11 / 120
1章「第一次大規模メンテナンス」
大忙しな【蒼穹】メンバー
しおりを挟む
あっさりと迎撃を終えて、アステリスクに戻ってきた4人。
「やっぱりまだまだだな!」
「私にカウンターなんて意味ないわ」
「僕らを出し抜くにはもっと奇襲っぽくないと」
『まだ俺は死ぬつもりはない』
勿論、全員無傷である。残っていたルキとアリスも当然といった体で答える。
「だよな。でさー……」
「ルキが言いにくいならあたしから言うよ。あたしもそうなんだけど、こっち側陣営のギルドの人達がね、あたしたちの作ったものを貸してちょうだいって言ってきてるの」
「あー…成程」
カイとアリス、ユリィはギルドハウス近くに個別に店を持っている。そこで自らが作ったものを売っているのだが、まあなんというか、連日かなり賑わっている。
「貸すだけならよくないか?数を限った上で」
「ルキは【建築家】だからな。でもどうすっかなー」
暗にわかってねーなと言われたルキは微妙な表情になる。
実はカイの作る武器防具の一部は、ヒビキが刻印を刻んだり織り込んだりすることで強化してある。アリスが作るのは主にアクセサリー類で、実用性が高くデザインと効果の両面で特に女性プレイヤーに人気だった。
「僕はある程度までなら作るよ。大変だろうけど」
「あたしもアクセ作るの楽しいし、じゃああたしたちはこれからちょっとだけ別行動になるね」
「おう、わかった」
「こっちは任せといてね」
「まあ、心配はしてないわ」
そういってカイとアリスがそれぞれの拠点に転移していった後、ヒビキたちはテーブルを囲んでソファに各々腰掛ける。
『そういえばまだ、俺たちとあいつらが戦うことになった理由、話してなかったな』
「確かに聞いてなかった」
「……そうだわね」
「……」
3人が次を促すと、スコールは淡々と、手短に話し始めた。
『……………………こういう経緯だ』
「成程、とどのつまりは精霊族のトップにどっちが君臨するかの争いってことか」
「しかもそれぞれの長とその側近たちの仲が悪かった上、彼らが今回の事を起こしたってことね」
「面倒くさい話だな…既に精霊と契約してるプレイヤーがほとんどだから、プレイヤーも一緒に巻き込まれた形だろう。それをうまく調整して条件終了型にした訳か」
『俺と、あいつらの中にいる【血塗れた咎人】とは過去に大罪を犯したことを指す。俺とあいつは、過去に一度だけ共に犯した罪があるからな。他の精霊族には忌みられてるんだ』
「その「大罪」って何なの?」
一瞬、そこで黙り込むと、次には口を開いた。
『…………「神殺し」』
「「「!?」」」
「…マジかよ。ここで嘘なんてつくはずねぇし」
そういえば、思い当たる節はある。カヴンの街で読んだ古文書の中にこの世界でも有名な伝承があり、堕ちた神【堕神】の一柱【深海の踊り子】とある精霊たちが戦った話だ。最終的に精霊たちは【深海の踊り子】を殺し封印するのに成功したが、「神殺し」の罪と堕神の呪詛で永遠に死ねない罰を受けたのだと。
「……!?」
「本当…!?」
「てかお前、どんだけ生きてんだって話になるんだが」
『…………』
そもそも、と言えば、いくらこの世界がリアル極まりないと言ってもNPCだけは、今のところ対応範囲外の質問をされると「答えられない」趣旨の答えを返してくる。
なのにこの青年は普通の人間と変わりない受け答えができている。
「(まあいいけど。そんなこと関係ないし)……大体の経緯は分かった」
「(これ、かなりややこしそうだわね)…私も」
「(権力争いって…不毛なのになー)……」
3人ともそれぞれ感想は違ったが、バックストーリーの一部を聞くことができた。
それから暫く経った後、掲示板を開いていたルキが驚きの声を上げた。
「おい、これ見てくれ」
そういって見せてきたのは、血晶精霊族陣営所属のギルドメンバーしか開けない作戦掲示板である。
「んー?」
「なになに?SOS?」
「簡単に言えばそんな感じだな」
「どこが?」
「【ブルーロータス】。規模はぎりぎり中規模程度だけど何故か男女比が物凄く偏ってる戦闘系ギルドだよ」
「ああ、あそこかー…」
男女比が9:1から7:3程度だと言われるこのVRMMO【ザ・ファイナルリコード・オンライン】において、女性プレイヤーは珍しい。そして【ブルーロータス】というギルドは、かなり大多数のプレイヤーからハーレムギルドだと嫉妬半分からかい半分で揶揄されることが多かった。当の本人は不本意そうだったが。
「どうやら、『輝きの水晶』が設置されてたから相手のほとんどが攻めてきたらしい」
「ははは、マジか」
ヒビキは面白そうに笑い、続けて言う。
「じゃ、誰が行く?」
「俺はここに残るぞ?」
「まあいいけど。カイとアリスいないからなー」
「敵はどの位なのかしらねぇ」
「俺たち3人で加勢するか?正直1人だけで十分だとは思ってるが、面白そうだからな!」
『それを撃退できれば決着はもうすぐか?』
「多分そうだろうな。デスぺナって結構手痛いし」
プレイヤーが死亡すると原則、最寄りのリスタート地点(主街区か村)に強制送還&一時間全ステータス低下のデスペナルティが付く。ただ、ギルド戦で死亡した場合はその2つに加え、極稀に自分の装備品がその場にドロップしてしまうことがある。その確率1%あるかないかで非常に低いのだが、もしそうなってしまえば手痛いどころの話ではない。
「じゃ、行くか」
「だわね」
『了解』
そして3人は、ギルドハウスの転移機能を使って掲示板に書かれていた座標付近へと転移する。
さて、転移してきた地点では、既にかなりの人数が集まっていた。
【ブルーロータス】のメンバーとギルドマスターの魔法剣士、グレイスは既に戦闘状態。敵は千人にも届こうかという勢いで、まさに戦争である。
激戦地域から少し離れた小高い丘の上に転移した3人は、辺りを見渡す。
「わぁ、すごいわね」
「だな」
『行くか?』
「「勿論」」
虚空から真紅の結晶体が現れ、形を成す。彼自身も闇・炎複合属性の双剣型覇双【ダークブレッドチェイサー】を取り出している。
ユリィは魔杖【花神ティアードロップ】を振って契約獣のラボラスとアールヴを呼び出し、ヒビキはメインウェポンではなく、神話級覇弓カテゴリ武器の白い弓【閃雨双撃弓】を持っている。
この弓はMPを消費して魔力の矢を生成するタイプの弓で、注ぎ込むMPの量で威力が変動する。
「まずは殲滅だぜ!」
弓の弦を引き、一本の矢を生成する。それを、空に向かって撃った。
その矢は天に向かって飛ぶ途中で幾つもの細い矢に分裂し、地へと落ちた。
ズドドドドドッ、と凄まじい轟音を立てて落ちる矢は、低レベルのプレイヤーやNPCのほとんどを巻き込んで刺し貫いて黒いガラスの様な死亡エフェクトへと容赦なく変えていく。
「ヒビキ!弓を使うのならアールヴに乗った方がいいと思うわ」
ユリィがアールヴを呼び寄せ、待機状態にさせる。
「助かる!」
白い大鷹であるアールヴに乗り、ヒビキは戦場が見渡せる上空へ。
「ラボラス!存分に暴れてきなさい!」
その指示でラボラスが嬉々とした様子で突っ込んでいく。さらにユリィはアールヴと対になる真っ黒な体色に星の輝きをちりばめたような魔属性の鳥型モンスター、ケイオスを呼び出した。
「ケイオス、貴方はこの人と一緒に戦うのよ」
スコールと一時的なパートナーを組ませ、彼の指示に従わせる命令を下す。
『行ってもいいか?』
「準備は出来たから、行ってもいいわよ」
『では』
スコールも戦場へと駆けていく。
「私も私で、出来ることはあるわね」
2人が戦場へ向かった後、ユリィは戦場全体を見渡す。
ヒビキの天剣雨撃によってある程度は数を減らしたものの、いまだにプレイヤーと聖花精霊族の人数は多い。
絶え間なく行われる回復魔法によって、ちょっとやそっとのダメージではすぐ全快してしまう。
それを考え、錬金術師なりの答えをはじき出す。
「うふふ。【アークバインド】」
―――光属性魔法スキル【アークバインド】。
杖から光の鎖が伸び、手近なプレイヤーを複数人拘束する。元々【アークバインド】はバインド系の魔法スキルの中でも拘束力がかなり高い。
「暫くそこにいなさい」
ユリィは微かに笑みを浮かべ、そう言った。
―――――――――上空にて、アールヴに騎乗しているヒビキ。
弓を構え、1人1人を確実に射殺していっている。既に職業【マーセナリ―】を修めているので、限界突破したDEXと合わさり、その命中率は尋常ではない。
「ていうか、どうしたもんかなぁ。これじゃジリ貧だぜ」
弓術系戦技スキル【ガトリングショット】で何発も矢を放ちながら、ヒビキがぼやく。
しかし、ふと下に目を向けた瞬間、凄まじい質量の真っ赤な結晶が上空に生み出され、そして極寒の冷気が荒れ狂った。
「…成程」
ヒビキは口元に笑みを浮かべ、残りの残党を狙いにかかる。
―空を飛ぶ黒い大鷹、ケイオスと共に駆けていくスコール。
彼に気づいた敵が驚きの声を上げ、全方位から襲い掛かってくる。が。
『後ろ頼む』
ケイオスが彼の指示に頷いた次の瞬間。
彼の姿がぶれ、一陣の風が吹いたかと思うと全周囲の敵が倒れ、死亡エフェクトへと変わった。
―――剣術系戦技スキル【虚ろなる舞踏】。
双剣型武器を装備している時しか使えない、敏捷性を数瞬だけ激増させ、アクロバティックなまでの動きを可能にするスキルである。
『そちらも…大丈夫なようだな』
ケイオスの方も、見事に敵を蹴散らしていた。
『…キリがない、か』
ひとつ頷くと、今まで発動させていなかったもう一つの職業【概念の操者】の職業特性を発動させる。
―――――――――彼の深い青の両目が血を凍てつかせたような鮮烈な紅に変わり、奇妙な五芒星に似た模様が浮かび上がった。
その紅い眼からは、一切の感情が感じられない。
他人には聞き取れない音量で、高速で何かを唱える。
パキパキパキパキ…と連続して響く音は、凄まじい質量の紅い結晶が生み出される音。
上空の虚空から現れる弾丸の様に鋭い形をした紅い結晶の群と共に、極寒の冷気が辺りに荒れ狂う。
『…………』
敵だけが正確に凍てつき、敵を閉じ込めた氷の柱がいくつもできた。追うように落ちてきた幾つもの紅い結晶が、氷と、それに拘束されたプレイヤーたちに降り注ぐ。
いっそ畏怖すら覚えそうなその夥しい数の紅い結晶は豪雨の様に降ってくる。
ズガガガッ!!と地を穿つ勢いで降り続ける紅い雨は、十数秒ほどで止んだ。
『………終わった、か』
【概念の操者】の発動を解く。目の色も元に戻り、模様も消えた。
―後にいるのは、呆気にとられている味方プレイヤーたちと、上空から丁度降りてきた心底面白そうな様子のヒビキだった。
―――【ブルーロータス】のギルドハウス大襲撃から数日後。
アステリスクに集まったヒビキ、ルキ、ユリィの3人は、いささか疲れた様子でソファーに座り込んでいた。
その様子をスコールが若干不思議そうに見ている。
「あー疲れたわぁ」
「だなー」
「俺もある意味疲れた」
『……?』
あれから数日間、3人は掲示板のSOSに応じて傭兵よろしく大陸中を駆け回っていたのだ。
何しろ最強集団ゆえに、唯1人いるだけでもう戦局は確実にひっくり返る訳で。時々カイとアリスも状況報告代わりにチャットを飛ばしてくるが、連日大盛況らしく、そちらも疲れ果てた様子だった。
「なあなあ、ちょっとこれ」
「何かしら?」
『何だ?……!』
「へぇ」
掲示板をチェックしていたヒビキが見せてきたのは、こんな内容。
351:名も無き冒険者
俺らのギルドは、総出で相手の「輝きの水晶」を探してたんだが、遂に設置場所を見つけた!
「忘郷の詩」ってとこのギルドハウスだ。座標貼っておくぜ(5913,428)
そこを落とせば俺らの勝ちだ!手の空いてるやつは来てくれると助かる。
「見つけたみたいね」
「よくやるじゃん」
「今度は俺と、ヒビキと、スコールで行くか」
『…了解』
「OK。私は今回は留守番するわね」
「わかったぜ!」
―もうそろそろ、決着がつく時が来ていた。
「やっぱりまだまだだな!」
「私にカウンターなんて意味ないわ」
「僕らを出し抜くにはもっと奇襲っぽくないと」
『まだ俺は死ぬつもりはない』
勿論、全員無傷である。残っていたルキとアリスも当然といった体で答える。
「だよな。でさー……」
「ルキが言いにくいならあたしから言うよ。あたしもそうなんだけど、こっち側陣営のギルドの人達がね、あたしたちの作ったものを貸してちょうだいって言ってきてるの」
「あー…成程」
カイとアリス、ユリィはギルドハウス近くに個別に店を持っている。そこで自らが作ったものを売っているのだが、まあなんというか、連日かなり賑わっている。
「貸すだけならよくないか?数を限った上で」
「ルキは【建築家】だからな。でもどうすっかなー」
暗にわかってねーなと言われたルキは微妙な表情になる。
実はカイの作る武器防具の一部は、ヒビキが刻印を刻んだり織り込んだりすることで強化してある。アリスが作るのは主にアクセサリー類で、実用性が高くデザインと効果の両面で特に女性プレイヤーに人気だった。
「僕はある程度までなら作るよ。大変だろうけど」
「あたしもアクセ作るの楽しいし、じゃああたしたちはこれからちょっとだけ別行動になるね」
「おう、わかった」
「こっちは任せといてね」
「まあ、心配はしてないわ」
そういってカイとアリスがそれぞれの拠点に転移していった後、ヒビキたちはテーブルを囲んでソファに各々腰掛ける。
『そういえばまだ、俺たちとあいつらが戦うことになった理由、話してなかったな』
「確かに聞いてなかった」
「……そうだわね」
「……」
3人が次を促すと、スコールは淡々と、手短に話し始めた。
『……………………こういう経緯だ』
「成程、とどのつまりは精霊族のトップにどっちが君臨するかの争いってことか」
「しかもそれぞれの長とその側近たちの仲が悪かった上、彼らが今回の事を起こしたってことね」
「面倒くさい話だな…既に精霊と契約してるプレイヤーがほとんどだから、プレイヤーも一緒に巻き込まれた形だろう。それをうまく調整して条件終了型にした訳か」
『俺と、あいつらの中にいる【血塗れた咎人】とは過去に大罪を犯したことを指す。俺とあいつは、過去に一度だけ共に犯した罪があるからな。他の精霊族には忌みられてるんだ』
「その「大罪」って何なの?」
一瞬、そこで黙り込むと、次には口を開いた。
『…………「神殺し」』
「「「!?」」」
「…マジかよ。ここで嘘なんてつくはずねぇし」
そういえば、思い当たる節はある。カヴンの街で読んだ古文書の中にこの世界でも有名な伝承があり、堕ちた神【堕神】の一柱【深海の踊り子】とある精霊たちが戦った話だ。最終的に精霊たちは【深海の踊り子】を殺し封印するのに成功したが、「神殺し」の罪と堕神の呪詛で永遠に死ねない罰を受けたのだと。
「……!?」
「本当…!?」
「てかお前、どんだけ生きてんだって話になるんだが」
『…………』
そもそも、と言えば、いくらこの世界がリアル極まりないと言ってもNPCだけは、今のところ対応範囲外の質問をされると「答えられない」趣旨の答えを返してくる。
なのにこの青年は普通の人間と変わりない受け答えができている。
「(まあいいけど。そんなこと関係ないし)……大体の経緯は分かった」
「(これ、かなりややこしそうだわね)…私も」
「(権力争いって…不毛なのになー)……」
3人ともそれぞれ感想は違ったが、バックストーリーの一部を聞くことができた。
それから暫く経った後、掲示板を開いていたルキが驚きの声を上げた。
「おい、これ見てくれ」
そういって見せてきたのは、血晶精霊族陣営所属のギルドメンバーしか開けない作戦掲示板である。
「んー?」
「なになに?SOS?」
「簡単に言えばそんな感じだな」
「どこが?」
「【ブルーロータス】。規模はぎりぎり中規模程度だけど何故か男女比が物凄く偏ってる戦闘系ギルドだよ」
「ああ、あそこかー…」
男女比が9:1から7:3程度だと言われるこのVRMMO【ザ・ファイナルリコード・オンライン】において、女性プレイヤーは珍しい。そして【ブルーロータス】というギルドは、かなり大多数のプレイヤーからハーレムギルドだと嫉妬半分からかい半分で揶揄されることが多かった。当の本人は不本意そうだったが。
「どうやら、『輝きの水晶』が設置されてたから相手のほとんどが攻めてきたらしい」
「ははは、マジか」
ヒビキは面白そうに笑い、続けて言う。
「じゃ、誰が行く?」
「俺はここに残るぞ?」
「まあいいけど。カイとアリスいないからなー」
「敵はどの位なのかしらねぇ」
「俺たち3人で加勢するか?正直1人だけで十分だとは思ってるが、面白そうだからな!」
『それを撃退できれば決着はもうすぐか?』
「多分そうだろうな。デスぺナって結構手痛いし」
プレイヤーが死亡すると原則、最寄りのリスタート地点(主街区か村)に強制送還&一時間全ステータス低下のデスペナルティが付く。ただ、ギルド戦で死亡した場合はその2つに加え、極稀に自分の装備品がその場にドロップしてしまうことがある。その確率1%あるかないかで非常に低いのだが、もしそうなってしまえば手痛いどころの話ではない。
「じゃ、行くか」
「だわね」
『了解』
そして3人は、ギルドハウスの転移機能を使って掲示板に書かれていた座標付近へと転移する。
さて、転移してきた地点では、既にかなりの人数が集まっていた。
【ブルーロータス】のメンバーとギルドマスターの魔法剣士、グレイスは既に戦闘状態。敵は千人にも届こうかという勢いで、まさに戦争である。
激戦地域から少し離れた小高い丘の上に転移した3人は、辺りを見渡す。
「わぁ、すごいわね」
「だな」
『行くか?』
「「勿論」」
虚空から真紅の結晶体が現れ、形を成す。彼自身も闇・炎複合属性の双剣型覇双【ダークブレッドチェイサー】を取り出している。
ユリィは魔杖【花神ティアードロップ】を振って契約獣のラボラスとアールヴを呼び出し、ヒビキはメインウェポンではなく、神話級覇弓カテゴリ武器の白い弓【閃雨双撃弓】を持っている。
この弓はMPを消費して魔力の矢を生成するタイプの弓で、注ぎ込むMPの量で威力が変動する。
「まずは殲滅だぜ!」
弓の弦を引き、一本の矢を生成する。それを、空に向かって撃った。
その矢は天に向かって飛ぶ途中で幾つもの細い矢に分裂し、地へと落ちた。
ズドドドドドッ、と凄まじい轟音を立てて落ちる矢は、低レベルのプレイヤーやNPCのほとんどを巻き込んで刺し貫いて黒いガラスの様な死亡エフェクトへと容赦なく変えていく。
「ヒビキ!弓を使うのならアールヴに乗った方がいいと思うわ」
ユリィがアールヴを呼び寄せ、待機状態にさせる。
「助かる!」
白い大鷹であるアールヴに乗り、ヒビキは戦場が見渡せる上空へ。
「ラボラス!存分に暴れてきなさい!」
その指示でラボラスが嬉々とした様子で突っ込んでいく。さらにユリィはアールヴと対になる真っ黒な体色に星の輝きをちりばめたような魔属性の鳥型モンスター、ケイオスを呼び出した。
「ケイオス、貴方はこの人と一緒に戦うのよ」
スコールと一時的なパートナーを組ませ、彼の指示に従わせる命令を下す。
『行ってもいいか?』
「準備は出来たから、行ってもいいわよ」
『では』
スコールも戦場へと駆けていく。
「私も私で、出来ることはあるわね」
2人が戦場へ向かった後、ユリィは戦場全体を見渡す。
ヒビキの天剣雨撃によってある程度は数を減らしたものの、いまだにプレイヤーと聖花精霊族の人数は多い。
絶え間なく行われる回復魔法によって、ちょっとやそっとのダメージではすぐ全快してしまう。
それを考え、錬金術師なりの答えをはじき出す。
「うふふ。【アークバインド】」
―――光属性魔法スキル【アークバインド】。
杖から光の鎖が伸び、手近なプレイヤーを複数人拘束する。元々【アークバインド】はバインド系の魔法スキルの中でも拘束力がかなり高い。
「暫くそこにいなさい」
ユリィは微かに笑みを浮かべ、そう言った。
―――――――――上空にて、アールヴに騎乗しているヒビキ。
弓を構え、1人1人を確実に射殺していっている。既に職業【マーセナリ―】を修めているので、限界突破したDEXと合わさり、その命中率は尋常ではない。
「ていうか、どうしたもんかなぁ。これじゃジリ貧だぜ」
弓術系戦技スキル【ガトリングショット】で何発も矢を放ちながら、ヒビキがぼやく。
しかし、ふと下に目を向けた瞬間、凄まじい質量の真っ赤な結晶が上空に生み出され、そして極寒の冷気が荒れ狂った。
「…成程」
ヒビキは口元に笑みを浮かべ、残りの残党を狙いにかかる。
―空を飛ぶ黒い大鷹、ケイオスと共に駆けていくスコール。
彼に気づいた敵が驚きの声を上げ、全方位から襲い掛かってくる。が。
『後ろ頼む』
ケイオスが彼の指示に頷いた次の瞬間。
彼の姿がぶれ、一陣の風が吹いたかと思うと全周囲の敵が倒れ、死亡エフェクトへと変わった。
―――剣術系戦技スキル【虚ろなる舞踏】。
双剣型武器を装備している時しか使えない、敏捷性を数瞬だけ激増させ、アクロバティックなまでの動きを可能にするスキルである。
『そちらも…大丈夫なようだな』
ケイオスの方も、見事に敵を蹴散らしていた。
『…キリがない、か』
ひとつ頷くと、今まで発動させていなかったもう一つの職業【概念の操者】の職業特性を発動させる。
―――――――――彼の深い青の両目が血を凍てつかせたような鮮烈な紅に変わり、奇妙な五芒星に似た模様が浮かび上がった。
その紅い眼からは、一切の感情が感じられない。
他人には聞き取れない音量で、高速で何かを唱える。
パキパキパキパキ…と連続して響く音は、凄まじい質量の紅い結晶が生み出される音。
上空の虚空から現れる弾丸の様に鋭い形をした紅い結晶の群と共に、極寒の冷気が辺りに荒れ狂う。
『…………』
敵だけが正確に凍てつき、敵を閉じ込めた氷の柱がいくつもできた。追うように落ちてきた幾つもの紅い結晶が、氷と、それに拘束されたプレイヤーたちに降り注ぐ。
いっそ畏怖すら覚えそうなその夥しい数の紅い結晶は豪雨の様に降ってくる。
ズガガガッ!!と地を穿つ勢いで降り続ける紅い雨は、十数秒ほどで止んだ。
『………終わった、か』
【概念の操者】の発動を解く。目の色も元に戻り、模様も消えた。
―後にいるのは、呆気にとられている味方プレイヤーたちと、上空から丁度降りてきた心底面白そうな様子のヒビキだった。
―――【ブルーロータス】のギルドハウス大襲撃から数日後。
アステリスクに集まったヒビキ、ルキ、ユリィの3人は、いささか疲れた様子でソファーに座り込んでいた。
その様子をスコールが若干不思議そうに見ている。
「あー疲れたわぁ」
「だなー」
「俺もある意味疲れた」
『……?』
あれから数日間、3人は掲示板のSOSに応じて傭兵よろしく大陸中を駆け回っていたのだ。
何しろ最強集団ゆえに、唯1人いるだけでもう戦局は確実にひっくり返る訳で。時々カイとアリスも状況報告代わりにチャットを飛ばしてくるが、連日大盛況らしく、そちらも疲れ果てた様子だった。
「なあなあ、ちょっとこれ」
「何かしら?」
『何だ?……!』
「へぇ」
掲示板をチェックしていたヒビキが見せてきたのは、こんな内容。
351:名も無き冒険者
俺らのギルドは、総出で相手の「輝きの水晶」を探してたんだが、遂に設置場所を見つけた!
「忘郷の詩」ってとこのギルドハウスだ。座標貼っておくぜ(5913,428)
そこを落とせば俺らの勝ちだ!手の空いてるやつは来てくれると助かる。
「見つけたみたいね」
「よくやるじゃん」
「今度は俺と、ヒビキと、スコールで行くか」
『…了解』
「OK。私は今回は留守番するわね」
「わかったぜ!」
―もうそろそろ、決着がつく時が来ていた。
0
あなたにおすすめの小説
ミックスブラッドオンライン・リメイク
マルルン
ファンタジー
ある日、幼馴染の琴音に『大学進学資金』の獲得にと勧められたのは、何と懸賞金付きのVRMMOの限定サーバへの参加だった。名前は『ミックスブラッドオンライン』と言って、混血がテーマの一風変わったシステムのゲームらしい。賞金の額は3億円と破格だが、ゲーム内には癖の強い振るい落としイベント&エリアが満載らしい。
たかがゲームにそんな賞金を懸ける新社長も変わっているが、俺の目的はどちらかと言えば沸点の低い幼馴染のご機嫌取り。そんな俺たちを待ち構えるのは、架空世界で巻き起こる破天荒な冒険の数々だった――。
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる