相棒はかぶと虫

文月 青

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9月 1

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季節の移り変わりは感じないけれど、暦の上では秋の気配が漂う頃になった。

「待ってるんださ」

その言葉を残してかぶとが姿を消してから、どれだけの昼と夜を数えただろう。とにかく一日がやけに長くておまけに退屈だ。そんなふうに思うのは久しぶりで、かぶとと過ごした時間が自分にとっていかに大きなものだったか実感する。

まるで逃げ出したかぶと虫が戻ってくるのを待つように、部屋の窓を開け放している自分。暑かろうと変な歌を歌われようと構わない。

だから帰ってきて、かぶと。



仏間のかぶと虫の元を訪れたのは、九月も半ばを過ぎてからだった。中途半端に手を出すくらいなら、関わってはいけないとかぶとに諭されてから、足が遠のいたままになっていた。

飼育かごは同じだったが、餌はさすがにスイカからきゅうりに変わっていた。少しコバエが飛んでいるので、土も汚れているのかもしれない。動かずにじっとこちらを見ているかぶと虫が、何だか助けを求めているかぶとのような気がして、俺はとっさに飼育かごを持ち上げていた。

階段の下に辿り着いたところで足を止める。部屋に連れていくのはいいけれど、その後どうすればいいのか分からない。

「かぶと虫の餌が無くなっても、誰かがいたら放置するんださ?」

突き刺さっていた一言に、簡単に行く末を左右されてしまう、手の中のかぶと虫の存在を思う。

俺はゆっくり踵を返した。もう一度仏間に戻り、畑で一汗かいているであろう祖父ちゃんを座って待つ。

仏壇に目をやれば笑顔の祖母ちゃん。何故だか俺は遺影に向かって力強く頷いていた。

「俺がかぶと虫の世話をしてもいい?」

畑から帰ってきた祖父ちゃんは、相変わらず酒屋のタオルを首から下げていた。汗を拭うというよりは、乱暴なほどごしごし顔を擦っている。

「好きにしろ」

自分の面倒もろくにみれないお前にできるのかと、突っ込まれるのを予想していたのに、あっさりと許可が下りた。

「いいの?」

驚いて身を乗り出しかけた俺に、強面らしからぬ優しい声で笑う。

「おかしな奴だな。駄目だと答えた方がよかったのか?」

俺は違うと言わんばかりに、首をぶんぶん横に振った。

「だったらやってみればいい」

「ありがとう、祖父ちゃん」

今度こそしっかり飼育かごを持って立ち上がる。

「それとな」

仏間を出ようとした俺を、いくらか低い声で呼び止めた祖父ちゃんは、

「いや、しっかりやれ」

どこか物言いたげな雰囲気ながら、俺を励ましてくれたのだった。



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