声を聴かせて

文月 青

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守るために

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二月も終わりに近づいた頃、俺は坂井と一緒に今村の大学を訪ねた。今村のサークルでは来年度のイベントについて企画を出し合っているらしく、俺達にも何かいいアイデアがないか問われたのだ。様々な傾向を持つ子供と家族が、できるだけ楽しめるものとなるとなかなか難しい。

「そういえば、りっくんはぷりずむを利用するんだって?」

白熱した議論が終わった後の部室で、三人で缶コーヒーを飲んでいたら、ふいに今村が切り出した。

「何? それ」

坂井が訊ねてきたので、先日の施設見学の話をする。彼は身近にそういった支援の場があることにいたく感心していた。もちろん俺だって同じだ。何かあっても陸と海が家で閉じこもっているしかない、そんな状況だけは作りたくない。だから相原家が頼れる環境ができるのはありがたい。ただその一方で気になったこともある。

「海のお袋さん、息切れしないのかな」

いずれ陸も大人になる。でもそのときにお袋さんは子供の手が離れたと、一息つくことはできるのだろうか。陸の将来像を描けない俺は、今の状態にいつか終わりが来るのか、それとも形は変わってもいつまでもお袋さんが子育てを続けるのか、全く想像がつかなかった。

「しないわけないと思うぞ。そもそも子育ては父親と母親の二人でするものだ。それを一人でやっているんだからな」

神妙な面持ちで今村が呟く。 

「だよなあ」

「おそらくぷりずむのような施設は、子供を預かるだけじゃなく、親のリフレッシュの時間も確保してくれてるんじゃないか」

親が安心して子供と離れられる時間。考えてみたら買物にしても、役所や銀行にしても、陸を連れて用を済ますのは大変だろう。

「なあ、今村。陸は成人したら、一人で生きていけるようになるのか?」

「分からない。障害の程度にもよるし、この先どの程度伸びるかにもよる。ただ全く人の手を借りずにいることは無理かもしれない」

「じゃあ、お袋さんの子育てに終わりはないのか?」

「それは何とも」

今村にも思うところはあるらしい。眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。

「りっくんとは少し違うけど、うちの叔父さんの話をしてもいいか?」

考え込む俺達を励ますように、坂井が明るく割って入った。

「うちの叔父さんの場合、ある程度のことは自分でできるけど、一応兄である俺の父親が後見人になっているんだ。実際同居して面倒は見ているし、いろんな手続きも絡むみたいだし」

祖父母は健在だけれど、高齢なので跡を継いだ坂井の父親が実質世帯主になるそうだ。

「で、父親が言うには自分亡き後、叔父さんや子供達が困らないように、成年後見人制度が使えないか確認してみると」

「せいねんこうけんにん?」

初めて聞く言葉に俺は首を傾げた。今村は耳にしたことがあるらしく、ああと小さく洩らしたが、内容の詳細までは知らないらしい。

俺もまだ理解できてないんだけどね、と断って坂井は続けた。

「例えば認知症や病気等で、正常な判断をするのが難しい場合、その人の資産や財産を守るために後見してもらう、ということみたいなんだ」

法定後見人と任意後見人とあり、それによって手続きも後見人になれる人も変わってくるのだとか。

「うちは二人兄弟で俺が長男だから、家に残るのはおそらく俺だろう。父親は叔父さんが俺の負担にならないように、また叔父さんも肩身の狭い思いをしないようにと、あれこれ調べている最中だって」

そこで坂井は俺に向き直った。

「知的障害者にしても、将来は通所の作業所で仕事をしたり、入所施設やグループホームというものも利用できるそうだよ」

制度が変われば、また事情は違ってくるかもしれないが、現在でも様々な支援は存在している。これから先、今よりもっと辛いことや大変なことがあったとしても、手を差し伸べてくれる人はきっといる。

「りっくんのお母さんが、昔は大変だったねーと、いつか笑って話せる日がくるといいな」

坂井の笑顔につられるように、俺と今村も顔を合わせて頷いた。陸にも海にもそしてお袋さんにも、泣いた分だけ笑える日がたくさん訪れるといい、と。

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