空っぽの薬指

文月 青

文字の大きさ
53 / 53
番外編 出会った頃の

3

しおりを挟む
結婚してからも俺の気持ちが落ち着くことはなかった。おかしな話、希さんに惹かれていく気持ちが止められず、子供が産まれて母になっても、彼女が愛しくて堪らない。出会った頃から変わることのない、強くてそれでいて穏やかな想い。

「綺麗よ、希」

真子さんの声で我に返る。ここは島津と真子さんがサプライズで挙式した式場の控え室。

「ありがとうございます、真子先輩」

ウエディングドレスに身を包んだ希さんに、俺は文字通り言葉を失った。清楚なその姿にため息が洩れる。

「よかったな、佐伯」

俺の代わりに臣成の手を繋いだ島津が、感慨深げに祝福してくれたので、俺は嬉しさを隠さずに頷いた。

「ありがとう、島津」

臣成は三歳になった。やんちゃ盛りで悲鳴をあげたくなるときもあるが、元気に育ってくれている。時々希さんの口真似をして、和成さんと呼ばれたりするのもまた一興。  

実は希さんのお腹には二人目の子供がいる。なのでどうしようか迷ったのだが、今回は悪阻が殆ど無かったのと、産まれたらまたしばらく身動きが取れなくなることから、安定期に入るのを待って挙式に臨んだ。

「ママきれーい」

いつもと違う母親に臣成も興奮気味。

「違うぞ、臣成。ママはいつだって綺麗だ。今日は格別だけど」

うっとりと希さんをみつめる俺に、島津と真子さんが苦笑する。

「出たぞ。お前のパパは本当にママが大好きだな」

「これだけは一貫して変わらないわね。これからもきっと」

僕もすきーとはしゃぐ臣成を抱っこして、二人は会場に移動していった。

「体は辛くありませんか?」

頬を上気させている希さんに、体調が悪くないか確認すると、珍しく恥ずかしそうに俯いた。

「和成さんが素敵で、目のやり場に困っちゃいます」

あぁ、もう。この人は素でこんなこと言うんだから。俺の方が困る。嬉しくて。

「あの七夕の夜、和成さんに会わせてくれた織姫と彦星に感謝しなくちゃいけませんね。雨だったのに」

そういえばそうだった。傘を持っていたのに、濡れ鼠になっていた俺の前に現れた希さん。あなたが俺を探してくれなかったら、俺は今頃こんな幸せを噛みしめることはできなかっただろう。

でもあなたは幸せですか? 俺と人生を共にすることを選んで悔いはありませんか?

「和成さん、私達はご飯のお供なんですよ? 他の人に代わりはできません」

そんなふうに笑ってくれるから、俺はますます希さんから離れられなくなる。

「そろそろお時間です」

スタッフの女性の案内で、前回島津と真子さんが辿ったであろう通路を歩いた。重厚なドアの前で衣装を整え、開かれるその瞬間を待つ。

結婚式も新婚旅行も、そして指輪でさえもないままに始まった俺と希さんの新婚生活。誤解やすれ違いに翻弄されながらも、ようやく永遠の愛を誓う日が迎えられた。

「病めるときも、健やかなるときも、あなたを誰にも渡しません。俺のこの手で幸せにし続けます」

耳元でこっそり囁いたら、希さんはそっと俺の手を握って胸元まで持ち上げる。

「この指輪がある限り」

空っぽだった薬指に光るお揃いの指輪が、何年も何十年もこの場所で輝き続けますように。そう願いながら。




しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...