宵闇王と精霊の竜刀

火の無い灰

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5章【終わりは始まり、始まりは終わり】

殲滅、大勢(たいせい)の決着

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「禁断の荒野」、「致命の地」全体に渡って漂い始めた、乳白色の濃密な霧。
冷気と、微かな銀木犀ギンモクセイの花の香りを伴うその霧は、人、モンスター関係なく大地と近い空気を濡らしていく。
その不思議な霧の出どころは、1人の、白銀の鎧を纏った若い騎士の持つ剣だった。
白い水晶金属オリハルコンでできた幅10センチ程度の両刃の刀身に、つばから剣脊の半ばまで銀木犀の象嵌が施されている。隣で戦闘中だった彼の仲間が、驚いた様に言った。
「クレイ、【銀木犀の剣】の武器固有能力まで使わなくてもよかったんじゃないか?」
一定以上のランクの武器には、「武器固有能力」が1つずつ備わっている。
武器ごとに全く違い、使い方によっては戦局をひっくり返せることも十分可能なまでの威力を持つため、各国の騎士団では軽々しく使う事は禁じられているほどである。
【銀木犀の剣】の固有能力は…――――――
「仕方ないだろこんな状況なんだから。…ッ、《タイム・フリーズ》解放リリース!」
瞬間。
濃密な霧の中から極太の氷の蔓が伸びあがり、それは半ばで細く無数に分かれると、的確にモンスターだけに絡みつき、徐々にその体を凍り付かせていく。
ぱっと見、氷でできた投網とあみのようだ。
結果、拘束されたモンスターたちは全てそれぞれの時間動きを凍り付かせた。
「ファルガ、頼むっ!」
【銀木犀の剣】を片手で天に突き上げたまま、若い白銀騎士――クレイは近くにいた同僚のファルガに向かって叫ぶ。
「おい、勘弁してくれよなぁ…俺のは強い代わりに耐久度の消費がハンパねぇんだよ」
応えたのはクレイとよく似た白銀基調の鎧を纏う、声からして年上の騎士。
両手で構えているのは【銀木犀の剣】と同じランクの長槍ロングスピア、【聖翼の戦槍】。
直径数センチの細く白い、優に1メートルは超える長さの柄の先には銀色の刃が輝く。
刃と柄の継ぎ目には翼を象った飾りがついており、中心には四角すいの形の赤い宝玉が嵌っている。
真っ白な飾り布が、柄からほどけてばたばたと風にはためいた。
「仕方ねぇなぁ…まあ上手くいけば全滅させることができるかもしんねぇけどよ」
そういいながらも、右手に持った戦槍を空高く突き上げ、武器固有能力の起句を唱える。
「《セイント・ガルーダ》召喚サモン解放リリース!」
――――次の瞬間。穂先の刃が眩い光を放ち、灰色を帯びた雲で覆われていた空が裂けた。
その裂けた雲の奥には無限の蒼穹が広がっており、その更に奥から、ピィィィ―…と甲高い風切り音をたてながら何かが飛んでくる。
それは、地球に生きる種類モノと比べれば二回りほどは大きい、であった。体表の羽毛が全て黄金色の、神獣に分類カテゴライズされる特殊召喚モンスター、
――――――《聖翼の霊鷹セイント・ガルーダ》。
ガルーダは弧を描きながら地上近くまで降りてくると、いきなりバサバサと大きく羽撃はばたいた。
すると、はばたきによって生じた風がそのまま鋭い風の刃と化して周囲に飛んでいく。
ザシュッっという斬撃音と、ブシュゥという噴出音が立て続けにあちらこちらで鳴り響く。
ファルガはその間ずっと、槍を突き上げたままの体勢で立ち続けている。
戦槍の銀色に光っている刃にビキビキと音を立てて細かな亀裂ヒビが走る。
―――ファルガの持つ【聖翼の戦槍】の武器固有能力は。
神獣ガルーダを召喚する。ガルーダはファルガが敵と認識したモノ全てを狩りつくすまでは何をしようが止めることはできないという強力なものだが、召喚した後、ガルーダが敵を全て狩りつくすまで槍を空へ突き上げた体勢のままでおらねばならず、そしてこの能力の何よりの欠点がだ。
大体固有能力を使うと武器の耐久度が下がるが、この戦槍はその中でも群を抜いている。
要するに、通常は「最後の切り札」として扱うべきものなのだ。
「ガルーダがなるべく早く殲滅しきる事を祈るばかりだな…このままじゃ武器耐久度が尽きるのが先になる」
少々焦りを滲ませた表情で歯噛みしながら、槍を天に突き上げ続ける。


ガルーダが召喚されてから、おおよそ10分ほど経った。
すると今度は、後方にいた神官や治癒師ヒーラーたちと一緒にいた一部の国の「神殿騎士」の中の一人が、突然天幕を飛び出し全速力で駆けだした。
周りにいた女性神官シスターたちやた治癒師たちは突然のことに数秒呆然としていた。
金属鎧を纏いながらも驚異的なスピードで駆けるそのランスロットと呼ばれる青年神殿騎士長は、ある一定の距離を走ったところで宙へ跳び上がった。
「グラァァァム!!」
思い切り叫びながら、一見何の変哲もない加工カットされた宝玉を宙へ放る。
すると宝玉は音もなく自壊しながら赤い光粒を放ち始め、それはランスロットの背に集まって巨大な蝶々の様な2対4枚の翼を創りだした。
全体としては赤いが、部分によって色の薄さが違う。まるで炎の様な色合いの翼。
しかもそれから延びるように、赤い光でできた線状の翼が光っている。
空に浮遊したままの彼の右手には、翼と同じくらい鮮烈な赤さの長剣が握られていた。
それは飛翔できる特性を持った魔法武器である「天翼」の中で最高級の代物シロモノ
――――――――――【神剣】グラム。
滞空している彼に気づいたか、神剣グラムの美しさに見とれたか、戦場が一瞬だけ、止まる。
そう。ほんの一瞬だけ。その間隙に。
「《ルミナスジャッジメント》ッ!」
神剣グラムの、固有能力が発動する。
勇ましく天へ掲げられた真紅の剣から純白の光柱が撃ち上がり、ある程度までいったところで、パァァァ…―――ン!!と音高く弾けた。
弾けた光は羽根の形となって、ひらひら、ふわふわと舞い落ちてくる。
まるで天使の羽根の様に清らかなそれが、人、モンスターの両方に触れた瞬間。
再び無数の微細な光粒となって弾けた。が、しかし結果は両極端だった。

それが神剣グラムの固有能力《ルミナスジャッジメント》。
ランスロットが見下ろす先には、裁きの餌食にかかったモンスターたちの血で塗りつぶされた大地が広がっていた。

実を言うと、ランスロットは戦闘開戦前の夜に、戦女神アテナから神剣グラムを封じ込めた宝玉を貰っていたのだ。トールやオーディンの目の届かない、神殿騎士たちの天幕の近くで。


これがとなり、レイによって闇のポータルを既に破壊され無限湧出が止まっていた闇のモンスターたちは1匹残らず死に絶えた。
……………これで大勢たいせいは決した、と言ってもよい。
が、まだ敵の最重要格トップたる宵闇王が残っている。
対峙の時は、もう間もなく迫っていた。
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