ラスト・バスティオン伝説 ~最後の勇者と最後の砦~

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第一章 初心者冒険者編

26話 魔瘴病

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 診察を終えたロゼの下にシルトたちが戻ってくる。

「おねえちゃん! おかあさんげんきになる?」
「もちろんよ! 今からお薬取りに行ってくるから、良い子で待っててね」

 駆け寄ってきたマリアに対して優しく対応するロゼ。
 母が元気になると聞いてマリアはニコニコと笑っている。
 表情豊かな良い子だ。

「マリアちゃん」
「なあに?」
「私たちが出かけてる間、ジルのお世話をお願いしていい?」
「いいよ! やったー! 一緒に遊ぼうねジル!」
『ピィー!』

 ジルも嬉しそうだ。
 普段はロゼと過ごすことが多いが、遊びという遊びができていないので、マリアと遊べることが嬉しいのだろう。
 ジルも遊びたいざかりの子供だということだ。
 嬉しそうに喜ぶマリアとジルを、マリアの母とロゼは優しい目でみているのだった。

 シルト、リヒト、ロゼはマリアたちに見送られながらその場を離れる。
 ロゼが言う薬を手に入れるためだ。

「それで、何の病気だったんだ?」
「……」
「どこに薬を受け取りに行くの? 薬屋とか?」
「……」

 先ほどからロゼは黙り込んでいる。
 シルトやリヒトの質問に返答しようとしないのだ。
 ただただ難しい顔をしながら何かを考えているように見える。
 その表情はマリアに見せたような明るいものとは打って変わって真逆の表情ともとれる。

「なあ、どうしたんだ、ロゼ?」
「そうだよ、ロゼ姉。さっきから難しい顔をしてるけど」

 ロゼの態度に異変を感じたシルトとリヒトは心配したように声を掛ける。
 その声でようやくロゼが口を開いた。

「魔瘴病だった……」
「え?」
「マリアのお母さんの病気。魔障病だったのよ!」
「それって……」

 ロゼの告白を聞いたシルトとリヒトは絶句する。

 魔瘴病。
 それは世界に蔓延する病の一つだ。
 人から人に感染するようなものではないため発症する人間の絶対数は多くはないが、発症すれば確実に死に至ると言われている病だ。
 原因も解明されてはいないが、魔物が発する瘴気が原因ではと予測がされているのだ。
 魔物が住まう魔界には常に瘴気が漂っている。
 それを人々は魔瘴と呼ぶのだが、魔物も微量ながらその瘴気を放っているとの研究結果が出ているらしい。
 その瘴気を浴び続けたものが魔瘴病を発症することが多いのだ。
 そのため騎士や冒険者はこの病で命を落とすものもいる。

「間違いじゃないのか?」
「そう思って何度も診たわ! でも確実に魔瘴を感じたし、魔瘴病の特徴である黒い痣が体に浮かんでた。間違いないわ」
「それじゃあ、どうやって……」
「分からないけど、マリアちゃんの前で、あなたは助かりません、なんて言えるわけないでしょ!」
「そうかもしれないけど……」

 今後どうするべきか分からず途方に暮れる三人。
 確実に死を招く病。
 そしてその病に対抗するための薬は市場に出回っていない。
 俗に言う不治の病というやつだ。
 何軒街の薬屋を回ったとしても有効な薬は見つからないだろう。
 三人の間に絶望の空気が流れ始める。
 必ず助けると息巻いていたにも関わらず、どうしようもないという現状がもどかしくてたまらないのだ。
 そんなとき、シルトが思い出したように口を開いた。

「メディーカさん……。メディーカさんなら何か知ってるかもしれない!」
「確かに!」
「そうね、現状頼れるとしたら彼女くらいしか思い当たらないわね」
「行こう! 今は時間が惜しい」

 つい先日スライムの森で偶然出会った女性がメディーカだ。
 自称天才学者を名乗っており、シルトたちが帰り際に受け取った薬草がかなりレアなものだったのだ。
 そんな薬草を所持しているのだからもしかすれば、そんな一縷の望みに掛けるしかないのだった。

 全速力でスライムの森に辿り着いた三人。
 メディーカの家を目指し森の中をひた走る。
 そして、ようやく目的の家が見えてきた。
 歴史的価値があるという見た目には崩壊寸前の家。
 その中にメディーカは一人で住んでいるのだ。

「メディーカさん!」

 少々手荒にドアを開けながら家に入る三人。

「キャア! 何だシルトにロゼにリヒトじゃないか。ビックリするぞ、そんなに急にドアを開けたら」

 部屋の中でゆったりとしていたメディーカが可愛らしい悲鳴を上げながら抗議の声を上げる。

「ごめんなさい、メディーカさん」
「まったく。それで、どうかしたのか? かなり慌てている様子だけど」
「薬持ってませんか!?」
「薬?」

 シルトたちは今自分たちが置かれている状況を説明した。
 メディーカはウンウンと頷きながらしっかりと耳を傾けてくれる。
 そして一通り話しを聞いたところで、

「要するに、魔瘴病を治したいということだな?」
「はい。どうにかなりませんか?」
「三人は魔瘴病が治らないと知っていて言っているのか?」
「知っています……でも何か方法があるんじゃないかって……このままマリアちゃんが一人ぼっちになるのを黙って見ているだけなんてできません!」
「まったく。私を助けたときもそうだったが、お人好し過ぎるんじゃないか? 悪いことではないだろうが、そんなんだと早死にするぞ?」
「それで救える命があるなら、本望です」
「アハハハ! 潔いな! これだから君たちには協力したくなる!」
「それじゃあ……」
「あるよ。魔瘴病を治す方法が」

 メディーカは断言した。
 不治の病とされている魔瘴病を治す術があるということを。
 本当にそんなものがあれば何故国中に広まっていないのか?
 もちろんそれには理由があるようだ。

「本当に治るんですか!?」
「ああ。だけど、その方法を教える前に君たちにはやって欲しいことがある。こんな重要なことをタダでは教えられないからね」
「何ですか?」
「蜂蜜のストックが切れてしまってね。それを取ってきて欲しいんだ」
「蜂蜜……ですか?」
「そうだよ? 知ってるだろ、蜂蜜」
「知ってはいますけど、急ぎですか? 急ぎじゃなければ先にマリアちゃんのお母さんを……」
「まあまあ。その発症した方も、話しを聞く限りではまだ大丈夫さ。魔瘴病の末期になると全身に黒い痣が浮かぶからね」
「分かりました。まずは蜂蜜採ってきますね」

 ということで急遽蜂蜜採取を行うことになった三人。
 ただ、治らないと思われた病気を治す手段があると聞かされ、そのためにも早く依頼をこなそうと意気込む三人であった。
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