相棒はかぶと虫

文月 青

文字の大きさ
22 / 28

12月 1

しおりを挟む
十二月最初の日曜日。我が家のキッチンには総勢六名の人間が集っている。俺、祖父ちゃん、兄さん、酒屋のおじさん、かぶと、そして何とうちの祖母ちゃんの幼馴染だというかぶとの祖母ちゃん。かぶとの祖母ちゃんは小さくてにこにこした人で、元気だったうちの祖母ちゃんとは学校時代もいいコンビだったそうだ。

「お前らは邪魔だ。買物にでも行け」

仕事が休みのうちの両親は、そう言って祖父ちゃんがさっさと追い出した。それを見て笑いを噛み殺す兄さん。祖父ちゃん格好いいと惚れ惚れする俺。

ちなみに今日この顔ぶれが揃う発端となったのは、酒屋のおじさんが持ってきた商店街のイベントだ。郊外にできた複合型の大型スーパーのおかげで、うちの商店街も漏れなくシャッター街になりつつある。そこでクリスマスに各商店の特色を生かした出店を出して、商店街の活性化を目指すことになったらしい。

「跡取りのいない店もあるから、協力できる人はどんどん巻き込もうってことになってさ。で、祖父ちゃんと葉ちゃんの出番なわけよ」

俺と祖父ちゃんは顔を見合わせて首を傾げる。兄さんとかぶとは何となく予想がついたのか、うんうんと頷きながら酒屋のおじさんの話の続きを待っている。

「祖父ちゃんが育てたこの土地の野菜と、うちの店にある酒を使って、葉ちゃんにクリスマスの料理を作って欲しいんだよ」

俺は驚いて頭と両手を同時に振った。

「無理無理! そもそも人様に出せるような大そうな物作れない」

「いやぁ、これもの凄く美味しいんださ」

のんびりした声が割って入る。お昼ご飯を味わっていたかぶとの祖母ちゃんだ。そうそうこの「ださ」の言い回しは、かぶとの祖母ちゃんの昔の口癖なんだそうだ。普段は使わないけれど、ふと気を抜くとぽろっと出てしまうんだとか。

「かぶと虫説に信憑性を持たせようと思って使ってみたんだよね」

にっと笑うかぶと。まんまと騙されたよ。かぶと虫は本当にかぶとなんじゃないかと錯覚するぐらい。だから人間でよかった。口を尖らせてぼやいたら、かぶとは泣きそうな顔で俺に抱き着いてきたので、意味もなくどきどきしてしまった。

「このメニューでもいけるんじゃね?」

兄さんがテーブルを指す。今日は残り物の肉や野菜を包んで揚げた春巻き、人参のスープ、かぼちゃのサラダ、冷凍のパイシートをシチューに被せただけのポットシチューもどき。

「でもお酒は殆ど使ってないし」

「葉は未成年だし、子供のいる家庭も対象にするなら、むしろお酒を使うんじゃなくて、お酒に合うと銘打った方が客層は広がるぞ」

兄さんの台詞に一同おぉと賛辞を送る。肝心の本人が置いてきぼりになっているんだけれど、俺が作ることはもう決定事項なのか?




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

処理中です...