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第二章 淫らで美味しい同居生活

2-4.同僚たちもクリスマス気分

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「ねぇねぇ、今年のクリスマス、イヴリンは息子くんに何をあげるの?」
「我が家は木製の電車のおもちゃかなぁ。旦那のおばあちゃんがね、駅と線路のセットを買ってくれるって言っているから、それに相乗りしようと思って」
「おばあちゃん、太っ腹じゃん」
「そうなの、孫には甘いのよ。……でも正直、助かってるわ。家のローンもあるからね」
「あーっ。それ、厳しい現実!」
「そうそう、我が家の場合、旦那の窯が高く付いたのよ。特注だから」
「陶芸家の妻業も大変ね、イヴリン」

 昼食をとりながら会話に花を咲かせるヴィッキーとイヴリンを横目に、リズは小テストの採点をしていた。右手にはペン、左手にはサンドイッチ。この昼食はワンコ君ことテッドの手作りである。業務の都合もあるから手軽に食べられるメニューが良いと希望したら、毎日少しずつ具の違うサンドイッチを作ってくれるようになったのだ。本日の具材はカリカリのベーコンと新鮮なレタスに瑞々しいトマトで、もっとも定番でありながら正統派の美味しさがある。

「リズはクリスマスは誰と過ごすの?」
「……えっ?」

 ヴィッキーからの問いに驚いて、リズはサンドイッチを落としそうになった。イヴリンの家庭事情についての流れから、まさか自分に話題が振られるとは。

 着任してから二ヶ月ちょっと。リズはすっかり同僚二人と仲良くなり、愛称も「リズ先生」から単に「リズ」と呼ばれるようになっていた。

(クリスマスは……たぶんテッドが居着いたままだけれど……)

 ハロウィンの夜に迎え入れて以来、テッドはまるで自分が元からの住人であるかのように自然に、寮で暮らしているのだった。その恩恵は、リズも存分に受けていた。リズは元来、収集癖がある。昔から石や砂などの自然の神秘に惹かれる性質があり、出先から持ち帰ることもしばしばだ(もちろん、持ち出し禁止区域ではそんな行為はしない)。部屋の中にはいつの間にかそういった類いの標本が溢れ、傍目から見ると散らかった状態である。それらを上手く整理整頓してくれるテッドの存在は、リズにはありがたかった。

「……もしかして、恋人ができたんじゃない? 当たってる?」

 イヴリンも痛いところを突いてくる。このコンビの前には、隠し事ができそうもない。

「恋人っていうわけでもないけれど……でも、クリスマスを一緒に過ごす人は……できた、かも?」
「わわわ! おめでとう! どんな人なの? 教えて!」
「リズを射止めたのはどんな男? 聞かせてくれや!」

 イヴリンとヴィッキーは前のめりで矢継ぎ早に質問を投げかける。

「やっ、で、でも、まだ恋人とも言えないかもしれないし……秘密で……」

 採点の手を完全に止め、リズはその場を収めるのに必死だ。

(でも、こんな話が出来るようになっただけ、一歩前進かもしれないわ)

 作り笑顔の裏側で、リズはそんな風に考えるのだった。
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