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そのよんじゅうご
背中踏み解消法
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「俺は大変肩が凝っている」
アストレーゼン学園、放課後の職員室内。
一日の業務を終え、帰宅する教師も居る中でヴェスカはぼんやりしながらいきなり話題を吹っかけていた。
真向かいで座っているオーギュスティンはそうですかとだけ返し、先日開催した中間テストの答え合わせに集中しだした。
「いや、聞いて?聞きなさいよオーギュスティン先生」
「何」
「だからね、授業は体動かすけどさ。体育教師だからね?でもほら、デスクワークもあるじゃん」
「はあ。だから何ですか」
氷を思わせるような綺麗な顔のまま、更に無表情で赤ペンを走らせる様子はあまりにも機械的に見えてしまう。
それでも全く気にしないヴェスカは、がたりと机に大きな体を乗り上げて向かい側のオーギュスティンに話しかけた。
「マッサージとか気持ちいいと思うんだよ」
「そうですか。なら行ってくるといいじゃないですか」
やはり全くつれない回答を得る。
うぬぬ、とヴェスカは分かってないな!と呆れた。
「そういう時はお疲れでしょう、揉んであげましょうかとか言わねえの?」
オーギュスティンはようやく手を止めると、顔を上げて眼鏡を直しながら「あのですね」と口にした。
「何故私があなたに肩揉みをしなきゃならないんですか。大体その言葉、下手すればセクハラになりますよ。あれですか、あなたもその辺の判別も付かない老害予備軍ですか?ははあ、なるほどなるほど。別にそこまで言うなら、肩揉みくらいしてあげても構いませんよ。残念ながら私はあなたのように硬すぎる筋肉ダルマの肩揉みが出来る程、力の自信はありませんから木刀やパイプ椅子で背中を叩いてもいいなら」
すらすらと棒読みでまくし立てるオーギュスティンに、ヴェスカは「長いよ!!」と止めた。しかも木刀やパイプ椅子を使うとか怖すぎる。
「んでもって怖い!道具使わなくてもいいじゃん!」
むしろ彼はそんな細い形でプロレスが好きなのだろうか。
「いえ…優しく…して下さい…」
「ではプロに頼みなさいよ。私では役に立ちません」
職員室内は既にほとんどの教師が出払っていた。
夕暮れのオレンジ色に染まり切った室内は、しんと静まり返っている。
「いい方法があるんだよ、オーギュスティン先生。先生みたいに力があまり無くてもいけるやり方がさ」
ヴェスカは無邪気な顔でにっこりと笑った。
「……何?」
そんな彼に、オーギュスティンは怪訝な顔を向けていた。
遅れた課題を済ませたリシェは、病み上がりの体に鞭打ってようやくノートを手に職員室へ向かっていた。課題は寮に戻ってからでも構わないと言われていたが、さっさと済ませたかったのだ。
リシェの熱意に負け、終わるまで職員室で待ってますよとオーギュスティンに言われていたので足早に駆け込む。思ったよりも早く終わったのが救いだ。
職員室の扉の前に立ち、ノックをしようとした。
だが変な声がする。
「…あぁ、そこそこ…いい…」
「ここですか?…というか、大丈夫ですか?」
「いいよぉ。めっちゃ気持ちいい…やっぱ丁度いいんだな、先生の重さ的に。…あー!そこそこ、もっと踏んで」
……?
リシェは首を傾げると、まあいいかとノックして扉を開く。しかし同時に野太い声が室内に響き渡った。
「あぁあ…最高!めちゃくちゃ気持ちいい…!オーギュスティン先生、もっと強く…!きつく踏ん…」
室内の廊下のスペースを使い、うつ伏せに横たわるヴェスカと彼の背中を恐る恐る踏んでいるオーギュスティンの姿がリシェの目の前に広がっていた。
リシェに気付き、オーギュスティンはハッとヴェスカから離れる。変な場面を見られてしまい、めちゃくちゃ焦りを見せた。顔がかああっと熱くなるのを感じる。
ドン引きする生徒に対し、「こっ…これは違うんです!!」と説明した。
「いや…俺は別に…」
リシェは別にと気にしないようにする割には相当引いた顔でノートを突き出した。
「マッサージしてくれと言うから踏んでいただけです!この人硬いから!!」
冷静なオーギュスティンが焦りながら説明するのはかなり珍しい光景だった。彼は助け舟を求めようと横になるヴェスカに、ですよね!?と同意を求めた。
彼は気持ち良さに蕩けそうになりながら、「いやぁ」とへらりと笑う。
「気持ち良過ぎてうっかりイキそうになっ」
「…馬鹿じゃないですかっっ!!?生徒の前でおかしげな事を口走るな!!」
変な感想を遮り、オーギュスティンは怒鳴るとリシェの顔を伺った。彼は後退りしながら「いや、あの」と言う。
「俺、邪魔するつもりは無かったので…で、では失礼します」
大人って怖い。
恐る恐る言いながら、ダッシュで職員室を後にした。
再び静まり返る室内。横に伸びるヴェスカを見下ろすと、オーギュスティンは彼に向けて腹の底から罵倒する。
生徒の前で変な姿を見せてしまうとは。
「あんたは何を考えてるんですかっ!!」
人気の無くなった職員室の窓ガラスが揺れる勢いで彼は叫ぶと、これでは私がまるであなたを踏みつけて喜ぶ変態みたいじゃないですか、と頭を抱え嘆いていた。
アストレーゼン学園、放課後の職員室内。
一日の業務を終え、帰宅する教師も居る中でヴェスカはぼんやりしながらいきなり話題を吹っかけていた。
真向かいで座っているオーギュスティンはそうですかとだけ返し、先日開催した中間テストの答え合わせに集中しだした。
「いや、聞いて?聞きなさいよオーギュスティン先生」
「何」
「だからね、授業は体動かすけどさ。体育教師だからね?でもほら、デスクワークもあるじゃん」
「はあ。だから何ですか」
氷を思わせるような綺麗な顔のまま、更に無表情で赤ペンを走らせる様子はあまりにも機械的に見えてしまう。
それでも全く気にしないヴェスカは、がたりと机に大きな体を乗り上げて向かい側のオーギュスティンに話しかけた。
「マッサージとか気持ちいいと思うんだよ」
「そうですか。なら行ってくるといいじゃないですか」
やはり全くつれない回答を得る。
うぬぬ、とヴェスカは分かってないな!と呆れた。
「そういう時はお疲れでしょう、揉んであげましょうかとか言わねえの?」
オーギュスティンはようやく手を止めると、顔を上げて眼鏡を直しながら「あのですね」と口にした。
「何故私があなたに肩揉みをしなきゃならないんですか。大体その言葉、下手すればセクハラになりますよ。あれですか、あなたもその辺の判別も付かない老害予備軍ですか?ははあ、なるほどなるほど。別にそこまで言うなら、肩揉みくらいしてあげても構いませんよ。残念ながら私はあなたのように硬すぎる筋肉ダルマの肩揉みが出来る程、力の自信はありませんから木刀やパイプ椅子で背中を叩いてもいいなら」
すらすらと棒読みでまくし立てるオーギュスティンに、ヴェスカは「長いよ!!」と止めた。しかも木刀やパイプ椅子を使うとか怖すぎる。
「んでもって怖い!道具使わなくてもいいじゃん!」
むしろ彼はそんな細い形でプロレスが好きなのだろうか。
「いえ…優しく…して下さい…」
「ではプロに頼みなさいよ。私では役に立ちません」
職員室内は既にほとんどの教師が出払っていた。
夕暮れのオレンジ色に染まり切った室内は、しんと静まり返っている。
「いい方法があるんだよ、オーギュスティン先生。先生みたいに力があまり無くてもいけるやり方がさ」
ヴェスカは無邪気な顔でにっこりと笑った。
「……何?」
そんな彼に、オーギュスティンは怪訝な顔を向けていた。
遅れた課題を済ませたリシェは、病み上がりの体に鞭打ってようやくノートを手に職員室へ向かっていた。課題は寮に戻ってからでも構わないと言われていたが、さっさと済ませたかったのだ。
リシェの熱意に負け、終わるまで職員室で待ってますよとオーギュスティンに言われていたので足早に駆け込む。思ったよりも早く終わったのが救いだ。
職員室の扉の前に立ち、ノックをしようとした。
だが変な声がする。
「…あぁ、そこそこ…いい…」
「ここですか?…というか、大丈夫ですか?」
「いいよぉ。めっちゃ気持ちいい…やっぱ丁度いいんだな、先生の重さ的に。…あー!そこそこ、もっと踏んで」
……?
リシェは首を傾げると、まあいいかとノックして扉を開く。しかし同時に野太い声が室内に響き渡った。
「あぁあ…最高!めちゃくちゃ気持ちいい…!オーギュスティン先生、もっと強く…!きつく踏ん…」
室内の廊下のスペースを使い、うつ伏せに横たわるヴェスカと彼の背中を恐る恐る踏んでいるオーギュスティンの姿がリシェの目の前に広がっていた。
リシェに気付き、オーギュスティンはハッとヴェスカから離れる。変な場面を見られてしまい、めちゃくちゃ焦りを見せた。顔がかああっと熱くなるのを感じる。
ドン引きする生徒に対し、「こっ…これは違うんです!!」と説明した。
「いや…俺は別に…」
リシェは別にと気にしないようにする割には相当引いた顔でノートを突き出した。
「マッサージしてくれと言うから踏んでいただけです!この人硬いから!!」
冷静なオーギュスティンが焦りながら説明するのはかなり珍しい光景だった。彼は助け舟を求めようと横になるヴェスカに、ですよね!?と同意を求めた。
彼は気持ち良さに蕩けそうになりながら、「いやぁ」とへらりと笑う。
「気持ち良過ぎてうっかりイキそうになっ」
「…馬鹿じゃないですかっっ!!?生徒の前でおかしげな事を口走るな!!」
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