声を聴かせて

文月 青

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守るために

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坂井が彼女と待ち合わせしているというので、俺達は三人揃ってサークルの部室を後にした。このまま帰る今村も一緒に駅へと向かう。今日はまた新たに知った話があり、それに驚くと共に身近な問題として、当然のように受け止めている坂井にもまた感心した。

「さっきの制度のことなら、俺の情報が間違っている可能性もあるから、鵜呑みにしないでちゃんと調べてくれると助かるよ」

自分も不勉強だからと坂井は謙遜したが、俺にしてみればそういった情報を持っている段階で、いかに手広くアンテナを張っているか分かるというものだ。内容を吟味する必要はあれど、「知っている」ことはそれだけで大きい。

「でも、お前海ちゃんのこと本気なんだな、西崎」

駅の近くまで辿り着き、ちょうど降りた遮断機の前で電車が通り過ぎるのを眺めていたとき、轟音の合間に今村がぽつりと零した。

「遊びで手を出すなと釘を刺したのはお前だろ」

少々喚くように返すと、今村はそうなんだけどさと苦笑する。

「まさかここまできちんと考えるようになるとは思わなかったんだよ」

「どういう意味だ」

不貞腐れる俺に違うと言いたげに手を振る今村に、今度はついでのように坂井までが乗っかった。

「俺も意外だったよ」

「何だよ二人して」

そこで遮断機が上がったので再び歩き出す。

「もしも海ちゃんの抱える事情に重荷を感じて、西崎がやはり別れを選んでも、それを責めるつもりはなかったし、もちろん責める筋合いでもない。少なくとも真面目な気持ちでつきあったのは分かっていたから」

自覚無しの初恋という単語が蘇り、俺は今村を軽く睨んだ。

「そんな目で見るなって。実はお前は海ちゃんのお母さんの悩みを一つ解決してるんだぞ」

「悩み?」

以前お袋さんの口から聞いてはいたが、彼女は一人で何もかも抱え込む海を、心の内にある物を全て吐き出させて楽にしてあげたかった。もちろんただぶちまけさせるだけなら簡単だ。多少傷つけるかもしれないが、嫌なことを言って煽るなり何なり方法があるからだ。けれど実行に移せなかった。

「お母さんは吐き出した後、結局海ちゃんが自責の念にかられるのを懸念していたんだ。お母さんやりっくんに酷いことをしてしまったと」

海の性格ならあり得る。実際そうやって自分を押さえてきた結果、無意識の笑顔が生まれたのだ。

「ところがお前は海ちゃんを難なく解放したからな。たぶん彼女が一番目を逸らしたかった、負の感情さえも肯定に変えて。大したもんだ」

駅の構内に足を進めながら今村は眦を下げた。

「俺は綺麗事が全て悪いとは思ってない。それがいろんなことを知るきっかけにもなるだろう? ただ綺麗事だけでやっていけないのも事実。だからお前みたいな本音全開の奴は貴重だ」

褒められているのだろうが、ちっともそんな気がしないのは何故だ。

「綺麗事って言えばさ、よくスポーツ選手とかが病院や施設に寄付したりすると、それを売名行為と指摘する人もいるじゃん?」

ホームで電車の時刻を確認してから手近な椅子に腰を下ろすと、今度は坂井が優し気な表情で口を開いた。

「もちろんそう指摘する人がどうこうっていうんじゃないよ? 海ちゃんのお母さんじゃないけど、人の考えはそれぞれだし」

あくまで自分が感じたことなんだけど、と坂井は最初に前置きして続けた。

「例えばそれが売名行為から始めたことだとしても、実際にそのお金で車椅子を買ったり、専用のスロープを作ったりできるわけだろ? それって必要としている人からしたら助かるよな。で、もし俺が寄付を受ける側だったとしたら、嬉しい反面、何か感謝の気持ちを伝えられないかと考えるんじゃないかと思うんだよ」

本当に勝手な想像だから、同じ立場にない者の勝手な意見だからと、坂井はもう一度念を押す。本来その立場にいる人の思いを、身を持って分かっているわけではないので、そこは誤解しないで欲しい、と。

「そう捉えてみると、もし寄付してくれた人の名前が知られることで、その人の役に立てるなら、それはそれでお互いに悪くないんじゃないかって。持ちつ持たれつというのかな。両方にとっていいことがあるみたいなさ」

「なるほど。悪くないな、その考え」

俺がぽんと手を打つと、かつてアスリートであった今村も笑顔で頷いた。

「俺も嫌いじゃない」

人の考えはそれぞれ。でも見方を変えればそこには温かな眼差しもある。社会に出ていない世間知らずのひよっこ三人組は、けれどどこか希望に満ちた思いに包まれながら、滑り込んできた電車に乗り込むべく立ち上がった。



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