魔法の世界から日本へ転生、結構大変なんですよ

第１章

第1話 シスター・セイントオレン

　クロノワ聖神国、聖神教会の一室、白天の間と呼ばれる部屋。
　今まさに現世の柵しがらみから解き放たれ神の御許みもとに、旅立たんとしている老女が一人眠りに就いていた。
　その顔に刻まれた皺の一つ一つに、まるで慈愛を深く刻まれているような、穏やかな表情で眠る老女を静かに見守っている聖神教会の修士たち。
　神の御許へ向かう老女に対し、感謝と祈りを捧げながら静かにその時を見守っていた。

　そんな時、突然辺りに眩い光があふれだし、眠る老女ことシスター・セイントオレンその人を、あっという間に光が包み込んでゆく。

「あら？ ここはどこでしょう。やっと天に召されましたか」

　《シスター・セイントオレン、残念ながらまだ天に召されておりませんよ。
　それどころか返答次第では、今後しばらく予定もありません》

「まあそれは、私の信仰が不足だったからなのでしょうか？ 」

　《いいえ、そうではありません。これから創造神様からのお言葉を告げます。
　その返答次第でこの先の運命も大きく変わります。無論決めるのは貴方です》

　シスター・セイントオレンは、神の使いだと名乗る天使から、ここではない文明の進んだ異世界で、貧困と理不尽な大人たちから虐げられている神の子らを、救う手助けをして欲しいと神託を受け取った。
　そして考え迷う事なく異世界への転生を受け入れていた。

「天使様、神の御心のままにどこにでもお連れ下さいませ」

　《シスター、感謝致します。転生先で困らぬように出来る限りの手配をしておきます。
　転生先は魔法が無い文明世界ですが、シスターは今まで通りの魔法が使えます。
　制限も無く神の子らを助けながら、その中で自由に楽しく生きて下さい》

　神託を告げると同時に元居た白天の間にあふれていた光が収束し、
　気づけばシスター・セイントオレンは永遠の眠りについていた。

　聖神教会の修士たちは、眩い光に包まれたシスター・セイントオレンの魂が、
　神の御許に向かったと誰もが信じていた。
　それが実は異世界に旅立ち、さらに手違いから生まれたばかりの赤子に転生しており、
　これから波乱に満ちた人生を歩むことになるとは、誰一人思いもよらぬ出来事であった。