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第2章

第22話 神が出来ることはオレも出来るゾ

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『奏多、桜、お待たせー 色々分かったよ』

 真琴は二人にゼノバゼロス神との話の内容を伝え、今この星で起っている予定外の災いの元凶や、アム神が閉じ込められている現状を簡単に説明していた。

「俺たちがちょっと移動してる間に、そんなことになっていたのかよ」

「本当ですね。ハルフルでアム神様と別れてからまだ数日ですからね」

 真琴の話を聞いた二人は驚愕しつつ、今後のことを思案し始めるが目の前の惨状が脳裏に焼き付き、まともな解決策を思いつけないでいた。

 そんな二人と対照的なのは真琴とマシュマロの珍獣コンビ、いつもと変わらない暢気で楽しげな雰囲気を醸し出し、奏多に顰蹙ひんしゅくされ桜にまで困惑される始末だ。

「真琴、何暢気にしてんだよ! 目の前のこの状況どうするんだ?
 それに忘れているようだから言うが、今も上空に何かいるんだぜ? 」

 奏多は今も見上げた上空に不気味な咆哮を上げ、真琴が張ったシールドを、今にも壊しそうな勢いでぶつかってくる相手を見つめながら、真琴に緊張感を持てと諭していた。

『んー 大丈夫だよ、俺のシールドは誰にも破られないから』

「たとえそうだとしても、目の前に死人や怪我人がゴロゴロいるんだぜ」

『ああー 忘れてた。ゼノバゼロス様から自由にしていいって言われたんだった』

 真琴はそんな言葉を何気なく呟くと再びバニボー姿に戻り、同時に再び巨大な魔法陣を展開し始めた。

 その魔法陣からあふれ出した光は、マシュマロを癒した回復魔法と遜色なく、慈愛の光を街全体に降り注ぎ始めていた。

 その光景を見た者たちは、天空から天使が舞い降りてくるような錯覚と幸福感を味わい、いまだ上空にいるキメラに怯える心まで、優しく包み込んでいるようだった。

 傷ついて倒れ痛みに呻いていた人も、致命傷とも言える傷を負った者まで、さっきまでの悪夢の光景がまるで嘘のように消えていた。

『とりあえず死んでいない人たちは元通りかな、次は身体の損傷が致命的な人や
 死亡していると思われる人達だね。奏多、桜、後は広範囲で回復出来ないから、
 一人一人治して行くから手伝って~』

「分かった、しかし凄いな今の魔法は、真琴が神々しく見えたぜ」

『んー 何言ってんのさ、奏多だって出来るだろ? 』

「既存の魔法は一応全て使えるが、それは持っている魔力量の範囲内って制限が付いているからな。お前ほどの力は無いから、街ごと回復なんて出来ないし、死んだ人間を生き返らせるなんて無理だ」

「本当に真琴様は凄いです! 今まで恐慌状態にいた街の人間が皆気力を取り戻しました」

 奏多と桜は普段の真琴とは段違いな采配に感動しながら、街の人間に協力してもらい、広場に遺体を安置していく。

 奇跡のように降り注ぐ光が消え去った後に、その祈りにも似た光すら届くことが出来ず、儚く散ってしまった命を前にして悲しみが広場を流れようとしたその時、再び奇跡が始まろうとしていた。

「真琴、準備が出来たぞ。ちょっとかなりグロい遺体もあるがイケそうか? 」

『大丈夫、ゼノバゼロス様が出来ることはオレも出来るのだ! 』

 一見ふざけた物言いだがその言葉には確かな自信が感じられ、真琴の話を聞いていた街の人間は、祈るような気持ちで真琴を見つめているのだが、バニボー姿の珍獣へ向ける視線としてはなかりシュールだった。

 もっとも真琴のバニボー姿を見ているのは奏多と桜だけで、街の人達にはアム神から貰った魔道具の効果で、真琴の姿は人間に見えていたのは言うまでもない。

 そして始まった人体修復蘇生魔法は御大層な言葉の響きはあるが、行使している真琴は実にあっさりと流れ作業のように、魔法をかけて回っていた。

 それでもその姿はやはり何処か神々しく、日本からバニボー姿で転生した真琴を見慣れ始めた奏多でさえ、その姿を眩しく感じていた。

 桜はと言えば大好きなアイドルでも見ている風で、魔法を使う真琴を熱心に見つめていた。

 そんな周りからの熱い期待を一身に背負った真琴が、最後の一人の蘇生を終わらせた時に、辺りを轟かせるような歓声が沸き上がる。

「真琴様! お疲れさまでした。冷たいお飲み物をどうぞ」

『ありがとー 桜は気が利くね。奏多も見習うように、にゃはは』

「はいはいうっせーよ、そして何度も言うけどはどうするんだよ」

 奏多は先程まで真琴の姿を眩しく見つめていた照れ隠しから、ぶっきらぼうな物言いをしながらも、いまだ上空に居座る惨劇の元凶を指さしていた。

『それが上のキメラなんだけどね、アレ以外に2匹いるらしいんだよ。
 ちょいと広域探索魔法ワイドエリアサーチで探索してみてよ』

 奏多はギョッとしながらも広域探索魔法ワイドエリアサーチで探索し、真琴の言葉が真実だと知ると同時に、真琴が食の改善をしているハルフルへ向かっていることに気が付く。

「真琴!! ヤバいぞ! ハルフルへ一匹向かってるぞ」

『!!! オレの鉱山豚がっああああああ~~~』

 シューシューン

 奏多の報告を受けた途端に、真琴は奏多と桜をおいてけぼりにして、肩に乗りっぱなしだった唯一のお供、ウカルガンのマシュマロと共にハルフルへ時空間移動で消えていた。

「行きやがった」
「行きましたね」

 残された二人は、あきらめ半分で真琴の帰りをここで待つことにした。

 真琴の飽くなき食への執着は誰にも邪魔出来ないと、二人は十分認識してはいたが、上空を黒いもやから這い出してきたキメラが視界に入るにつけ、コイツはどうするんだと溜息しか出てこない奏多と桜だった。
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みんなの感想(1件)

マルン
2018.08.30 マルン

すっかり怠け者になった真琴くんも可愛い💕
バニボー姿がチャーミング、奏多さんは気苦労が多いお父さんポジで桜がおっとりお母さんですか?このメンバーにヒロインは登場するのか!気になります!

浦おりと
2018.08.30 浦おりと

なんと!バニボーがチャーミング?フフフッ、マニアックですね。しかしながら、怠け者のお話を読んで頂けて感激です、ありがとうございます。ヒロインはどうでしょうか、作中キャラが勝手に動いたり怠けたりとまだまだ安定していませんので、今後どうなるか作者も楽しみなんです。希望は可愛いヒロイン欲しいものですね。

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