27 / 39
第三章 二人のクリスマス、そして
3-2.テッドのアイデア
しおりを挟む
さて、クリスマスパーティが間近に迫った十二月のある日のこと。
「リズ先生、最近、なんだか落ち込んでない?」
「……分かる?」
テッドが作った根菜のポトフを口に運びながら、リズは溜め息を吐いた。指摘の通り、最近は暗い表情をしていることが多い。その理由はもちろん、学校のことである。
「ごめんなさいね、クリスマスの企画がなかなか進まなくて」
「クラスのこと?」
「ええ、その通り。ほら、栗が手に入らなくて、最初の企画が頓挫したでしょう? 代替案が上手くいっていないのよ。ハンドベルの演奏をしようということにしたのだけれど、演奏が一番上手な生徒が病気で休んでしまって。本番までは、もう何日もないのに。他の生徒たちも進路選択があって忙しいし……多難だわ」
時間をかけて煮込まれた人参とジャガイモには、テッドの愛情が感じられる。今夜はパンもあった。なんと彼がこの家で焼いたものらしい。一人暮らしを始めてから、リズはずっとパンを専門店で調達した。焼きたての手作りパンが食べられるなんて感激である。
こうしてテッドが毎日、夕食を用意して待っていてくれるから、リズは仕事に専念できるのだ。クラスの企画で悩みを抱えている時期だからこそ、今の状況はありがたかった。
「クリスマスツリーは、もう飾ったの?」
「ツリー? たしか講堂への搬入は終わっているはずよ。講堂の真ん中への設置と飾り付けは、パーティ前日のはず」
「それなら、僕に良い考えがあるよ」
「テッド?」
リズは目を瞬《しばたた》かせた。良い考え? それは一体、どんなものなのだろう。テッドは得意げに口角を上げて、リズを見ている。まるで人なつこい犬か狼のように。初対面の夜から、彼の印象はずっと変わらなかった。
「僕が作ったお菓子のオーナメントを、そのツリーに飾ったら? 人や動物の形のクッキーをそのまま吊してもいいし、小さな袋に入れて吊してもいい。中身が見えない方が、プレゼントっぽくなって楽しいかな?」
手を組み歌うように楽しげに、テッドは提案する。彼はいつだって明るい。その表情に、リズは日々癒やされていた。
「すごくいいアイデアだわ! ……ただテッド、さすがにあなたにお菓子を作らせるわけにはいかない。家事をしてもらっているのだから、これ以上甘えられないもの。私がクラスのみんなと作るから、教えてちょうだい!」
「リズ先生? ……料理、できるの?」
「そ、それは……」
身を乗り出したリズに対して、テッドは冷静だった。
「全部は無理でしょ? 一番簡単にできる、型抜きクッキーの作り方をレクチャーするね。家庭科室の設備を借りれば、数時間で作れるはずだから。もう少し凝ったお菓子は、僕が作って袋に詰めておくよ。安心して」
「ありがとう。助かります」
頓挫しかけたクリスマス企画に、ようやく光明が差したのだ。ウンウンと、リズは首を縦に振ってテッドの案を受け入れる。彼にはいつも感謝しきりだった。なぜこんなによく出来た男が、自分と同居しているのだろう――リズには未だに疑問であった。
「それより、リズ先生……」
テッドはリズを抱き寄せ、額についばむような口付けをした。温かい唇が頬に触れると、自然に胸は高鳴ってしまう。
「ちょ、駄目よ、テッド」
「つれないなぁ」
向かってくるテッドを押しのける。彼は残念そうな表情でリズを見た。
申し訳ないが、リズは今、彼を受け入れたい気持ちにはどうしてもなれなかった。
(ようやくクリスマスの見通しが立ったわ。これならきっと……やれる!)
リズは拳を握り、唇を噛んで決意を新たにしたのだった。
「リズ先生、最近、なんだか落ち込んでない?」
「……分かる?」
テッドが作った根菜のポトフを口に運びながら、リズは溜め息を吐いた。指摘の通り、最近は暗い表情をしていることが多い。その理由はもちろん、学校のことである。
「ごめんなさいね、クリスマスの企画がなかなか進まなくて」
「クラスのこと?」
「ええ、その通り。ほら、栗が手に入らなくて、最初の企画が頓挫したでしょう? 代替案が上手くいっていないのよ。ハンドベルの演奏をしようということにしたのだけれど、演奏が一番上手な生徒が病気で休んでしまって。本番までは、もう何日もないのに。他の生徒たちも進路選択があって忙しいし……多難だわ」
時間をかけて煮込まれた人参とジャガイモには、テッドの愛情が感じられる。今夜はパンもあった。なんと彼がこの家で焼いたものらしい。一人暮らしを始めてから、リズはずっとパンを専門店で調達した。焼きたての手作りパンが食べられるなんて感激である。
こうしてテッドが毎日、夕食を用意して待っていてくれるから、リズは仕事に専念できるのだ。クラスの企画で悩みを抱えている時期だからこそ、今の状況はありがたかった。
「クリスマスツリーは、もう飾ったの?」
「ツリー? たしか講堂への搬入は終わっているはずよ。講堂の真ん中への設置と飾り付けは、パーティ前日のはず」
「それなら、僕に良い考えがあるよ」
「テッド?」
リズは目を瞬《しばたた》かせた。良い考え? それは一体、どんなものなのだろう。テッドは得意げに口角を上げて、リズを見ている。まるで人なつこい犬か狼のように。初対面の夜から、彼の印象はずっと変わらなかった。
「僕が作ったお菓子のオーナメントを、そのツリーに飾ったら? 人や動物の形のクッキーをそのまま吊してもいいし、小さな袋に入れて吊してもいい。中身が見えない方が、プレゼントっぽくなって楽しいかな?」
手を組み歌うように楽しげに、テッドは提案する。彼はいつだって明るい。その表情に、リズは日々癒やされていた。
「すごくいいアイデアだわ! ……ただテッド、さすがにあなたにお菓子を作らせるわけにはいかない。家事をしてもらっているのだから、これ以上甘えられないもの。私がクラスのみんなと作るから、教えてちょうだい!」
「リズ先生? ……料理、できるの?」
「そ、それは……」
身を乗り出したリズに対して、テッドは冷静だった。
「全部は無理でしょ? 一番簡単にできる、型抜きクッキーの作り方をレクチャーするね。家庭科室の設備を借りれば、数時間で作れるはずだから。もう少し凝ったお菓子は、僕が作って袋に詰めておくよ。安心して」
「ありがとう。助かります」
頓挫しかけたクリスマス企画に、ようやく光明が差したのだ。ウンウンと、リズは首を縦に振ってテッドの案を受け入れる。彼にはいつも感謝しきりだった。なぜこんなによく出来た男が、自分と同居しているのだろう――リズには未だに疑問であった。
「それより、リズ先生……」
テッドはリズを抱き寄せ、額についばむような口付けをした。温かい唇が頬に触れると、自然に胸は高鳴ってしまう。
「ちょ、駄目よ、テッド」
「つれないなぁ」
向かってくるテッドを押しのける。彼は残念そうな表情でリズを見た。
申し訳ないが、リズは今、彼を受け入れたい気持ちにはどうしてもなれなかった。
(ようやくクリスマスの見通しが立ったわ。これならきっと……やれる!)
リズは拳を握り、唇を噛んで決意を新たにしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。
春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―
甘塩ます☆
恋愛
「君を金貨三十枚で買ったのは、安すぎたかな」
酒浸りの父と病弱な母に売られた少女・ユナを救ったのは、国中から「放蕩王子」と蔑まれる第二王子・エルフレードだった。
「虫除けの婚約者になってほしい」というエルの言葉を受け、彼の別邸で暮らすことになったユナ。しかし、彼女には無自覚の天才調合師だった。
ユナがその才能を現すたび、エルの瞳は暗く濁り、独占欲を剥き出しにしていく。
「誰にも見せないで。君の価値に、世界が気づいてしまうから」
これは、あまりに純粋な天才少女と、彼女を救うふりをして世界から隠し、自分の檻に閉じ込めようとする「猛禽」な王子の物語。
フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
羽村 美海
恋愛
【※第17回らぶドロップス恋愛小説コンテスト最終選考の結果が出たので再公開しました。改稿済みですが、キャラ名を一部変更しただけで内容に大きな変更はありません🙇♀️】
思い入れのあるレストランで婚約者に婚約破棄された挙げ句、式場のキャンセル料まで支払う羽目になった穂乃香。
帰りに立ち寄ったバーでしつこいナンパ男を撃退しようとカクテルをぶちまけるが、助けに入ってきた男の優れた見目に見蕩れてしまった穂乃香はそのまま意識を手放してしまう。
目を覚ますと、見目の優れた男とホテルにいるというテンプレ展開が待ち受けていたばかりか、紳士だとばかり思っていた男からの予期せぬ変態発言により思いもよらない事態に……!
数ヶ月後、心機一転転職した穂乃香は、どういうわけか社長の第二秘書に抜擢される。
驚きを隠せない穂乃香の前に社長として現れたのは、なんと一夜を共にした、あの変態男だった。
しかも、穂乃香の醸し出す香りに一目惚れならぬ〝一嗅ぎ惚れ〟をしたという社長から、いきなりプロポーズされて、〝業務の一環としてのビジネス婚〟に仕方なく応じたはずが……、驚くほどの誠実さと優しさで頑なだった心を蕩かされ、甘い美声と香りに惑わされ、時折みせるギャップと強引さで熱く激しく翻弄されてーー
嗅覚に優れた紳士な俺様社長と男性不信な生真面目秘書の遺伝子レベルで惹かれ合う極上のラブロマンス!
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜
*竹野内奏(タケノウチカナタ)32歳・働きたい企業ランキングトップを独占する大手総合電機メーカー「竹野内グループ」の社長・海外帰りの超絶ハイスペックなイケメン御曹司・優れた嗅覚の持ち主
*葛城穂乃香(カツラギホノカ)27歳・男性不信の生真面目秘書・過去のトラウマから地味な装いを徹底している
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません
.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚
✧エブリスタ様にて初公開23.1.9✧
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる