相棒はかぶと虫

文月 青

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8月 5

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じりじりと焼けるような暑さが緩まぬ中お盆を迎えた。階下は訪れる親戚や近所の人で賑わっている。父さんや母さんはお客さんをもてなすので忙しい。兄さんもきちんと挨拶をしていることだろう。祖父ちゃんは誰かと祖母ちゃんの話に花を咲かせているに違いない。

俺は仏様に手を合わせもせず、お墓参りもせず、かぶと虫の様子も見にいかず、ただ自分の部屋で時間をやり過ごしていた。ベッドの上では相変わらず夏バテ気味のかぶとが、仰向けになって天井をみつめている。四肢も伸ばしたままで動く気配がない。

「大丈夫なのか?」

聞こえているのかいないのか、声をかけても返事はない。怒っているのかとも思ったが、かぶとはそれならそうと言ってくれるような気がする。だから俺はかぶとから話しかけてくれるまで、静かに待つことにした。

「祖母ちゃんのお葬式なんださ」

やがてかぶとはぽつりと呟いた。視線は天井から外さない。

「泣いたり、肩を落としたり、お悔やみの言葉がやり取りされるなか、何の感情もこもらない顔で、ただ祖母ちゃんの遺影を凝視している葉を見たんださ」

哀しみも淋しさも悔しさも、何一つ映さない虚ろな双眸。ちゃんと指示通りの行動を取っているけれど、たぶん自分がどこで何をしているか、本人は全く分かっていないだろう。そのくらい心が体を離れていた。

この子は大丈夫だろうか。心配していた矢先、部屋に引きこもって出てこなくなったという噂を聞いた。何もできないうちに、二年の時が過ぎてしまった。

かぶとはそこでゆっくり俺に視線を移した。

「葉は蛹だと言ったこと、覚えてるんださ?」

「うん」

そんなふうに例えられたのは初めてだったから。

「冬眠したことで、確かに周囲の人には迷惑をかけたかもしれないんださ。でも葉はちゃんとそれを分かっていたんださ。原因はともかく、冬眠を誰かのせいにはしていなかったんださ」

弱々しいながらも、しっかりと目を合わせて微笑むかぶと。

「だから大丈夫だと思ったんださ。きっと探しあぐねているものを見つけたら、自分で目を覚まして起きてくるんださ」

「かぶと…」

投げ出されていた腕が伸ばされたので、俺は応えるようにぎゅっと手を握った。冬眠していた俺よりも、小さくて柔らかいかぶとの手。

「待ってるんださ」

焦らなくていい。まだそのままでいい。そう言われているような気がして、俺はただ何度も何度も頷いた。かぶとは安心したのか、眠るように目を閉じる。

ーーこの日を最後に、かぶとが俺の部屋を訪れることはなかった。


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