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第2章
第21話 不細工なキメラだよ
しおりを挟む3人プラス一匹で、混乱し始めたフォルトザの街中にある広場で見た光景は、この旅始まって以来の悲惨なものだった。
少し前に街から出陣したと思われた兵士と冒険者の数十人が、バラバラと上空の黒い影からゴミでも舞い散らせるように投げ捨てられていた。
数十メートルも上空から放り出されたら、どんなに腕の立つ人間でも飛べない限りひとたまりもないだろう。
ドドドドッドドシュー ドンドドド ガゴンゴン ザシューー
きゃあ~ ああああああああ~~~~~やめてー
ドドドドッドドシュードドドドッドドシュー
「真琴! あの黒い影は、それに空に不気味な靄が…… 」
まるで地獄絵図の光景に奏多と桜は絶句し、さっきまで広場の噴水で遊んでいた子供たちも、二次被害的に落下してきた人とおぼしき物体と接触や或いは押し潰され、怪我をして身動きが取れないものや、逃げ惑う人達があちらこちらで右往左往していた。
『んー これはマズイかもなー 奏多と桜は、動ける人を大きな建物の陰に誘導しておいて』
「真琴はどうするんだ、いくらお前だって危ないぞ!」
『奏多、あれって何かな? グリ何とかって名前だっけ? 』
「真琴、グリフォンって言いたいんだろうがアレは違うぞ!
あんなのは神話の世界観を描いた本にも載っていない生き物だ、
アム神様に聞くか? 」
『ああ、ダメだ。ちょっと間に合わないからまってて』
珍しく慌てた様子で奏多との会話を打ち切り、真琴は首都フォルトザ全体を覆う巨大魔法陣を展開し始めていた。
その魔法陣が完成すると同時に、虹色に輝くシャボン玉のようなシールドが街全体を覆っていた。
しかし、さっきまで空を覆っていた得体のしれない黒い靄が、真琴が展開したシールドを壊そうと不気味な動きを繰り返しながら、時々その靄から真琴がグリフォンと間違えた生き物の咆哮が不気味に轟いていた。
『奏多、とりあえず大丈夫だよ。 アレの退治の前に人命救助しよ』
「…… ああ、そうだな。でも空から落とされた兵士や冒険者は全滅じゃないか? 」
『…… ん、待って、ちょっとこれは…… やっぱりかー』
さすがに死んだ人間を生き返らせるのはマズイかもと、アム神に交信を飛ばしたが黒い靄が原因か、はたまた自分のシールドが原因か、後者だろうと思いつつゼノバゼロス神に連絡をし始めた真琴であった。
『ああーゼノバゼロス様~聞こえますかープリティ真琴だよ』
(フォフォ、聞こえとるよ、どうしたかの? )
真琴はゼノバゼロス神へ先程までの出来事を伝え、アム神に連絡が取れないことと、目の前の死に行く現状と死した現状をどうするべきか相談していた。
ゼノバゼロスは真琴と話しながら、アム神の現状を透視していたが、その顔に少しの驚きを一瞬浮かべて消し去った。
(真琴、すまんがアム神とは連絡が取れない緊急事態じゃ、
アム神はどうやら邪神に封印されておるようじゃの)
『ええっ! ゼノバゼロス様、俺確かに邪神みたいなの消したけど。
ひょっとして違う奴だった? 俺が失敗したの? 』
いつも、のほほんとやる気を何処かに捨ててきたような真琴が、この星に来て初めて焦りを見せていた。
(違うぞ、真琴が退治したのはその星で生まれた邪神で間違いない。
しかし今その星にいる邪神は別の世界から排除された者ぞ)
真琴はゼノバゼロス神の返答で、ほっと安堵すると共に面倒ごとが大きくなってしまったことに、観光もままならないと悲観に暮れていた。
『ゼノバゼロス様、その邪神は一人ですか? 今俺の目の前で変な生き物が、
俺の虹色シールドを撃破しようと向かって来てるけど邪神に見えない。
大型の翼竜に見えるけど頭はサメで、身体は前世で大人気怪獣だった
ゴラジンに似てる、でも全然かっこよくない、一言で表すなら不気味! 』
(ふむふむ、それは邪神じゃない、邪神が作り出したキメラじゃろうな。
真琴、ワシのサーチによれば同じようなキメラがその大陸にあと2匹いるようじゃ、アム神は神の領域に閉じ込められて、同じ場所に邪神の気配を感じるの)
ゼノバゼロス神より情報をもらった真琴は、広域サーチ魔法と飛行魔法のやり方を直接脳内に映像として送ってもらい、楽しい観光を邪魔する奴らを全て排除するべく、真琴は珍しく闘志を燃やしていた。
『ゼノバゼロス様、今度こそ綺麗にお掃除しますよ! プンプン。
なんでよその星から流れてくるかな、俺の観光中に! ね! 』
(フォフォ、そうじゃの、懲らしめんとならんの。真琴頼んだぞ)
『わかったー ついでにアム神も助けるね』
(そうじゃな、まあ、あやつは最後でよいがの、フォフォフォ)
星を守護すべき神が邪神ごときに遅れを取ったことは、本来ならば罰に値することなのだが、真琴が来る前に散々現地の邪神に悩まされていたことを考えて、ゼノバゼロス神は目をつむることにしていた。
それに、真琴が気にしていたキメラに襲われて傷ついた人々のことも、原種族の星という特殊性から、無条件で肉体と命の再生の許可を出していた。
〈混乱する星の住民の記憶操作は、真琴に助けられたアム神が何とかするじゃろう。
あやつもまだまだじゃの、フォフォフォ〉
真琴との通信を終えたゼノバゼロス神は、自分の部下とも言える神の1柱であるアム神が、別世界の邪神に封印されている事態にも関わらず、自身のペット同様暢気に傍観をきめていた。
もっともそれは真琴たちに絶大な信頼を寄せている証でもあったが、決してペットに対する身びいきではないことを記しておこう。
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