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11月 4
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あと一週間ほどで十一月も終わるという日。その日は気温は低かったけれど、青空が見えて室内はぽかぽかと心地よかった。かぶと虫は午前中珍しく飼育ケースの中をゆっくり歩いていた。時々足を止めてじっとこちらを眺めるので、俺も視線を合わせては意味もなく笑顔になる。
また元気になってくれた。もう少し一緒にいられる。そう思った。
夜になってかぶと虫はぴたっと動きを止めた。どれだけ部屋を暖めても、ヒーターの真ん前に飼育かごを持っていっても、同じ場所で同じ姿のまま。それでも角を突けば辛うじて振ったのに、ふと気づいたらそれまで伸びていた足がきゅっと縮んでいた。まるで蹲るように。
「かぶと?」
飼育かごを揺らしたら右に左に揺れるかぶと虫。ころんとひっくり返った体は苦しそうにもがくこともない。手に取ってそっと角を突いても返事代わりに動かすこともない。
「祖父ちゃん!」
俺は両手でかぶと虫を包むように持ち、自分の部屋を出て仏間で寛いでいる祖父ちゃんの元に走った。
「かぶとが動かない!」
差し出した手からかぶと虫を掴んだ祖父ちゃんは、自分の手の平の上でであちこち突いたり、逆さまにして様子を窺った後、首を横に振りながら俺にかぶと虫を返した。
「天寿を全うしたんだろう」
「そんな」
こんなあっけなく、何事もなかったように逝ってしまうの? 昼間は俺の前で歩いていたのに?
「葉」
俺が突然階下に降りたからか、兄さんが飼育かごを手に追いかけてきてくれた。俺の手からかごの中にかぶと虫を戻す。さっきまでと全然変わらなく見えるのに、もうこの世にいないなんて。
「かぶとが、俺のこと、蛹だって」
呆然と呟く俺の背後に久しぶりに聞く両親の声。
「何の騒ぎだ?」
父さんが仏間の戸を大きく開いて入ってきた。続く母さんもかぶと虫を見つけるなり眉を顰める。
「何これ? 死んでるんじゃないの?」
「ようやく出てきたと思ったら、かぶと虫ごときで」
俺はぐっと唇を噛んだ。自分のことはともかく、かぶとが悪く言われているような気がして悔しかった。そんな俺の両肩に祖父ちゃんと兄さんの手が置かれる。
「そういや祖母ちゃんが亡くなる前、葉は蛹だと言っておったな」
強い口調で祖父ちゃんが話し出した。
「一人で必死になってもがいているんだから、出てきたときに迎えてやる大人がいなくてどうするってな」
そして父さんと母さんを厳しく睨みつける。そのとき俺の目からぽろっと雫が落ちた。祖母ちゃんが俺の前からいなくなって二年。
「ごめんなさい」
祖母ちゃん、かぶと、祖父ちゃん、兄さん、父さん、母さん。もう何に対してなのか分からない。でも俺はただ謝って泣き続けた。
また元気になってくれた。もう少し一緒にいられる。そう思った。
夜になってかぶと虫はぴたっと動きを止めた。どれだけ部屋を暖めても、ヒーターの真ん前に飼育かごを持っていっても、同じ場所で同じ姿のまま。それでも角を突けば辛うじて振ったのに、ふと気づいたらそれまで伸びていた足がきゅっと縮んでいた。まるで蹲るように。
「かぶと?」
飼育かごを揺らしたら右に左に揺れるかぶと虫。ころんとひっくり返った体は苦しそうにもがくこともない。手に取ってそっと角を突いても返事代わりに動かすこともない。
「祖父ちゃん!」
俺は両手でかぶと虫を包むように持ち、自分の部屋を出て仏間で寛いでいる祖父ちゃんの元に走った。
「かぶとが動かない!」
差し出した手からかぶと虫を掴んだ祖父ちゃんは、自分の手の平の上でであちこち突いたり、逆さまにして様子を窺った後、首を横に振りながら俺にかぶと虫を返した。
「天寿を全うしたんだろう」
「そんな」
こんなあっけなく、何事もなかったように逝ってしまうの? 昼間は俺の前で歩いていたのに?
「葉」
俺が突然階下に降りたからか、兄さんが飼育かごを手に追いかけてきてくれた。俺の手からかごの中にかぶと虫を戻す。さっきまでと全然変わらなく見えるのに、もうこの世にいないなんて。
「かぶとが、俺のこと、蛹だって」
呆然と呟く俺の背後に久しぶりに聞く両親の声。
「何の騒ぎだ?」
父さんが仏間の戸を大きく開いて入ってきた。続く母さんもかぶと虫を見つけるなり眉を顰める。
「何これ? 死んでるんじゃないの?」
「ようやく出てきたと思ったら、かぶと虫ごときで」
俺はぐっと唇を噛んだ。自分のことはともかく、かぶとが悪く言われているような気がして悔しかった。そんな俺の両肩に祖父ちゃんと兄さんの手が置かれる。
「そういや祖母ちゃんが亡くなる前、葉は蛹だと言っておったな」
強い口調で祖父ちゃんが話し出した。
「一人で必死になってもがいているんだから、出てきたときに迎えてやる大人がいなくてどうするってな」
そして父さんと母さんを厳しく睨みつける。そのとき俺の目からぽろっと雫が落ちた。祖母ちゃんが俺の前からいなくなって二年。
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