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12月 1
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十二月最初の日曜日。我が家のキッチンには総勢六名の人間が集っている。俺、祖父ちゃん、兄さん、酒屋のおじさん、かぶと、そして何とうちの祖母ちゃんの幼馴染だというかぶとの祖母ちゃん。かぶとの祖母ちゃんは小さくてにこにこした人で、元気だったうちの祖母ちゃんとは学校時代もいいコンビだったそうだ。
「お前らは邪魔だ。買物にでも行け」
仕事が休みのうちの両親は、そう言って祖父ちゃんがさっさと追い出した。それを見て笑いを噛み殺す兄さん。祖父ちゃん格好いいと惚れ惚れする俺。
ちなみに今日この顔ぶれが揃う発端となったのは、酒屋のおじさんが持ってきた商店街のイベントだ。郊外にできた複合型の大型スーパーのおかげで、うちの商店街も漏れなくシャッター街になりつつある。そこでクリスマスに各商店の特色を生かした出店を出して、商店街の活性化を目指すことになったらしい。
「跡取りのいない店もあるから、協力できる人はどんどん巻き込もうってことになってさ。で、祖父ちゃんと葉ちゃんの出番なわけよ」
俺と祖父ちゃんは顔を見合わせて首を傾げる。兄さんとかぶとは何となく予想がついたのか、うんうんと頷きながら酒屋のおじさんの話の続きを待っている。
「祖父ちゃんが育てたこの土地の野菜と、うちの店にある酒を使って、葉ちゃんにクリスマスの料理を作って欲しいんだよ」
俺は驚いて頭と両手を同時に振った。
「無理無理! そもそも人様に出せるような大そうな物作れない」
「いやぁ、これもの凄く美味しいんださ」
のんびりした声が割って入る。お昼ご飯を味わっていたかぶとの祖母ちゃんだ。そうそうこの「ださ」の言い回しは、かぶとの祖母ちゃんの昔の口癖なんだそうだ。普段は使わないけれど、ふと気を抜くとぽろっと出てしまうんだとか。
「かぶと虫説に信憑性を持たせようと思って使ってみたんだよね」
にっと笑うかぶと。まんまと騙されたよ。かぶと虫は本当にかぶとなんじゃないかと錯覚するぐらい。だから人間でよかった。口を尖らせてぼやいたら、かぶとは泣きそうな顔で俺に抱き着いてきたので、意味もなくどきどきしてしまった。
「このメニューでもいけるんじゃね?」
兄さんがテーブルを指す。今日は残り物の肉や野菜を包んで揚げた春巻き、人参のスープ、かぼちゃのサラダ、冷凍のパイシートをシチューに被せただけのポットシチューもどき。
「でもお酒は殆ど使ってないし」
「葉は未成年だし、子供のいる家庭も対象にするなら、むしろお酒を使うんじゃなくて、お酒に合うと銘打った方が客層は広がるぞ」
兄さんの台詞に一同おぉと賛辞を送る。肝心の本人が置いてきぼりになっているんだけれど、俺が作ることはもう決定事項なのか?
「お前らは邪魔だ。買物にでも行け」
仕事が休みのうちの両親は、そう言って祖父ちゃんがさっさと追い出した。それを見て笑いを噛み殺す兄さん。祖父ちゃん格好いいと惚れ惚れする俺。
ちなみに今日この顔ぶれが揃う発端となったのは、酒屋のおじさんが持ってきた商店街のイベントだ。郊外にできた複合型の大型スーパーのおかげで、うちの商店街も漏れなくシャッター街になりつつある。そこでクリスマスに各商店の特色を生かした出店を出して、商店街の活性化を目指すことになったらしい。
「跡取りのいない店もあるから、協力できる人はどんどん巻き込もうってことになってさ。で、祖父ちゃんと葉ちゃんの出番なわけよ」
俺と祖父ちゃんは顔を見合わせて首を傾げる。兄さんとかぶとは何となく予想がついたのか、うんうんと頷きながら酒屋のおじさんの話の続きを待っている。
「祖父ちゃんが育てたこの土地の野菜と、うちの店にある酒を使って、葉ちゃんにクリスマスの料理を作って欲しいんだよ」
俺は驚いて頭と両手を同時に振った。
「無理無理! そもそも人様に出せるような大そうな物作れない」
「いやぁ、これもの凄く美味しいんださ」
のんびりした声が割って入る。お昼ご飯を味わっていたかぶとの祖母ちゃんだ。そうそうこの「ださ」の言い回しは、かぶとの祖母ちゃんの昔の口癖なんだそうだ。普段は使わないけれど、ふと気を抜くとぽろっと出てしまうんだとか。
「かぶと虫説に信憑性を持たせようと思って使ってみたんだよね」
にっと笑うかぶと。まんまと騙されたよ。かぶと虫は本当にかぶとなんじゃないかと錯覚するぐらい。だから人間でよかった。口を尖らせてぼやいたら、かぶとは泣きそうな顔で俺に抱き着いてきたので、意味もなくどきどきしてしまった。
「このメニューでもいけるんじゃね?」
兄さんがテーブルを指す。今日は残り物の肉や野菜を包んで揚げた春巻き、人参のスープ、かぼちゃのサラダ、冷凍のパイシートをシチューに被せただけのポットシチューもどき。
「でもお酒は殆ど使ってないし」
「葉は未成年だし、子供のいる家庭も対象にするなら、むしろお酒を使うんじゃなくて、お酒に合うと銘打った方が客層は広がるぞ」
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