相棒はかぶと虫

文月 青

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7月 3

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今日もかぶとは部屋の窓を開け放して空を眺めている。車の行き交う音、蝉の鳴き声、何かのサイレン。夏の暑さに混じっていろんな音が室内に届く。おかげであれだけ不快だった汗をかくのにも慣れた。

夏といえば俺の冬眠の話をしたとき、かぶとが冬じゃないんだから「夏眠かみん」でもいいんださと言っていた。成虫になる前の蛹だから「仮眠」に被せたらしいが、どちらにしても眠っていることには変わりない。

「どうして眠りたくなったんださ」

俺が冬眠という名の引きこもり生活を始めたのはちょうど二年前。高校生になって最初の夏休みが終わって間もない頃だった。それまではたぶんどこにでもいる元気な男の子だったと自分でも思う。

理由は一つではなく、いろんなことが重なった故のことで、仲が良かった友達と彼女が俺に隠れてつきあっていたとか、学校を休む回数が増えつつあった俺を訪ねてきた先生が、親の前では待っているからと親身に励ましてくれていたのに、席を外した途端、

「手間をかけさせて。すねかじりのくせにいい身分だな」

そんな台詞を吐き捨てて裏の顔を見せたとかあるけれど、決定打はやはりその夏祖母ちゃんが亡くなったことだ。

「葉は祖母ちゃんが好きだったんださ?」

ベッドの上から降りない俺の隣に、かぶとが窓辺からスキップしながら飛んでくる。どうでもいいけれど肯定も否定も全部「ださ」なんだな。

「味方だったからね」

俺の二歳上の兄さんは現在某有名大学に通っている。小学生のときから優秀で両親と先生の期待を一身に背負い、それにずっと応えてきた人だ。そのせいで可もなく不可もなくの俺は、常に周囲から比べられる対象だった。両親も例外ではなく、何故兄と同じようにできないのか、親を落胆させるようなことばかりするのかと、もう俺の顔を見るのもごめんだと言わんばかりだった。

でも祖母ちゃんは違った。しかもどちらか一方ではなく、兄さんの惜しみない努力を誉め、俺の素直な性格を愛でた。

「人にはみんな良いところも悪いところもある」

祖母ちゃんの持論だった。

俺が件の理由で学校を度々欠席するようになった七月、祖母ちゃんが突然帰らぬ人となった。前日まで祖父ちゃんといつも通り畑仕事をしていたのに、救急車で病院に運ばれたときにはもう息を引き取っていた。元気だった祖母ちゃんの変わり果てた姿に、家族も親しかった近所の人達も呆然とするしかなかった。

お葬式が済み、初七日を過ぎても、俺は祖母ちゃんの死をぼんやりとしか捉えられなかった。けれど大切な人がいきなり消えてしまった現実は、じわじわと俺の内側を蝕んでいた。

そういえば泣いてないな。

何故か悲しむこともできずにいる自分に気づいたときには、夏休みはとっくに終わり、学校も何もかもどうでもよくなっていた。

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