異世界学園の中の変な仲間たち

へすこ(ひしご)

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そのろく

変態

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 あまり苛々しては体に変調を起こす、と数学担当の教師オーギュスティンは、中庭に設置されている噴水の水の流れを見つめて荒ぶっていた気持ちを落ち着かせていた。
 水の音は癒しにもなる。
 ただでさえストレスを溜めやすく帰宅後は毎回ヒーリングサウンドを延々と垂れ流す程だが、やはり直接見聞きする方が気持ち良かった。
 黙って噴水が吹き上がる様子を立ち見していると、ふと「氷の魔法を出せばさぞ気持ちいいだろうな」と思い浮かべる。
「…氷の魔法?」
 突然湧いてきたその考えに、オーギュスティンは不思議そうに首をひねった。
 何故魔法という言葉が出てきたのだろう。
 疲れているせいかもしれない。
 はあ、と一つ溜息を漏らすと、同時に不穏な気配を感じた。
「いっ…!!!」
 もそりと臀部を這う何かを感じる。
「やあ、オーギュスティン先生。この所毎日噴水を眺めているねぇ」
 爽やかな笑顔。そして爽やかな会話。
 しかし実際は普通に尻を撫でながらこちらの反応を窺ってくる変態が姿を見せる。
「こっ…のっ!!」
 その不躾な手をぴしゃりと振り払い、オーギュスティンは相手を睨みつけて数メートル離れた。
「もう、相変わらず冗談通じないんだから」
「あんたの冗談は犯罪ですよ」
 真ん中分けのボブスタイルの髪を風に揺らしながら、オーギュスティンと同じ位の年齢の男はにっこりと微笑んだ。
 悪気が全く無いのが一番たちが悪い。
「そんな冷たい事を言わずに。君と私との仲じゃないか。それより今日はどうかな?一緒に飲みに」
「私はあなたと一緒に行動するよりはさっさと帰って一人で飲みたいです」
 オーギュスティンは冷たい表情のままで誘いを激しく拒否した。ここまで嫌がるのには、きちんとした訳があった。
 人を酔わせてくるのは一向に構わない。勝手にやっていればいい。一番嫌なのは何もしないからと言ってホテルに連れ込もうとする所だった。
 何もしないと言いながら、何もしない訳ではないのだ。この手の輩は自分は安全だと振っておいて相手の逃げ場を完全に失わせ、事に及ぼうとしてくる。
 前々回は休憩と言いながら引っ張られたので湯を溜めていた浴槽に突き落としてさっさと金を払う事無く帰宅し、前回は入口のエレベーターが開いた瞬間、彼の背中を蹴っ飛ばし閉のボタンを連打した後で自分だけホテルから出た。
 それだけ手酷い目に遭ったにも関わらず、彼は自分を誘ってくる。とにかく諦めが悪かった。
 かなりのマゾに違いない。
「他を当たって下さいよ。何で私なんです、性懲りも無く毎度毎度誘ってくるとか」
「いやぁ…ほらあ、何て言うのかな」
「あまりしつこいと噂になってしまいますよ。私はあなたと噂になんてなりたくありません。変態の仲間入りなんて御免です。それに私達は教師としてお手本にならなければいけないんですよ。それを理解しているんですか、カティル先生」
 変態のお手本にはもってこいだろう。
 カティルと呼ばれた彼は、オーギュスティンを照れ臭そうに見ながらもじもじしだすと、ほうっと恍惚の笑みを浮かべる。
「私達が教職なのは十分承知ですよぉ。何ででしょうか、私は君を見ているととても変な気持ちになってしまうんだよねえ。何でだろうなあ」
 その発言に、激しく拒否感をむき出しにするオーギュスティン。しかしそんな様子を見せても、カティルはほうっと溜息をついてうっとりしている。
 マジものの変態のようだ。
「そうっ、その目。その目がさあ、もう堪らないんだよねえ。眼鏡の奥の冷たい目で見られるととにかくゾクゾクしてしまってさあ。こうっ、滾る物があるんだよねえぇええ」
 興奮気味に言い出してくるので、オーギュスティンは引いた目をしながら後退りする。
 こいつはダメだ、頭がおかしいと近付いてくるカティルをどうやり過ごそうかと思っていた矢先、庭の整備をしていた用務の青年が通り掛かるのを見つけた。
「…ちょうどいい所に、ファブロス君!」
 ファブロス君と呼ばれたガタイのいい青年は、鍬を肩に乗せながら汗をタオルで拭いていた。日焼けした筋肉質の肉体を惜しげもなく披露している。
「何か用があるのか」
「ええ。力持ちのあなたにお願いがあるのです」
 その間にも自分の世界に入り込んでいるカティルは、オーギュスティンの体に這うように背後からべたべたしていた。
 好きぃ、だのもっと見つめてぇ、だの何かがおかしい発言を繰り返している。
「どうやら彼はずっと外に居たので熱にやられたようなのです。私はご存知の通りあまり力が無いのでこの馬鹿をそこの噴水に放り込んでくれませんか?」
 ひたすらオーギュスティンにベタついてくる相手をちらりと見た用務の青年は、何故か腹の底で嫌悪感を感じてしまう。
「任せろ」
 彼は引っ付いていた彼をいとも簡単に持ち上げると、すぐに噴水の中へ放り込んでいた。凄まじい水飛沫が沸き起こる。
 さすがですねとオーギュスティンは呟くと、彼は当然だと仏頂面で答えた。
 そして体に完全に染み付いていた気持ちを吐き出す。
「お前の為なら何だってしてやるぞ、オーギュスティン」
 逞しい彼は冷静そのものだが、自分の主人に忠実な言葉を告げていた。
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