あの日の涙が幸せに変わるまで。

紗倉咲

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プロローグ

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夜闇。そして、静寂――

夜の裏道は、吐いた息さえ闇に溶けてしまいそうなほど暗い。帰り道を照らすのは、まばらに立っている街灯と、家の灯りだけ。強く光を放っていた月も、今雲に隠れてしまった。

嫌な夜だ。

私は冷たい風に吹かれながら歩いた。まだ9月だというのに、夏の名残は既に消え去り、冬の足音は日に増し大きくなっている。
一層冷たい風が私の体を刺す。あまりの痛みに、思わず目を瞑り立ち止まった。


――その痛みは、懐かしいとさえ感じてしまう記憶の中の痛みとよく似ていた。


そんな感傷を振り払うかのように、何者かに追われるかのように、私は闇に溶けた帰り道を足早に歩いた。



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