相棒はかぶと虫

文月 青

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11月 6

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「葉にこんな才能があったなんて」

キッチンでお昼ご飯を食べながら、かぶとが何度も美味しい! 最高! と繰り返すものだから、ここには彼女と祖父ちゃんと俺しかいないのに、何だか目出し帽を被りたい気分になった。しかも今日は昔ながらのオムライスに簡単なサラダとスープ。そんなに喜ばれるほどのものではない。

「祖父ちゃんの野菜も美味しい。うちのと全然違う。野菜ってちゃんと甘みがあるんだね」

かぶとは祖父ちゃんの野菜も大絶賛。これには俺も祖父ちゃんもにんまり。

「勿体ないよね。どこかで宣伝できればいいのに」

なるほど。そこまでは考えていなかった。とりあえず兄さんと酒屋のおじさんは知っているけれど。

制服姿でがつがつご飯を食べるかぶとは、とても花も恥じらう女子高生には見えない。結局今日は学校を休むと言ってうちに居座っている。大丈夫なのか? しかもかぶとはうちの祖母ちゃんの友達のお孫さんなのだそうだ。どうりで親戚の中に心当たりがなかった筈だ。

かぶと虫と名乗ったという俺の話に引っかかりを覚えた祖父ちゃんが、祖母ちゃんの知り合いを洗い直してくれたらしい。そうしたら三回忌に来てくれた人の中にいたというのだ。「兜」という名字の祖母ちゃんの幼馴染の女性が。下の名前で呼び合っていたから、すぐには誰だか分らなかったそうだ。

まさか本当に「かぶと」だったとは。アニメの主人公みたいで正直俺も驚きを隠せない(マジンガーZだったっけ?)。聞けばかぶとの家から我が家までは、電車を乗り継いで黙って二時間。いくら夏休みだったとはいえ、頻繁に通ってくるのは大変だったに違いない。うちの家族ともなるべく顔を合わせないようにしてくれたみたいで、それでも鉢合わせたときはこんにちはと普通に挨拶していたらしい。おそらく兄さんの友達とでも思われていたのだろう。

そういえば俺の部屋のつっかえ棒をどうやって外したのか訊ねてみたら、

「普通に襖は開いたよ。たぶんつっかえ棒の役目をしていなかったんじゃない?」

そんな状態で閉じこもっている気でいたとは、自分が凄く恥ずかしい。おまけにかぶとだって企業秘密なんて言っていたくせに。

とはいえ、今日も俺を心配してわざわざ訪ねてきてくれたというから、本気で怒ったりはしないけれど。かぶと虫が亡くなって元気もなくなった俺のために、祖父ちゃんがこっそり連絡を入れてくれたのだそうだ。

「まさか昨日の今日で飛んでくるとは思わなかったがな。まさしくかぶと虫だ」

祖父ちゃんは苦笑い。


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