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第二章 淫らで美味しい同居生活
2-5.ワンコ君は料理も上手
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「おかえり、リズ先生! 今日の晩ご飯はシチューだよ」
「ちょ、テッド。声が……大きいわ!」
玄関先で明るく出迎えたテッドを、リズは慌ててドアの内側へと押し込む。職員寮に職員以外を住まわせるのは規則違反だ。もちろん、家庭の事情により申請を出せば認められるのだろうが、リズとテッドは赤の他人である。
「ごめん。リズ先生が帰ってきたのが嬉しくて」
「私の家なのだから、帰ってくるのは当たり前よ……あっ、オタマが危ない……」
「わわわ、ごめん!」
テッドが持つオタマから、いまにもシチューが垂れそうな状態であった。気付いた彼も、慌てた表情でその場を離れ、台所へと駆け込む。リズは自室へ鞄を戻すと、ダイニングへと向かう。テッドはすでに夕食の準備を終えていた。テーブルには、ひよこ豆のサラダ、ジャガイモやニンジンや鶏肉などが大きめに切って入れられたシチュー、そしてバターがたっぷり練り込まれた丸いパンが置かれていた。
「美味しそう! テッド……ありがとう!」
リズは素直な感謝の気持ちを述べる。パンは近くのお店のものだが、それ以外はテッドの手作りだろう。テッドが初めてこの家にやってきた日から、リズの食卓にはこうした豪勢なメニューが並ぶのが常であった。
(テッドが来てくれて、生活は段違いに向上したわよね)
それ以前の、やや固くなったパンと間に合わせのスープやミルクで適当に済ませていた夕食から比べると、雲泥の差である。仕事で疲れ切って、もうお腹もペコペコだ。リズは椅子に腰掛け、フォークを手にする。
「では、いただきます。ねぇ、どうしてテッドは、こんなに私に良くしてくれるの?」
サラダを口へ運びながら、もう何度目か分からない問いを、リズはテッドに投げかけた。ハロウィンパーティでたまたまぶつかって口付けをしただけの相手である。テッドなら、きっともっと可愛くて気の利く女子と恋仲になれるだろう。あまり自分を卑下したくはないが、婚約破棄されて見知らぬ土地で奮闘する女教師だなんて、恋人としての魅力は少ない。
「またその質問? だってリズ先生は、僕の運命のつがいだから」
「……もう、またその答え? テッド、いつもそうやってはぐらかすんだから」
いつもこうだ。リズを選んだ理由をテッドに尋ねても、こうして〝運命のつがい〟だなんていう訳の分からない言葉ではぐらかされる。リズはその先の、もっと具体的な言葉を聞きたいのに――。
「はぐらかしてなんかいないよ。ハロウィンの夜に見つけた僕の運命が、リズ先生なんだ」
向かいに座ったテッドが、口をもぐもぐと動かしながら答える。その表情は、どこまでも無邪気。
(なんの面白みもない私の家に転がり込むくらいだから、何か裏があるはずだと思っていたけれど……)
テッドは無職のようだった。リズが仕事に出ている間に、家事をやってくれている。正直、とても助かっていた。なにせ、逃げるようにこちらの学校へやって来たリズは仕事で忙しく、部屋の隅には荷ほどきしていない本などが積まれていたのだ。鉱物標本だって、一応種類別になんとなく置き場所を分けているが、よくよく探さないと目的のものにたどり着けない。テッドはリズの所持品を丁寧に整理してくれていた。
「そう? もう、口が上手いんだから……あ、髪に葉っぱがついているわ」
リズは笑って、テッドの髪からニンジンの葉と思われる欠片を取る。
「ありがとう、リズ先生。調理中についちゃったんだね。このニンジンの葉、とっても新鮮なんだって。サラダにも入れてみたよ。どう?」
「そうなの? どれどれ……ほんとだ、すごく新鮮!」
テッドについては分からないこと、確認したいこともたくさんあるのだが、リズはいつもこうしてはぐらかされ、結局違う話題で盛り上がる。
(いつかは真意を確かめないといけないけれど、今はいいわよね)
テッドが待つ家はリズの癒やしだった。いつかは真意と向き合う日が来るのだろうが、それまではこのささやかな幸せを守りたいと、リズは思っている。
「ちょ、テッド。声が……大きいわ!」
玄関先で明るく出迎えたテッドを、リズは慌ててドアの内側へと押し込む。職員寮に職員以外を住まわせるのは規則違反だ。もちろん、家庭の事情により申請を出せば認められるのだろうが、リズとテッドは赤の他人である。
「ごめん。リズ先生が帰ってきたのが嬉しくて」
「私の家なのだから、帰ってくるのは当たり前よ……あっ、オタマが危ない……」
「わわわ、ごめん!」
テッドが持つオタマから、いまにもシチューが垂れそうな状態であった。気付いた彼も、慌てた表情でその場を離れ、台所へと駆け込む。リズは自室へ鞄を戻すと、ダイニングへと向かう。テッドはすでに夕食の準備を終えていた。テーブルには、ひよこ豆のサラダ、ジャガイモやニンジンや鶏肉などが大きめに切って入れられたシチュー、そしてバターがたっぷり練り込まれた丸いパンが置かれていた。
「美味しそう! テッド……ありがとう!」
リズは素直な感謝の気持ちを述べる。パンは近くのお店のものだが、それ以外はテッドの手作りだろう。テッドが初めてこの家にやってきた日から、リズの食卓にはこうした豪勢なメニューが並ぶのが常であった。
(テッドが来てくれて、生活は段違いに向上したわよね)
それ以前の、やや固くなったパンと間に合わせのスープやミルクで適当に済ませていた夕食から比べると、雲泥の差である。仕事で疲れ切って、もうお腹もペコペコだ。リズは椅子に腰掛け、フォークを手にする。
「では、いただきます。ねぇ、どうしてテッドは、こんなに私に良くしてくれるの?」
サラダを口へ運びながら、もう何度目か分からない問いを、リズはテッドに投げかけた。ハロウィンパーティでたまたまぶつかって口付けをしただけの相手である。テッドなら、きっともっと可愛くて気の利く女子と恋仲になれるだろう。あまり自分を卑下したくはないが、婚約破棄されて見知らぬ土地で奮闘する女教師だなんて、恋人としての魅力は少ない。
「またその質問? だってリズ先生は、僕の運命のつがいだから」
「……もう、またその答え? テッド、いつもそうやってはぐらかすんだから」
いつもこうだ。リズを選んだ理由をテッドに尋ねても、こうして〝運命のつがい〟だなんていう訳の分からない言葉ではぐらかされる。リズはその先の、もっと具体的な言葉を聞きたいのに――。
「はぐらかしてなんかいないよ。ハロウィンの夜に見つけた僕の運命が、リズ先生なんだ」
向かいに座ったテッドが、口をもぐもぐと動かしながら答える。その表情は、どこまでも無邪気。
(なんの面白みもない私の家に転がり込むくらいだから、何か裏があるはずだと思っていたけれど……)
テッドは無職のようだった。リズが仕事に出ている間に、家事をやってくれている。正直、とても助かっていた。なにせ、逃げるようにこちらの学校へやって来たリズは仕事で忙しく、部屋の隅には荷ほどきしていない本などが積まれていたのだ。鉱物標本だって、一応種類別になんとなく置き場所を分けているが、よくよく探さないと目的のものにたどり着けない。テッドはリズの所持品を丁寧に整理してくれていた。
「そう? もう、口が上手いんだから……あ、髪に葉っぱがついているわ」
リズは笑って、テッドの髪からニンジンの葉と思われる欠片を取る。
「ありがとう、リズ先生。調理中についちゃったんだね。このニンジンの葉、とっても新鮮なんだって。サラダにも入れてみたよ。どう?」
「そうなの? どれどれ……ほんとだ、すごく新鮮!」
テッドについては分からないこと、確認したいこともたくさんあるのだが、リズはいつもこうしてはぐらかされ、結局違う話題で盛り上がる。
(いつかは真意を確かめないといけないけれど、今はいいわよね)
テッドが待つ家はリズの癒やしだった。いつかは真意と向き合う日が来るのだろうが、それまではこのささやかな幸せを守りたいと、リズは思っている。
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