2 / 3
第1話
しおりを挟む
私の家は、築30年ほどの小さなアパートの一室だ。これといった特徴はない。外装も、ところどころ塗装が剥がれていて、お世辞にも綺麗とは言えない。ただ古いだけの小さなアパートだ。
私は家から仕送りを受けずに、アルバイトをいくつか掛け持って生活している。それでも、稼いだ分から生活費を引けば、自由に使えるお金は雀の涙ほどしかない。だから、節約できるところはできるだけ節約するようにしている。特に光熱費。家を出るときには、必ず電気を消していることを確認している――はずの私の部屋からは、こうこうと明かりが漏れていた。
私は訝りながら、ドアノブを回した。
――ガチャリ。
鍵がかかっていない。
玄関には、1組の靴がある。
そして、玄関のすぐ奥にあるリビングには、1つの人影があった。
人影は私の帰宅に気づいたらしく、お邪魔してるよ、とひらひらと手を振った。
その人影の正体は、私の親友、陽菜だった。
「ねぇ、陽菜。来てるなら連絡してって言ったじゃん。あと、鍵はちゃんとかけておいて」
「ごめんごめん、すっかり忘れてた」
悪びれる様子もなく、これお土産、と言って、陽菜がよく飲んでいる、缶のホットココアを渡してきた。
9月にホットココアとはおかしな話だが、今年はとても寒い。夏の次はすぐに冬、といった感じだ。
「ご飯食べ終わった後に飲むから、適当なところに置いといて」
「これ、冷めたらまずいけど、いいの?」
「電子レンジで温めて飲むから大丈夫」
「今日は帰ってくるの早かったけど、バイトは無かったの?」
「うん。その代わり明日から6連勤だけどね」
「そんなにお金ないの?ひとり暮らしって大変だなぁ」
「私は家から仕送り来ないから。皆はこんなのじゃないんじゃない?」
「…そっか」
私の家のことをある程度知っている陽菜は、仕送りが来ない理由を察したらしく、静かになった。
「お腹空いたぁ……葛葉、何か作ってくれない?」
「いいよ。けど、今度スイーツ奢ってね」
陽菜はいそいそと椅子に座った。手伝う気は無いらしい。でも、そういう図々しいところも陽菜らしい。
「この卵、そろそろ食べないと。オムライスにしようかな」冷蔵庫にあった冷やご飯を電子レンジで温めている内に玉ねぎを切る。陽菜がインゲンは入れないでね、と言ったのが聞こえたが、そんなものは冷蔵庫には無かった。
フライパンに油をひいて、温めたご飯と玉ねぎ、冷凍コーンをケチャップで炒める。
「葛葉はよく自炊するの?」
「そうだね。ひとり暮らしだし、外食ばっかりするほどお金ないし」
答えながらケチャップライスを別の容器に移す。ケチャップやらで汚れたフライパンをキッチンペーパーで拭いて、ほぐした卵を入れて焼く。ケチャップライスを半分卵の上に乗せて、卵が破れないように慎重に巻く――が、あともうちょっと、というところで破れてしまった。これは自分の分にしよう。
陽菜の分もさっきと同じ手順で慎重に巻いていく。今度はきれいにできた。
それぞれ上にケチャップをかけて、テーブルに持っていく。陽菜は、スプーンを並べて待っていた。
「ごめん、お待たせ」
「全然大丈夫。作ってくれてありがとね」
「「いただきます」」
誰かと食卓を囲んだのは久しぶりだった。いつもと変わらないはずの食卓が、確かに温かく見えた。
私は家から仕送りを受けずに、アルバイトをいくつか掛け持って生活している。それでも、稼いだ分から生活費を引けば、自由に使えるお金は雀の涙ほどしかない。だから、節約できるところはできるだけ節約するようにしている。特に光熱費。家を出るときには、必ず電気を消していることを確認している――はずの私の部屋からは、こうこうと明かりが漏れていた。
私は訝りながら、ドアノブを回した。
――ガチャリ。
鍵がかかっていない。
玄関には、1組の靴がある。
そして、玄関のすぐ奥にあるリビングには、1つの人影があった。
人影は私の帰宅に気づいたらしく、お邪魔してるよ、とひらひらと手を振った。
その人影の正体は、私の親友、陽菜だった。
「ねぇ、陽菜。来てるなら連絡してって言ったじゃん。あと、鍵はちゃんとかけておいて」
「ごめんごめん、すっかり忘れてた」
悪びれる様子もなく、これお土産、と言って、陽菜がよく飲んでいる、缶のホットココアを渡してきた。
9月にホットココアとはおかしな話だが、今年はとても寒い。夏の次はすぐに冬、といった感じだ。
「ご飯食べ終わった後に飲むから、適当なところに置いといて」
「これ、冷めたらまずいけど、いいの?」
「電子レンジで温めて飲むから大丈夫」
「今日は帰ってくるの早かったけど、バイトは無かったの?」
「うん。その代わり明日から6連勤だけどね」
「そんなにお金ないの?ひとり暮らしって大変だなぁ」
「私は家から仕送り来ないから。皆はこんなのじゃないんじゃない?」
「…そっか」
私の家のことをある程度知っている陽菜は、仕送りが来ない理由を察したらしく、静かになった。
「お腹空いたぁ……葛葉、何か作ってくれない?」
「いいよ。けど、今度スイーツ奢ってね」
陽菜はいそいそと椅子に座った。手伝う気は無いらしい。でも、そういう図々しいところも陽菜らしい。
「この卵、そろそろ食べないと。オムライスにしようかな」冷蔵庫にあった冷やご飯を電子レンジで温めている内に玉ねぎを切る。陽菜がインゲンは入れないでね、と言ったのが聞こえたが、そんなものは冷蔵庫には無かった。
フライパンに油をひいて、温めたご飯と玉ねぎ、冷凍コーンをケチャップで炒める。
「葛葉はよく自炊するの?」
「そうだね。ひとり暮らしだし、外食ばっかりするほどお金ないし」
答えながらケチャップライスを別の容器に移す。ケチャップやらで汚れたフライパンをキッチンペーパーで拭いて、ほぐした卵を入れて焼く。ケチャップライスを半分卵の上に乗せて、卵が破れないように慎重に巻く――が、あともうちょっと、というところで破れてしまった。これは自分の分にしよう。
陽菜の分もさっきと同じ手順で慎重に巻いていく。今度はきれいにできた。
それぞれ上にケチャップをかけて、テーブルに持っていく。陽菜は、スプーンを並べて待っていた。
「ごめん、お待たせ」
「全然大丈夫。作ってくれてありがとね」
「「いただきます」」
誰かと食卓を囲んだのは久しぶりだった。いつもと変わらないはずの食卓が、確かに温かく見えた。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。
そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、
死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。
「でも、子供たちの心だけは、
必ず取り戻す」
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。
それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。
これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる