ。この状況で、公衆の面前で正体不明の青年とキスをするのは手痛い事件である。
「あ、待って。魔女のお姉さん。僕とこちらへ来てよ」
青年はリズの手をギュッと握る。温かくて、柔らかい。リズが抵抗しないのを確認すると、そのまま手を引きホールの出口へ向け歩き出した。
(何者なの、この子?)
マジマジと、目の前の青年を見つめる。青みを帯びた銀髪。顔半分を覆う仮面の奥から、美しい緑色の瞳がリズを見つめている。くっきりとした二重まぶたはどこか愛らしい印象だ。肌は抜けるように白く、キメが細かい。農夫のような簡素な服を着て、頭には獣の耳、そして腰の辺りからはフサフサの尻尾を生やしている。おそらく、童話に登場する狼の仮装をしているのだろう。生徒にしては大人びているものの、職員室で見かけた記憶がないため、教師でもないだろう。リズには彼の正体の見当がつかなかった。
「僕が誰か気になる? そうだなぁ、ワンコ君って、名乗っておこうか。ねぇ、魔女のお姉さん。僕と二人でパーティを抜け出そう!」
芝居で使い古された陳腐な台詞を使って、ワンコ君はリズを誘う。彼の仮装は犬というより狼なのだが――その矛盾を口にする余裕はない。
「えっ、……あ、待って。どういうこと?」
乱れた髪を耳にかけながら、リズは訊ねる。しかしワンコ君の答えはなく、手を握ったまま歩を速める。
心臓が、いつのまにか早鐘を打っている。謎の男・ワンコ君がリズを振り返る。彼の瞳はキラキラとしていて、リズは吸い込まれそうになる。いけないと理性が忠告しているのに、感情はその反対に、彼に強く惹かれていたのだった。
ヤバい。そう思ったときには、リズは体勢を崩していた。ダンスに夢中になるあまり、周りが見えなくなっていた。踊る相手――おそらく生徒――は力強いステップが特徴で、リズは彼に合わせるために身体の動きを大きくせざるを得なかったのだ。しかしそれが失敗だった。楽曲の山場に合わせて後ろに一歩引いたところで、背中に誰かがぶつかったのだ。
(ダンスを真剣にやりすぎて、こんなことになるなんて)
ピカピカに磨き上げられた大理石の床に両手を突いた刹那、一人の男が――否、正確に表現するならば銀髪の狼の仮装をした青年が――リズに覆い被さってきた。リズと狼は、ホールの真ん中で倒れ込み重なり合うような体勢になる。そして男の唇が――不幸にもリズの唇に重なってしまった!
(えっ何これ……公衆の面前で……キス……?)
会場には小さなどよめきが起こる。管弦楽団による演奏が続いているというのに、ダンスを中断し、じっとリズたちに視線を向ける者もいた。
リズも相手の男も、目元を仮面で隠しているから正体は分からない。だが、それにしたって学校中の関係者が見ている中で口付けするだなんて、さすがに気まずくないですか……?
「おっと、ごめん、魔女さん。痛いところはないですか?」
青年はガバッと起き上がると、転倒の衝撃で折れた狼耳を直しながら、リズに手を差し伸べた。何事も起こっていないかのような表情だ。リズに原因があるのは百も承知だが、男の素直な反応を見ると、なんだかイライラしてきてしまう。
「あ、ありません。……すみませんでした。では私はこれで」
リズも立ち上がり、念のためワンピースの裾を払い、とんがり帽子の角度を調節した。照れ隠しである。
(ああ、もう。一刻でも早くここから抜け出したい!)
リズの仮装には、ヴィッキーやイヴリンとは根本的に違う点がある。彼女たちは普段の姿の原形を留めず、ガラリと印象を変えている。一方でリズは、魔女になった今でも、生徒や同僚教師が見ればすぐにリズだと分かるのだ。この状況で、公衆の面前で正体不明の青年とキスをするのは手痛い事件である。
「あ、待って。魔女のお姉さん。僕とこちらへ来てよ」
青年はリズの手をギュッと握る。温かくて、柔らかい。リズが抵抗しないのを確認すると、そのまま手を引きホールの出口へ向け歩き出した。
(何者なの、この子?)
マジマジと、目の前の青年を見つめる。青みを帯びた銀髪。顔半分を覆う仮面の奥から、美しい緑色の瞳がリズを見つめている。くっきりとした二重まぶたはどこか愛らしい印象だ。肌は抜けるように白く、キメが細かい。農夫のような簡素な服を着て、頭には獣の耳、そして腰の辺りからはフサフサの尻尾を生やしている。おそらく、童話に登場する狼の仮装をしているのだろう。生徒にしては大人びているものの、職員室で見かけた記憶がないため、教師でもないだろう。リズには彼の正体の見当がつかなかった。
「僕が誰か気になる? そうだなぁ、ワンコ君って、名乗っておこうか。ねぇ、魔女のお姉さん。僕と二人でパーティを抜け出そう!」
芝居で使い古された陳腐な台詞を使って、ワンコ君はリズを誘う。彼の仮装は犬というより狼なのだが――その矛盾を口にする余裕はない。
「えっ、……あ、待って。どういうこと?」
乱れた髪を耳にかけながら、リズは訊ねる。しかしワンコ君の答えはなく、手を握ったまま歩を速める。
心臓が、いつのまにか早鐘を打っている。謎の男・ワンコ君がリズを振り返る。彼の瞳はキラキラとしていて、リズは吸い込まれそうになる。いけないと理性が忠告しているのに、感情はその反対に、彼に強く惹かれていたのだった。
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