ラスト・バスティオン伝説 ~最後の勇者と最後の砦~

Tea

文字の大きさ
30 / 35
第一章 初心者冒険者編

25話 少女と母親

しおりを挟む
 シルトたちは少女の案内を受けながら街中を進んでいく。
 シルトたちも数日この街に滞在しているので、一通り街中を見て回ってはいたが、少女が進んでいく先は行ったことがないところだ。
 少女は慣れたように歩いていくので、それに着いていくが、徐々に人気が無くなっていき、言い方は悪いが淀んだ空気が立ち込めている。
 この辺りは特に商業施設や観光するところもなく、地元民ですらあまり来ないようなところのようだ。

「マリアちゃんはここに住んでるの?」
「そうだよ! おかあさんとふたりですんでるの!」

 ロゼの問いかけに少女は笑顔で答える。
 ここまでの道中で仲良くなったみたいだ。
 ジルもマリアに懐いているようでマリアに抱きかかえられている。

 少女の名前はマリアと言うらしい。
 スラム街に母親と二人で住んでいるのだ。
 マリアの家も外の人たちと同じように、魔物に故郷を追われてこの地まで逃げてきたらしい。
 父親は残念ながら一緒に逃げ切れなかったということだ。
 マリア自身、まだ幼いころの出来事でよく覚えていないということだったが、話しから推測するに父はもう死んでしまったのだろう。
 それ以来、こんな環境の悪いところで生活しているのだ。

「生活は大変じゃない?」
「もうなれちゃったからへいき。でも、おかあさんがびょうきになってからはさびしいの……」

 年端のいかないこの子からすれば、母親まで失うことになってしまえば生活などしていけないだろう。
 なんとしても解決しなければとシルトたちは決意を固める。

 スラム街のかなり奥の方に進んできた。
 先ほどからかなり注目を集めているようで、スラム街にいる人たちが物陰などから視線を向けていることが感じられる。
 特に話し掛けてくるわけでもなくただ見られているのだ。
 その視線からは敵意とも好意とも取れないものを感じさせる。

 シルトたちは視線を気にしながらも、マリアに着いていく。
 そして、一つの通路を入ったところで目的地に着いたようだ。

「ただいま、おかあさん!」
「マリア……どこに行っていたの? 危ないから、勝手に……出歩いちゃダメだって……言ってるでしょ?」
「ごめんなさい……。でも、おかあさんにげんきになってほしくて」

 通路には、ボロボロの布が敷かれており、その布の上に痩せこけた女性が横たわっている。
 マリアのお母さんだ。
 マリアに対して諭しながらも優しさを感じさせる口調から、娘のことを大切に思っていることが窺える。
 ただ、言葉も途切れ途切れになり浅い呼吸をしていることから、体がかなり重篤な状態であることを示しているように感じられる。
 このままでは本当に命に関わるだろう。
 特にこのような環境の悪い場所では。

「あの……あなた方は? もしかして……マリアがお世話になったのでしょうか?」

 マリアの後ろに立っているシルト、ロゼ、リヒトの姿を見ながらマリアの母は疑問を呈した。
 突然しらない人間が三人も押し寄せれば当然疑問に思うだろう。
 それもスラムにはいないような清潔な服装をしていればなおさらだ。

 マリアの母の問いかけに対してシルトが丁寧に回答する。
 冒険者ギルドにマリアが来て助けを求めたこと、そして今から助けてみせるということを。

「そんな……私には対価をお支払いすることができません。そのお気持ちだけで……充分です。ありがとう……」
「ですから、対価を頂こうとは思っていません。俺たちが勝手にこの依頼を受けただけなので」
「でも……」
「マリアちゃんにはお母さんが必要です。どうか私たちに手助けさせていただけませんか?」
「ありがとう……優しい冒険者さん」

 マリアの母はポロポロと涙を流しながらシルトたちの厚意に甘えることを決めたようだ。
 治安も良くない現状で初対面の人間を信じるということはなかなか難しいことだが、マリアの母がシルトたちを信じることができたのも、シルトたちが何か人を引き付けるような魅力でもあるのだろう。

「それじゃあ病状を診ますね! シルトとリヒトは見ないように離れてて」
「はーい。マリアちゃん、あっちで遊ぼう!」
「うん!」

 シルト、リヒト、ジル、マリアは通路を出て行った。
 見届けたロゼはマリアの母の服をたくし上げて病状を診始めた。

 ロゼには回復魔法の類は使えない。
 というよりもこの世界では回復魔法を使える者は少ないのだ。
 魔力を使って自分の体の再生を促すことができる者は多いのだが、他者に対して強力な回復魔法を使える者はかなり限られている。
 ではロゼはどのようにして治すのかというと、魔法を使って病状を診ることはできるので病状を把握して薬などを買いに行くつもりのようだ。

「どうでしょうか……」

 ロゼの診察を受けながらマリアの母は心配そうな声を出す。
 心配になるのも仕方ないだろう。
 もしここで治りませんと言われれば、幼いマリアを残して逝くことになってしまうからだ。
 不安そうな声を聞いたロゼだが、特に受け答えをせずに診察を続ける。
 かなり真剣な目つきをしながら。

 しばらくして、ロゼはマリアの母の服を元のように着なおさせる。
 そして、

「大丈夫です! すぐ治りますよ!」

 と明るく振る舞ったのだ。

「良かった……この恩は必ず返します」
「いえいえ、そんなに気を遣わないでください! それにまだ治ったわけじゃないですから、気が早いですよ!」
「そうですね……でも、もう一度お礼を言わせてください。ありがとう、ロゼさん」

 感極まった様子でまた涙を流すマリアの母。
 その姿を見るロゼの表情はどこか曇っているようにも見えるものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...